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1杯目ー前編ー

今朝は7時に目を覚ました。

カーテンをあけて寝るため、ここのところ朝の日差しが眩しい。

ようやく暖かくなり始めた5月。

朝はまだひんやりしている。

朝食を口にし、シャワーを浴び、化粧を終えて、階段を降りる。

4月までの通勤電車の喧騒とは比べものにならない、わずか10秒の道のり。

10時の開店に向けて、静かに準備をする。

といっても、やることは多くない。


テレビをつけ、拭き掃除をする。

あとはコーヒーの準備だけだ。

10時になると、常連のお婆さんがやってくる。

その佇まいはいかにも貴婦人といった感じだ。

「あら、リカコさん。そういえば今日から1人なんだっけ。」

「はい!今日から母は、長期の入院で。」

「大変ねえ。何か手伝えることがあったら何でも言うんだよ。じゃあコーヒーを一杯頂こうかねえ。」

「ありがとうございます。ではどうぞおかけになってお待ちくださいませ。」

コーヒーを準備し、そっと配膳する。

お婆さんは「ありがとう」と小さく呟くと本に視線を落とした。


父を早くに亡くした母は、女手ひとつでこの店を切り盛りし、私を育ててくれた。

最近は体調も優れず、週末に手伝っていた私だったが、とうとう母は長期の入院を余儀なくされ、私は店を引き継いだのだ。


「そういえば、リカコさん。あなたもできるのかしら?」

本から目を上げて、お婆さんが言った。

何のことを言われているのか理解できず、しばらく考え込む。

「だから、その」

気まずそうに言葉を途切れさせる。


「もしかして、おまじないですか?」

「そうそうそれよ。カヨコさんがやっているって聞いたから。」

「すみません。私はできないんですよ。」

「あら、そうなの。残念ね。カヨコさんが元気になってくれるのを待つしかないわね。」


お婆さんは残念そうに、会計を済ませ店を後にした。

ため息が出る。


母は小さな頃から魔法を見せてくれていた。

「あなたもいつかできるようになるわよ。」

と、よく言われていた。

でも、私はできなかった。

このお店でもおまじないという形で魔法を使い、お客さんの悩みを解決してきたのだ。


「あのお婆さん。しばらく来ないだろうね。」

どこからともなく聞こえた声に私は振り返る。

そこにはフクロウの置物。


まさか置物が話した?と思う自分を落ち着かせるために声を返す。

「今あなたが話したの?」

「そうだよ。」


母の魔法だろうか。

置物は小さな目を輝かせ、微かに表情を変えた。

ちょっと可愛い。


置物は続ける。

「訳あって今はこんな姿をしているが、まあそれは後でいい。カヨコさんはここで魔法を使いお客さんの悩みを解決してきたんだ。この仕事を引き継いだんだろ。次は君だ、リカコ。お前が魔法を使う番だ。」

「でも、そんなこと言われてもできないものはできないよ。私だってできたら使いたいもん」

「俺の声が聞こえているんだ。もう使えるはずだ。今まではその時じゃなかったんだよ。御託はいいからさっきの婆さん連れてくるんだ。しばらくは俺が教えてやるから。」

私は急いで店を出て走った。

理由はわからなかった。

きっとそうするべきだと思ったから。

初めまして。初投稿になります。

至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

できる限り良いものをお届けできるよう、努めてまいります。

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