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第七話「星にいた古代人」

増加し続ける水。体が浮き、徐々に壁から、その窪みから離れている。


「算段はあるのか」


キースはベアトリスの手を握り、そして一人でに泳ぎ始めるジゼルに問う。彼女は

頷いた。


「大丈夫。ベアトリスさんをお願い」


水の中に潜り込んだジゼルは窪みに嵌められた宝珠を目指して泳ぎ出すも中々

進めない。進めない上に息も続かない。息継ぎをすれば更に波で押し戻され、また

同じ距離を泳がなければならない。キースはジゼルに全てを任せ周囲を確認する。

天井が迫っている。元居た大地が何処か分からないほどに水の嵩が増している。


「こっちだ。解除されれば一気に俺たちは地面に落ちる」

「ジゼル嬢の事は良いのかい」


キースに手を引かれ、波を躱しながら泳ぐベアトリス。彼女はジゼルの身を案じる

ような言葉を口にした。助手であるキースはジゼルの身を案じるのは当然だと

思っていたが、冷たい態度に感じられる。


「俺が行かずとも別の人間がアイツに手を貸す」


キースの眼が捉えたのは何者かが泳いでいる姿だった。ジゼルにしては大柄な

体躯。女性では無さそうだ。ジゼルは彼の存在を察知していたのかもしれない。

息継ぎもままならず、意識を手放しかけるジゼルの体を誰かが抱き上げ、一度

水上へ上がる。


「無事か」


水に塗れ、服もビショビショで肌に張り付いている。贅肉など一切無い絞られた

肉体の持ち主。かなり長い時間、潜水し続けていたが彼はまだまだ余裕があった。

大きく、ゆっくり深呼吸をして落ち着きを取り戻したジゼルは彼の顔を見た。

彼だ。不意に脳裏に見えた一瞬。キースよりも大柄な男が来る瞬間だった。


「なんでここに」

「剣聖との交渉、と言っておく。それで、お前は何がしたい?」


シリウスと名乗った男は剣聖アゼルと顔見知りであり、彼と何かしらの交渉を

行った。交換条件としてアゼルが彼に提示したのは知人であるジゼルたちの

助力だった。その代わりにシリウスが彼に何を要求したのかは定かでは無いが

ジゼルが彼の心を覗いた瞬間に顔が引きつった。理性的に振る舞っているが

その本心は本能のままに動く獰猛な獣のそれである。


「…あの宝珠を窪みから外します。いざとなれば、壁を破壊してください」

「良いのか」

「宝珠さえ窪みから外れれば、それで良いから」


シリウスは下に目を向けて距離を目測する。


「さっさとやるぞ。無理なら早く言えよ。俺が壊してやる」


大きく息を吸い、再び水の中に潜る。何に反抗しているのか、水の勢いが

増しておりジゼルの力では前に進むことは出来ない。彼女の体をしっかりと

ホールドし、シリウスが水の流れに逆らう。苦しむ様子も無く、疲れた様子

すらも見られない。宝珠の前まで辿り着いた。ジゼルはそれに手を掛ける。

接着剤で固定されているかのように動かない。水の中では腕に力を入れる

事が出来ない。やっぱりか、ジゼルはダメ元で宝珠を外そうとしていた。

不可能を承知で行ったのだ。そうとなれば、ジゼルはシリウスに合図した。

彼が放った一撃は軽々と壁を破壊した。それによって一気に水の嵩が減り、

天井に近い高さから全員が落下する。いざとなれば自分が、と考えていた

シリウスだったが杞憂だった。全員が地面に叩きつけられることは無かった。

黒い靄によって編まれた網がクッションとなって衝撃を吸収した。


「ありがとう、キース」


ゆっくりと着地すると全員が一所に集合した。


「君がいると厄介事ばかり起こるね」

「俺がいようがいまいが、起こっていた事だろう」


シリウスとベアトリスは互いに顔見知りだったようだ。それもかなり深い

関係だ。シリウスはジゼルに声を掛けた。


「お前が回収しろよ。俺には無用の長物だから」

「?」


ふわりと落ちて来た宝珠はジゼルの前に浮かび続ける。彼女が手を差し出すと

宝珠は二つに割れて形を変える。その際にアガスティア大陸では見られない

未知の文字の羅列が空間に溢れ出した。博識なキースも、考古学について知識を

持っているベアトリスすらも文字の解読どころか何時代の、何処の国の文字か

特定することすら出来ない。だがこの文字は確かにこの星で扱われていた。

この星が()()地球と呼ばれていた遥か、遠い昔に。

星の真名を現代に生きる人間が知る由も無い。だがジゼルはその名前に何処か

懐かしさを感じていた。その星で語られる神々の歴史、物語。今や語られて

いた神々は力など無く、知られることも無い存在。今の時代では語られない

無銘の英雄の名を宝珠は宿し、そして姿を変えたのだ。宝珠とは大地に溢れた

ピュア・エーテルの塊。エーテルに関する謎は非常に多い。今まさに新たな

謎が生まれた。


「全ての後始末は他の軍人たちに任せよう。今、連絡をしておいたから」

「俺たちの出る幕では無いな。上へ戻るか」


戻ろうとするジゼルたちを黒服が呼び止めた。彼らは身動きがとれぬように

拘束された状態だ。どうしてと聞くつもりは無い。彼らは遅かれ早かれ逮捕

されるだろう。


「貴様…古代人だな…」


ジゼルを古代人では無いかと彼らは疑った。


「現代人はこの星にもとより存在していた人間では無く、エーテルと言う物質を

浴びて新たに進化した人類。古代人とはこの星でエーテルが確認されるずっと前

から星を支配していた現代人の祖先と言うべき存在かな」

「…だからなんだ、と言うところだがな。妄言は刑務所で好きなだけ吐け」



地上へと戻って来ると演説も終了し、人々が解散する頃だった。地下水路の

騒ぎが嘘のようだ。ジゼルたちに声を掛けて来たのはアゼル。彼はこちらでも

何やら騒ぎがあるようで、アゼルの顔に疲れが滲んでいる。


「お前たちが見つけた軍曹の悪事、その始末に苦労してるんだ。それは兎も角、

ジゼル。大統領に何か伝えたか?」

「え?伝えた?」


アゼルの隻眼はジゼルのオッドアイを真っ直ぐ見据えて問う。少し躊躇って

ジゼルは返事をする。警告をした、と。


「―黒い車に気を付けて、と」


警告の内容を聞いて、アゼルの表情が険しくなる。彼が取り出したのは一枚の

写真。黒塗りでボディに白い薔薇のシンボルマークが描かれている。ホイールは

汚れ一つないゴールドだ。


「これ!この車!!」

「お前は一体何を見たんだ。教えてくれ」

「それは―」


アゼルに教えようとしたとき、轟音が聞こえた。赤い炎は遠くからでも

良く見える。その方向には大統領が乗り込んだ黒塗りの車があったはずだ。


「まさか…―」




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