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1話

乙女ゲームへの転生ものではありますが、多少変則的なところがありますので、読みたかったのと違うと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、読んでいってくだされば嬉しいです。


 私、高坂(こうさか)あかりは、昔からふとした時に奇妙な既視感を覚えることが多かった。それは、初めて食べる料理の味だったり、初めて習う授業の内容だったり、珍しいパターンだと初めて会う人。そういった初めてが初めてだと思えない事が何度もあった。

 気のせいだと思うには頻度が多い既視感に違和感はあったけど、それで困るようなことは無かったから、今まではその奇妙な既視感について深く考えるようなことはして来なかった。


 ……もし、ちゃんと考えてたら、今こんな思いをしなくても良かったのかな? ううん、きっとどうする事も出来なかった。

 だって私の現実は、泣きたくなるくらい理不尽で、バカバカしいくらい非現実的なものだったから。


 ◆ ◆ ◆


 気付くきっかけは幾つも有ったけど、決定的だったのは転校してきた幼馴染だった。

「初めまして雨宮(あまみや)静流(しずる)です。親の転勤が多くて、僕もこれまでは転校を繰り返してきたんだけど、今度は海外への転勤が決まったんだ。それで英語が苦手な僕はこれを機に日本に残って一人暮らしをすることにしたんだ。それで折角だから十年振りに生まれ故郷のこの町に戻って来た……んだけど、この町も随分様変わりしていて驚いたよ。もし良ければ案内してくれると嬉しいかな。そんな訳で、至らないところばかりだと思うけど、これから宜しくね。――特に女の子」


 先生に促されて自己紹介をする幼馴染は、やれる人を激しく選ぶような挨拶を厭味さを感じさせずに笑顔でこなす、所謂爽やか系のイケメンになっていた。そんな期待以上の転校生の登場に派手なグループの女の子たちは黄色い声を上げて、一部の男子は冗談交じりに僻んだり囃したりしていた。

 教室中が転校生なんて珍しい存在にどことなく浮かれる中、私は酷く気分の悪くなる既視感に襲われていた。


 いつか見たゲームのワンシーン、アニメ調の一枚絵と現実の光景に差異は有ったけど、私は確かにこの光景を知っていた(・・・・・)

 思い出した、思い出してしまったのは、きっと忘れていた方が幸せだったの記憶。だって、思い出さなければこの世界がゲームだなんて知らずに済んだもの。




 私はこれ以上ここに居て、ゲームのシーンが現実に起こるところを見ているのに耐えられなくて、教壇に立つ先生に声をかけながらガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。イキナリの行動に教室中の視線が私に集まるけど、今はそんな事を気にしていられるような心の余裕はない。

「いきなりどうした高坂? 雨宮に質問なら後で――」

「体調が優れないので保健室に行ってきてもいいですか?」

 先生が喋り終わるのすら待たずに、一息に用件を告げる。

「なに? 確かに顔色が悪いな。よし、一限目は立川先生だったな、俺の方から事情は話しておくからすぐに保健室に行って来い。おい誰か高坂に付き添って行ってやれ」

 私の顔色が余程酷いことになっているのか、先生は二つ返事で私の保健室行きを許してくれた。


「あの、それなら私が一緒に行きます」

 そう言って真っ先に手を挙げてくれたのは、親友の倉石(くらいし)美尋(みひろ)だった。引っ込み思案な彼女には、教室中の注目が集まるような状況で声を上げるのはかなり勇気が必要だった筈で、それだけ私のことを心配してくれているのだと分かる。――だけど、

「倉石か、そういえばお前は高坂と仲が良かったな。よし、たの――」

「一人で行きます!」

 先生の言葉を遮って大きな声を出した私に、遮られた先生や話していた美尋だけでなく、教室中の皆も驚いたような視線を向ける。

「一人で大丈夫なのか? 結構きつそうだし、倉石に付き添って貰った方がいいんじゃないか?」

 私を心配して言ってくれるのは分るけど、今は私の言うとおりにさせてほしい。

「保健室ならベッドもありますし、それまでなら一人でも大丈夫です」

「……分かった。だけど無理するなよ」

「はい」

「本当に大丈夫? やっぱり私も付いて行った方が――」

「失礼します」

 私は、心配げに私を見つめる美尋から逃げ出すように教室を後にした。




 保険医は他の場所に用でもあったのか、薬品の独特の匂いがする保健室には、私が来るまで誰もいなかった。

「……我ながらなんて酷い態度。立場が逆ならすごくむかついてるわ。……後で、ちゃんと謝らないと」

 制服に皺が付くのも気にせずにベッドに転がりながら、教室での自分の行動を思い返して自己嫌悪する。とても心配してくれている親友に対しての態度じゃなかった。


「……だけど、どうしたらいいのかわかんないよ」

 絞り出すようにそんな言葉を吐いて、親友の事を思う。初めて会ったのは中一の時、席が近かったのがきっかけでよく話すようになって、それから友達になるのにそう時間はかからなかった。昔から体を動かすのが好きで、大雑把なところの有る私と、本が好きで几帳面な美尋、性格も趣味も全然違うけど不思議と一緒に居るのが心地良かった。そして私たちが親友になるきっかけ、世間からすれば些細な出来事で私たちからすれば大きな事件。漫画やドラマみたいに劇的な事なんて無かったけど、どれも私たちの大切な思い出。――なのに、

「……倉石美尋、主人公の親友で図書委員会に所属、気配りの出来る優しい女の子だけど、自分に自信が無く引っ込み思案」

 そんなゲームの設定(・・・・・・)を呟き、感情に任せてギリ、と歯が軋むほどに噛みしめる。

「私たちが親友になったのは、私がゲームの主人公だから? そういう設定だから? この世界がゲームだから!? ふざけないでよ!! 私たちの思い出も! 美尋の事も! 私自身の事も! そんな下らないモノに決められる謂れなんか無い!!」

 不条理を口にする度に、込み上がる感情に声を抑えられなくなって叫びを上げる。

「ふぅぅぅ」

 だけど、喚いたところでどうにかなる訳でもないことくらい私にだって分かってる。だから今は、やり場の無い怒りごと吐き出すように、大きく息を吐いて何とか気分を落ち着かせる。

 それに、今居るのは閉め切ってこそいるけど防音性が高い訳でも無い保健室なんだから、大きな音を出せば近くを通る人には聞こえてもおかしくない。

「ま、さっきのが誰かに聞こえてたとしても、精々頭のオカシイやつが何か叫んでるって思われる位でしょうけど。……あれ、結構まずくない?」

 前世やゲーム以前に、風聞的な意味で肝を冷やす私だった。

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