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【名も無きオヤジは今日もゆく】
俺は名も無きオヤジだ。
まあ、一応名はある。社会的に過度の期待を押し付けられない程度にはという意味で。
人はそんな俺を、あのとかちょっととか呼ぶ。
そんな俺は会社員だ。そして名も無き仕事を颯爽とこなす世に言う窓際族だ。
名も無きオヤジに世は世知辛い。
公道で前を歩くリーマンの吸ったタバコの灰がダウンジャケットに舞い、運悪く火の粉つきに愛されたりする。
俺と同じようなオヤジに競馬場で妙に付きまとわれたりする。
飲み屋で因縁を付けられたりする。
この間など。
「おいこれ、ちょっと千枚コピーしてくれんか」と上司に言われた。
言われた通りやった。
怒られた。
「うちの事業所でこれが千枚要る理由がどこにあるんだ、考えろ。キミを抜いて5人しかいないんだぞ、うちは」
なるほど、それも一理だ。
「それに輪転機使え馬鹿」
なるほどそれも一理。
そんな俺は今日もゆく。
名も無きオヤジは今日もゆく。
完