僕と彼女の二日間
僕は、モテない。
はっきりそう言える。
何故か。今、僕の隣に誰もいないことが全ての証明だろう。間違いないぞ。
だからこそ、とんでもない間違いを犯してしまった男を見て、是非笑って欲しい。
それは暑い夏の日のことだった。
気まぐれなゲリラ豪雨の中、僕は傘を差しながらスーパーへと歩いていたんだ。
ふと、背中に違和感を覚えた。
そのまま帰宅した後に控えていたのは、手を洗おうとしていた僕の背中から洗面所で飛び立った、一匹の雌蝉だった。
僕はその刹那に、確かに運命を感じたんだ。
だって、初めて女性からアプローチをしてもらったんだから!
「僕と、付き合ってください!!」
僕は宙を舞う蝉に土下座しながらお願いする。当然言葉は通じない。そして、僕と彼女では脚の数も異なるのだ。彼女はパタパタと音を鳴り響かせるだけだった。
「何も言わないということは、肯定と受け取ってもいいかな?」
僕の歪んだ愛情が、口から漏れ出た。
「──ほら、樹液だ」
僕は彼女を連れ出して、近所の公園へ連れて行った。そして雄蝉が群雄割拠する樹木へと彼女を押し出す。彼女が寝取られるかもしれない。でも。それでも僕は送り出すのだ。
何故なら僕の家はRC鉄筋コンクリート造であり、どこを吸っても樹液なんて出てこないからだ。
ジジジ、と言いながら雄蝉は僕だけの彼女に一斉に向かう。だから僕は用意していた網を容赦なく振るのだ。
「人間を舐めるなよ。彼女は僕だけの存在だ」
僕は彼女を連れて帰る。今日も僕らの愛の巣へ。
だが、彼女は何故か洗面所がお気に入りみたいだ。天井に張り付いて僕を見たきり微動だにしない。心配しなくても、僕は他の雌に手を出したりしないよ。
そこから怒涛の日々が続いた。彼女を守るためにありとあらゆる手段を用意した。樹液ゼリー、快適な気温を誇るリビング、蝉の鳴き声が鳴り響く動画再生とか。
ただそれでも、その時はやってくる。
ある日、彼女が僕の枕で仰向けになっていた。
僕はそれを見た瞬間に、全てを後悔したんだ。
やはり、人間の僕ではなく、雄の蝉と出会わせていれば良かったのかもしれない。
なんで、あの時自分のことを優先してしまったんだ? 馬鹿なのか僕は。
そんなんだから、僕は誰一人幸せになんか出来ないんだ。
僕は泣きながら近所の公園へ向かう。彼女を手のひらに乗せながら。
確かに、僕らは全然違う種族同士だけど。それでもこの二日間で得られた思いは、間違いのない事実だ。
だから。これからは相手を優先して向き合っていこうと思う。
僕が彼女を埋葬しようとしたその時、六本の脚のうちの一本が僅かに動いた。
それは、確かに、僕への感謝と愛情だと、今でも思っている。




