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幕間一 天月六花 後編

 今日も隣のクラスに行って、親友の美月みつきとお昼ご飯を食べていた。相変わらずゆうは学校に来なくて、つっきーとなつはバカ騒ぎをしている。


「ねぇ、二人とも」


 不意に声が聞こえて顔を上げると、そこには花梨かりんが腕を組んで立っていた。


「花梨! どしたの?」


「あのさぁ、一緒にこれ行かない?」


 近くの椅子を引き寄せて座った花梨は、あたしたちに数枚のチケットを見せてきた。


「あ!」


 美月が思わず声を上げる。あたしも気になってチケットをよく見ると、それは悠が所属するアイドルグループ《Vivaceビバーチェ》のコンサートチケットだった。


「えぇっ?! 花梨なんでこれ持ってんの?!」


「実はさぁ、別の友達と一緒に行こうとしたんだけどキャンセルされたんだよねー」


 花梨はぷくぅと頬を膨らませて、合計三枚あるチケットをあたしたちがくっつけた机の上に置いた。


「今週の土曜日だよね? それ。あたし行けるよ! ていうか行かせてください花梨様!」


「ほんと?」


 ぱぁっと花梨の表情が輝く。悠のコンサートは一度行ってみたかったから、いい機会だし断る理由なんてあたしにはなかった。


「ご、ごめん。私……」


 そう切り出したのは美月だった。アイドルに興味があるわけじゃないし、コンサートなんて美月には荷が重いかもしれない。


「……あ、美月は無理だった?」


「えっ? ……あ。う、うん。そう」


 花梨の問いかけに、美月は珍しく言葉を詰まらせながら答えた。


「そっかぁ、残念。初めて一緒に遊びに行けると思ったんだけどなぁ」


「……ご、ごめん。また今度ね」


 唇を尖らせる花梨に、美月は両手を顔を目の前で合わせて頭を下げた。そこまでしなくてもいいのに、してしまう美月はやっぱり面白い。


「うん。そうしよそうしよ!」


 花梨はにぱっと笑って美月の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「あー! ずるいっ! あたしもやるー!」


「ちょっ、えぇ? 二人とも?!」


 慌てる美月はぶんぶんと頭を振ってあたしたちの手から逃れようとする。その動作はあたしと美月が初めて出逢ったあの日からでは考えられなくて、それだけ美月が心を開いた証なのかなとあたしは凄く嬉しくなった。

 しばらくして落ち着きを取り戻した花梨は、「あと二人どうしよー」と腕を真上に上げる。


「ちょうどいーじゃん。あそこに暇そうな男子バカが二人いるし」


 指差すと、たまたまあたしの声を拾った二人が不思議そうな表情でこっちに顔を向けた。





 春のくせに日差しが強くて、あたしは目を細める。そして、歩いているうちに見えてきた建物に息を呑んだ。


「うひゃー、広い!」


 都心という荒波に飲まれつつ辿り着いたコンサート会場には、そんな感想しか出てこなかった。ゆうはいつもこんなに広い会場でコンサートをしてるんだと感心する。


「あー、あっちぃー!」


 そんなあたしの感心をぶち壊したのは、なつだった。つっきーが「うるせぇよ」と夏の頭をパァンッと叩く。


「ちょーいい音したねー」


 それを見た花梨かりんがお腹を抱えて笑っていた。


「ね、六花りっか!」


「だね!」


 花梨が振った話題に笑いながら相槌を打った。

 あたしたちはみんな悠のコンサートに来るのが初めてで、みんな楽しそうにしている。美月みつきはいないけど、このメンバーで来れて良かった。今日は全力で楽しもう。


「あっちぃし、そろそろ中入ろーぜ」


「そろそろって言うほどここにいないけどな」


「いーんだよ細かいことは! そんなんだからつっきーは微妙にモテないんだぞ!」


 ビシッと夏がつっきーを指差す。

 つっきーは怒って夏の頭をもっと叩くかと思ったけれど、いつまで経ってもそうしなかった。


「あ、あれ?」


 夏もそう思ったらしく、ぎゅっと瞑っていた目を開ける。つっきーは、何かを考えているような──そんな深刻そうな表情でここではない何処かを見ていた。


「何言ってんのよバカ夏!」


 代わりにパコンッと花梨が叩いて、彼氏の夏を引きずって先に行ってしまった。

 あたしは後を追おうとして、未だにつっきーがぼーっとしていることに気づいた。二人とは席が隣同士だから後で合流できるはずで、だからあたしはつっきーの傍にいることにした。


『そんなんだからつっきーは微妙にモテないんだぞ!』


 夏の台詞があたしの脳内をぐるぐると回った。

 そんなことないよとすぐに否定してあげたら良かったのかもしれない。けどあたしにそんな勇気はなくて、だから今でもつっきーとこんな関係なのだと思い知った。


「……あれ?」


 見慣れた後ろ姿が視界に入って、じっとその人を見つめる。その人の後ろ姿は美月にそっくりで、あたしは目を丸くした。


 美月がここにいるわけない。だって、美月はチケットを持っていないから。


 服装だっていつもと雰囲気が違っていた。黒と白しかない色のスラッとした服じゃなくて、淡いピンク色のカーディガンを着ているのだ。鞄だって、黒いバックじゃなくてブラウンの春らしいバックだった。


(……気のせいだよね)


 あたしはそう納得して、つっきーを見上げた。


「つっきー、そろそろ行こ!」


 なるべく明るく、そう心がけて笑顔を見せる。


「おわっ! あ、天月あまつき? あの二人は?」


 つっきーはきょろきょろと辺りを見回している。気づいていなかったのだろう。


「つっきーがぼーっとしてる間に先に行っちゃったよ」


「えっ! マジか……悪い」


「なんで謝んの? いーからほら!」


 あたしよりも大きなつっきーの手を握り締めて引っ張った。あたしよりも温かくて、緊張する。

 つっきーは何も言わずについてきてくれた。あたしはそれだけで充分だった。





 あたしとつっきーはチケットに書いてあった席へと向かう。そこには未だに言い争っているなつ花梨かりんがいた。


「あっ、良かったついた! ね、つっきー!」


「この人混みだもんな……。マジで奇跡だ」


「あ、六花りっか! つっきー! 良かった来れたんだ!」


「おう。合流成功」


 ニカッとピースサインを出してつっきーが笑う。


「良かったなー。迷子になんなくて」


「だから誰のせいだと思ってんのバカ夏!」


「俺のせい?!」


 花梨はぷいっとそっぽを向いて「あんたのせいっ!」と言った。


「反省しろ柏原かしわばら。この調子だとまたフラれるぞ」


 つっきーがニヤッと口角を上げる。あ、さっきの仕返しだこれ。


「ぎゃんっ?!」


 夏が犬みたいな声を上げて頭を手でおおった。あの夏のどこにこんな声が出る声帯があるのか。……謎だ。


 屋内の会場は段々と暗くなっていって、みんながドキドキワクワクの雰囲気を出す。この素敵な雰囲気はゆうたち《Vivaceビバーチェ》の人にも届いてるのかな。届いてたらいいな。

 会場全体が暗くなった頃、アナウンスが入る。それは開幕を告げていて、ステージが淡い光に照らされるとイントロが流れた。


「あれ?」


 あたしと花梨はぱちくりとまばたきをする。つっきーと夏はそんなあたしたちを不思議そうに見て、曲に耳を傾けた。


「やっぱそうだよ! これ新曲だ!」


「だよねだよね! あたしもそう思った!」


「マジで?!」


 夏が身を乗り出して目を凝らす。あたしも夏と同じように目を凝らした。


 ──パンッ!


 音が鳴ってメンバー全員がステージに飛び出す。……何故か、全員マイクを持って。


「ッ?!」


 ぱくぱくと、あたしは自分の口を開けたり閉めたりした。それは、隣にいた三人も同じだった。


「ゆ、悠、歌ってんのか?」


「見ればわかるでしょ、バカ」


 花梨が夏の脇腹にドスッと指先を入れる。奇抜な声を上げて夏が崩れ落ちかけた。

 あたしもつっきーもこの光景にはいつも何か一言言うのだけど、今はただただステージに釘付けになる。確かに見えた悠の表情は、晴れ晴れとしていた。





 コンサートが終わっても、あたしたち観客の熱はまったく冷めなかった。

 アイドルってすごいなぁ。あたしは息を吐いて鞄の中にしまっていたスマホに触る。


「……ん?」


 幾つか通知が来ていたけれど、あたしはその中の一つに視線を止める。


ゆう?」


 メッセージを開いた。コンサートが終わった瞬間に送ったのかな。何をそんなに急いでいるのだろう──そう思って、そこに書かれていた内容に衝撃を受けた。

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