Episode.6(前編)
「そうそう、コウテイショってなんだ?」
「そうね、肯定書について話しましょうか、もともと、この世界はある一定の書物を中心に動いているとされている。その書物が肯定書である。最も有力な書物が“ソロモンの肯定書”なんだ」
鋼鉄の扉の前で止まる。
「ここだ」
自動的に重い鋼鉄の扉が開く。
中に入ると、綺麗に整頓され、部屋中に詰め込まれた、だいたい1万冊はあるであろう蔵書の中に小さな明かりの下で一人の少女が本を読んでいた。
「私は、こっから先へは入れないから。一人で行ってこい」
「言っておくが、彼女には触れるな」
背中を押されて、部屋に入れられる。
本の谷間を歩いてゆく、うず高く積まれた本は自分の身長ほどあった。
程なくして、その少女のもとへつく。
ドレスに身を包んだ銀髪の少女は、口を開いた。
「ようこそ、石橋、達也さん」
透き通るようなとぎれとぎれ言葉を紡ぐ美しい声が響く。
「なんで、僕の名前を?」
本を指を指す。
「私は、ソロモンの肯定書、だから」
「肯定書に僕の名前がそこにあるの?」
彼女はただ頷く。
「君は、英雄、だから。この、世界を、救う。英雄、だから」
少女は手を差し伸べる、その手を触ろうとした時、あの言葉が思い出した「彼女には触れるな」と言うほのかの言葉を。
「灰の、魔女、ほのかに、言われたのね」
「灰の魔女?」
「そう魔女なの、ほのかは、その、体に、物語の断章を、取り入れて、魔女に、なった、存在なんだよ、彼女は」
「魔女……、だと」
「まっ、彼女は、好きで、魔女になった、わけ、じゃないんだよね」
彼女は本を閉じ、すぐ横に積み上げる。
個人を、これ以上、晒すのは、私の、趣味、じゃないから、言わないで、おくよ。詳しく聞きたいなら、彼女から、聞くといいよ。そして……」
彼女は、それ以上何も言わなかった。
出ていけ、みたいな雰囲気になったので、その部屋から出ていくことを決めた。




