表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第三話「オッドアイの義眼」

それ以上は何も語らなかった。語ろうとせず眼を伏せるグレースに対してキースは

問い詰めず口を閉じた。


「暗い話はやめましょう。今日は建国記念式典ですよ!」


クロリス村の惨劇を想起し、全員が暗い顔をする中で切り替えたのはジゼルだ。

彼女の言葉で全員が目を見開いた。大統領グレースの手を取り、ジゼルは彼女を

鼓舞する。


「国を良くしようっていう人が世界の終わりみたいな顔をしちゃ駄目です!貴方は

絶対に希望を持っていなくちゃ!」

「…そうね。過去の惨劇を忘れるのではなく、それを反省して、より良い国を

作るのだから」


グレースが時計に目をやり、立ち上がった。


「そろそろ演説が始まる時間か」

「貴方も護衛の担当を交代するのだったかしら。式典が終わるまで大変だろうけど

お互い頑張りましょう。貴方の活躍を期待していますよ」


全員が退室する。最後に部屋の扉を潜り抜けるジゼルの脳裏に何かが浮かぶ。

それはフラッシュバックのように一瞬で、継ぎ接ぎの映像だった。彼女の脳内を

把握する者などいない。ジゼルは退室する前に躊躇いつつも振り返った。


「あの―」


彼女の不思議な力は時に不気味に思われ、信頼して貰えない時がある。他とは違う

力を拒絶するのは当然と言える。


「?」

「―黒い車に、気を付けて」


グレースは目を瞬いた。彼女が何を言おうとしているのか理解できず困惑。この

短く、一方的な言葉をグレース以外誰も聞いていなかった。誰もが部屋を出て、

そして各々の仕事に就く。グレースは演説前の時間でジゼルという少女の事を

思い出す。青と緑のオッドアイ、サファイアとエメラルド。妙に核心を突く

質問と未来を予知したかのような警告。不思議な力を持っているとは聞いていたが

彼女自身、その時は半信半疑だった。彼女だけでなく、キースと言う男も何やら

深い事情を抱えているようだった。今ではほとんど記録すら残らない惨劇を知って

いた。



日も暮れ始め、暗くなっているにもかかわらず街灯のお陰もあって視界は良好。

露店で適当に夕食となるものを購入し、食べていた。


「そういえばベアトリスさんは警備の仕事はしなくても大丈夫なんですか?」


ジゼルは料理を平らげた後、平然と行動を共にするベアトリスに疑問を抱いた。


「指示を受けていないしね。君たちのサポートが今回の仕事かな。君はよく

クロリス消失の事を知っていたね、キース」


共和国軍でも特級機密事項として記録を見ることが出来る人間はごくわずかに

限られており、大まかな話こそ知っているが細かな部分は何も知らないという

軍人の方が多い。ベアトリス然り、アゼル然り。公にされている結末は

大地から溢れるエーテルと言う物質が規定値以上に外へ噴出した結果、大地の

命が消えてしまった不可避の天災という事になっているが、実際には何か

あるのでは無いかという陰謀論が後を絶たない。


「俺の母親の生まれがクロリス村で、知っていただけだ」

「ほぅ…ならば、ジゼル嬢の生まれ故郷は何処なのかな」


ベアトリスはジゼルに話を振った。ジゼルは苦笑いを浮かべて事情を話す。


「私、イマイチ記憶が曖昧なんだよね」


ジゼルのオッドアイは義眼である。そして彼女自身、記憶が無い。一番最初の

記憶は共和国の病室にて看病されていたという記憶。起きた頃には既に彼女は

オッドアイの義眼を身に着けていたらしい。本人の記憶が無いために出身地や

家族に関しての調査も難しく、一先ずキースが彼女の保護をしていた。


「君も複雑なものを抱え込んでいるようだね」

「ちなみにベアトリスさんは?」


一方、ベアトリスは首都では無くボレアスという都市で生まれたらしい。

育ちは首都イーリス。母親と双子の姉と共に暮らしている。どうやら姉も

軍人として働いているようだ。


「父親は」

「母と父は離婚しているよ。私の苗字であるアージェントは母方の名前さ」


生まれはボレアス、育ちはイーリス。ボレアスは商いが盛んに行われる都市。

同時に黒い噂もある。アンダーグラウンドの世界が地下にあり、真っ当では

無い商売人も紛れ込んでいるというものだ。加えてボレアスが擁する大森林、

キスカヌ大森林の中に大きな研究所がある。何人たりとも入ることが出来ず

中の様子は不明とされているが軍事に関連した研究がされているようで、

全ての権限を持つ一家の長は触らぬ神に祟りなしとして恐れられている。

ボレアスを事実上支配しているのは狂戦士の名を冠する一族。

キースはベアトリスの方を見た。まさかな…。彼女からはそんな素振りが一切

感じられない。


「あれは?」


ジゼルが突然、キースのコートの裾を引っ張った。彼女が指さした方向に目を

向けると明らか挙動不審な軍人がいた。向こうからはジゼルたちの姿がよく

見えないようで、警戒する様子は見られない。アタッシュケースを持った

二人組の黒服と何やら会話をして、何処かに消えていく。


「追いかける?」

「そりゃあな。後数分で大統領の演説が始まるが…」

「心配は無用だろう。剣聖殿もいる、私たちは彼らを問い詰めるべきだ」


三人の意見が合致し、後を追いかける。そんな三人の姿を別の人間が目撃

していた。黙って見ているだけかと思っていたが、彼は何を考えたのか三人の

後を追いかけたのだ。誰もかれもが大統領の演説を聞くべく集合した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ