この町に昔からあるもの
「今年の自由研究どうするかな」
日向が自販機で買ったジュースを飲みながら言った。
私たちの高校は、今日から夏休みに入っていた。
「なんで高校になっても自由研究なんてあるんだろうね」
「しょうがねえよ、この地域。中学も高校も1つずつしかねえしな
生徒も先生もそのままスライドしているようなもんだ」
私たちが住んでいるのは蒼堀町という、山に囲まれた小さな地域だ。
駅はひとつ。
住民はそこそこいるけど引っ越してくる人も出ていく人も少なく、顔ぶれは大体決まっている。
昔から知っている人ばかりで、学校も行事も、時間の流れまで
なんとなく同じ場所をぐるぐると回っているように感じる。
「小学校の頃のやつとか、覚えてる?」
「覚えてる、覚えてる。意味わかんない粘土とか作ったな」
「題名から想像つかないようなやつね」
「あと朝顔の観察日記な」
「途中で枯れたやつ?」
「そう、それ。『成長の記録』って書いたら怒られたやつ」
思い出すたびに、どうしてあれで提出できたのか不思議になる。
今となっては全部が笑い話だ。
そんな他愛のない会話をしていると、境内の端にある石柱が目に入った。
『想慕里神社』
「そういや、この神社ってなんで漢字違うんだろうね」
「蒼堀と?」
日向は思い出すように考え答える。
「なんだっけな……昔の社会科見学で聞いた覚えがあるな、たしか神社の言い伝えがどうとか」
「想慕里……なんかロマンチックな雰囲気しない?」
「完全に字面だけで判断してんだろそれ」
「神社に何か書いてあるかも」
と私は御社殿の方へ駆け出す。
「おい、待てって」と、背中越しに日向の声が聞こえる。
私は振り返らずに軽く手を振った。
御社殿の隅には、神社名の由来を記した古い石碑があった。
文字は掠れていて、ところどころ読めない。
「えーっと……昔、この里で……想いを……?」
声に出して読んでみたけど、ところどころが読めない。
「……なんて?」
追い付いた日向が後ろからのぞき込んでくる。
「うーん、誰かが誰かを想ってました、くらいしか分かんない」
眉をひそめながら答えると「雑だなー」と、日向が呆れ顔をした。
もう一度、石碑と御社殿を見上げる。
初詣も、夏祭りも、待ち合わせも、ダラダラしてる時も。
気付けばみんな当たり前みたいにここでやってるし集まっている。
まぁ、この町に他に集まれるような場所があまりない、っていうのもあるけども。
「……ねえ日向」
「なに」
「今年の自由研究、これにしようかな」
「これって……町の名前の由来?」
小さい頃から来ている場所で、なんだかんだお世話になっている場所だ。
「ちゃんと調べてみるのも、ちょっと面白そうじゃない?」
理由としては多分そんなもので十分だ。
長年通ってきた場所だからこそ、調べてみるのも悪くない。
私たちは二人でこの由来を調べることにした。




