約束
夕方、俺たちはうちで最終確認をしていた。
小夜は上機嫌で、いいものができた!と喜んでいた。
時計を見ると十六時。
花火の開始は十九時、あと三時間くらいか。
「少し早めに行って、屋台でも回るか」
そう言うと、小夜は、パッと顔を明るくした。
「いいね!この前のお祭り、取り戻さなきゃだし!
じゃあ私、一旦家帰って浴衣に着替えてくるから!」
勢いよく立ち上がる小夜に
「また寝過ごすなよ?」と、声を掛けると
「今日は約束してるから。寝過ごしたら日向のせいだかんね」
と、意味のわからない理屈で責任を押し付けてくる。
「またあとでね!」と、部屋のドアに手を掛けたところで、小夜は動きを止めた。
振り向かず、少しだけ間を置いたまま口を開く。
「あのさ……、今日待ち合わせでもいいかな?」
「ん、なんで?あとでお前んち行くけど」
そう返すと、小夜は少しだけ言葉に詰まったあと
「たまにはさー、そういうのも良くない?」
と無理に明るい声を出す。
笑ってはいるけど、どこかぎこちない。
「ん、まぁ、別にいいけど」と、返すと
「じゃあ十八時に、神社のさ、池のとこで待ってるから……遅れないでね」
それだけ言うと小夜は部屋を出ていった。
なんだったんだろうと思いながら横になる。
傍らに置かれた少し分厚くなった自由研究のノートをパラパラとめくる。
伝えられなかった想い。
最後に一度だけ交わされた言葉。
「伝えたい想いか……」
脳裏に小夜の顔が浮かぶ。
この関係も、そろそろどこかで区切りを付けなけなきゃいけない。
そんな考えがよぎって、急に落ち着かなくなる。
俺は自然と熱くなってきた顔を誤魔化すように、腕で目元を覆った――その瞬間。
どたどたどた……!
床板を踏み抜きそうな音がしたと思ったら部屋のドアが勢いよく開く。
「日向!日向!小夜ちゃんと会った!?小夜ちゃん!ねえ!?」
母さんが物凄い剣幕で今まで見たことのない顔で部屋になだれ込んできた。
息が上がって、声も裏返っている。
「な、なんだよ母さん!」
そう言い返しても。全然聞いておらず
「最近会った!?いつ!?ねえ、最後にあったのいつなのよ!?」
言葉が噛み合わない。
「だから落ち着いてって、さっき会ったよ、一緒に部屋に――」
言い終わる前に、母さんが俺の腕を掴んだ。
やけに力が強くて、そのまま引きずられるようにリビングに連れていかれる。
リビングのテレビ画面の端に赤い帯が流れていて、ニュース速報を流しているようだった。
母さんはそれをみるなり崩れ落ちるように泣き出した。
何をそんなに――と思ったのに、視線が画面から離れなかった。
アナウンサーの声が、遠くで鳴っているみたいに聞こえる。
『繰り返します。先日発生した土砂崩れの復旧作業中に――』
意味が頭に入ってこない。
『――巻き込まれたと思われる遺体が発見されました』
そんなことが、あるわけが、ない。
『持ち物から判明した身元は、蒼堀町在住の高校生、小清水 小夜さんとみられ――』
母さんの泣き声が大きくなる。
俺は立ったまま、動けなかった。




