魔女は、弟子の愛を拒絶できない。【2000文字】
「お師匠様、好きです」
「はいはい、300も上の魔女を口説かない」
「僕と結婚してください」
「ガキには興味ない。ほら、手ぇ動かせ〜」
「僕もう成人しましたよ…」
森で迷っていた子どもを保護して家まで帰したのは、確か15年くらい前だったと思う。
その子どもは弟子にしてくれと騒いだが、面倒ごとはごめんだと断った。
すぐに視認を歪める魔法をかけて、小屋の場所をわからなくしたのに、3年後に見つけ出された。
だから、仕方なく弟子にしてやった。
その拾ってやった坊ちゃんは、最近やたらと結婚してくれと言う。
何をどう血迷っているのやら。
「はじめて会った時から、一目惚れでした!」
「おま、それお前が、5歳くらいの時の話じゃねーか。ませガキだな〜」
「お師匠様のそばにいたくて弟子入りしました」
「視認魔法をかけられた時に諦めろよ、普通にこちらからの拒絶だろ」
「うっ…。だって、お師匠様ほど、かっこよくて美しい人見たことがありません!」
「狭い世界だねぇ」
ケタケタ笑いながら、注文のあった薬の鍋を掻き回す。
「本気なのに…」
「だとしたら、お前の本気は子どもすぎる。お前は何者だ?」
「魔女の弟子です」
「人間だろ。たった数十年しか生きない人間の本気なんてたかが知れている」
魔力の圧を瞳に込めてキッと睨みつけると、弟子は、うっ、とたじろいだ。
はあ、これだから人間は嫌なんだ。
「お師匠様、街に材料の調達に行きませんか?」
そう言って珍しく私を馬車に乗せたと思ったら、着いた先は弟子の屋敷だった。
「…街は?」
「こうでもしないと来てくれないと思って、すみません…」
「帰る」
「お茶だけ!お師匠様の好きな茶葉を手に入れたんですっ!」
「…飲んだら帰るからな」
「はいっ…!」
弟子はとびきりいい笑顔で、嬉しそうに返事をした。
結局、私はこの弟子に甘いのだ。
その瞳の奥が怪しく光っていた気がするけど、無視してしまったのが悪かった。
「なっ、なんだこの部屋は…!?」
通された部屋に入った途端、魔力の制御が難しくなった。
バッと振り返ったが、弟子が熱を帯びた顔でこちらを見ていて、恐くなった。
「何をしたんだ…」
「ほんの少し部屋から出られないように細工してあるだけです」
「お前…」
「お師匠様、褒めてください!僕、ここまで魔法が上達したんですよ!」
弟子は手を広げて、愉快そうに笑った。
「何年もかけてようやく完成しました!これでもうずっと一緒にいられます!」
うっとりした顔で近づいてくると、私の手を取って、指先にキスをした。
…昔、違う人間に口説かれたことがある。
結局は同じ時間を生きられない魔女との未来はなかったことにして、普通の人間と結ばれた。
「お前、自分が何を言っているのかわかっているのか…?」
「お師匠様の仕事に必要なものは揃っているので、今まで通りの生活も可能です!」
「…魔女は、長生きなんだ。お前がさっさと死ぬのが目に見えている」
「そんなの禁忌魔法を使ってでも、寿命を伸ばすので問題ありません」
「お前、頭おかしかったんだな…」
「そんなのとっくに気づいていたことでしょう?何度でも視認魔法を使って行方をくらませればよかったし、僕を弟子に取らなければよかった。それでも僕から逃げようとしなかったのは、お師匠様ですよ?」
図星だった。
いつものように言い返せなくて、次の言葉が出てこない。
弟子は微笑みながら、私の頬に触れた。
肩が跳ねたけれど、後退りもできなかった。
「お師匠様が、本当は寂しそうにしているのも知っていましたよ。僕のことを憎からず思っていてくれているのも」
まるで子どももあやすように頬を撫でられて、ムカつく。
「…お前のことは弟子としてしか可愛がっていない」
「ははは、十分ですよ!お師匠様は誰にも心を明け渡さないように必死ですもんね!可愛がられているのは、僕だけは心にいる証拠です!」
「…」
「お師匠様、出会ったときから僕の心臓はあなたなんだ。あなたがいなければ今この瞬間も死んだも同然で、あなたさえいたら僕はどこまで生きられる」
「…バケモンかよ」
「そうですよ、魔女に陶酔している化け物です」
弟子はニッコリ笑って、許可なく、おでこ、瞼、頬、鼻先にキスを落としてから、唇も重ねてきた。
拒否するのを忘れていたら、何度も唇にされた。
…跳ね除ける魔法をぶっ放してやりたいのに、うまく魔力が使えない。
「お師匠様、僕のことガキだって言うけど、恋愛に関してはかなりうぶですよね」
「はあ…!?」
「顔真っ赤、可愛い」
弟子の顔がニヤリと歪んで、また顔が近づいてきたかと思うと、唇を舐められた。
「ねえ、お師匠様。もう諦めて、僕に愛されてくださいよ?」
それはプロポーズのようだったが、実際はこの部屋から出る手段がない。
こんなにも魔力が使いにくいのに、魔法を使うのは怖い。
…これも弟子のせいにして、ここにいるための口実なんだろうと、認めたくない。
「だってお師匠様、僕から離れられないですもんね?」
了
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