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成島シリーズ

成島くん日常譚 テストと夕ご飯

作者: ヤマスマン

成島くんシリーズ第三弾

楽しんで頂ければ幸いです

放課後の教室、下校する皆のざわめきが遠ざかっていく中、世界が羨むイケメンこと俺、成島愛己なるしま まなきは、誰もが認める天才美少女、音羽美玲おとわ みれいに話しかけた。


「すまない音羽さん、今週は掃除行けないんだ……流石の俺もテスト勉強しなくちゃいけなくってさ」


俺は手を額に当て、毎週の定番になっていた掃除を断ることになった。


「そう……」


音羽は瞳を伏せる。


「いや、このイケメンに会えない日は辛いと思うが——」

「私の家で勉強会をしましょう」


音羽は事もなげに告げた。



俺は音羽の家に足を運ぶ。


「ここに来るのも、だいぶ慣れたなぁ」


そう思いながらドアを開け挨拶をすると、静かな部屋の中から短く答えが返ってきた。

音羽をナンパから助け、ゴミ屋敷と化していた部屋の掃除をしてからそろそろ三月が経とうとしていた。

廊下の収納から掃除道具を取り出し掃除が始まる。床に落ちているものを拾う内にふと気づく。

以前と違い、散らかっている範囲がせばまっている。


「……成長ってやつだな」


感心しつつ、黙々と作業を続けた。



掃除が終わると、勉強会が始まる。


「まずはこの範囲を押さえましょう」


音羽は付箋をつけたノートを広げ、説明を始めた。


「たとえば、この問題」


そう言って、音羽はノートに一つの数式を書き出した。

……なんだこの問題は。


「とりあえずカッコを展開して、微分するとか?」

「いいえ、それじゃ遠回りね」


音羽は俺のノートに、別の公式を書き加えた。


「習ったでしょ? この問題は、この公式で簡単に解けるわ。あとは……」


説明を理解すると俺はハッとした。


「最小値は4だ……!」

「ええ、その通り」


彼女は微笑み、さらに続ける。


「この公式の等号が成立するのは、両方のカッコの中身が等しい時よ。この場合に最小値になるの」


音羽が説明し、俺が疑問を返すたびに、音羽が人に教えるのが非常に上手いことに気づいた。解き方のコツを、的確に噛み砕いて教えてくれる。


「なるほど……じゃあこっちはこうすればいいのか」


俺も問題を解き、答えを返す。


「成島くん、理解が早わね。こういう問題はこう解くと楽なのよ」

「いやこれは、音羽さんの教え方が上手い」

「ふふ、ありがとう。私も成島くんの苦手の傾向がわかってきたわね」


説明を聞き、理解できた瞬間、少し誇らしい気持ちになる。



「それじゃあ、ご飯にしましょうか」


音羽はテキストを閉じ、テストと書かれた一枚の用紙を差し出した。


「帰ってくるまでに、解いてみてね」


キッチンへ行く音羽を見送り、手早くテストに取り組む。

少しでも解きやすい問題を探すが、どれもこれも自分が苦手としている問題だ。

集中して問題を解き、時間内に終わらせると、音羽が戻ってきた。


「ふむ……」


サッと答えを確認する音羽。


「こことここ、それからここが間違ってるわ」


間違っている箇所を指摘され、俺はえぇ?と声を上げつつ、再度解き直す。

小さな悔しさとともに、運ばれる料理の香りが手を急かす。


「それ、答えは合ってるのに解答を写し間違えてるわよ」


音羽の指摘に肩が跳ねた。



テストが終わり、二人で食卓を囲む。


「掃除のお礼でもあるしご馳走にしたかったのだけど、家庭的な料理になってしまったわ」


音羽は申し訳なさそうに笑いながら料理を差し出す。

鯖の塩焼き、ししとうの焼き浸し、夏野菜の煮凝り、鱧のお吸い物、ご飯と香の物。

これは……一般的な家庭ではなかなか見ない豪華な食事ではないだろうか。

俺は箸を取り、まず塩焼きから口に運ぶ。


「うま……外は香ばしくて、中はふっくらしてる。塩加減も絶妙だな」

「うちは業務用の調理器があるから、短い時間でしっかり火を通してるの」


いきなりご家庭では不可能なことがあるじゃないかと考えつつ鱧のお吸い物を口にする。


「……お吸い物ってこんなにうまかったんだ」


出汁が爆発したのかと感じた、鱧の切り身も身はほろほろと崩れ皮はむちむちとして臭みは何もない。


「いつも食べている味だからなんとも言えないけど、下ごしらえは念入りにやってるからかしら」


音羽は自然にそう言う、それだけでこんなに変わるのだろうか。

続いて煮凝りを見て、俺は少し首をかしげる。


「煮凝りか、家で出るのは初めてだわ……これってどうやって作るんだ?」


音羽は目を細めて説明を始める。


「お出汁にゼラチンを溶かして冷やすと固まってゼリー状になるのよ。今回は夏野菜を入れて食感と見た目の涼やかさを意識しているの」

「なるほど……口の中でゼリーが溶けて、野菜がシャキシャキで絶妙だ」


感心する俺に、音羽はにっこり笑った。


「成島くん、素直ね」


突然の言葉に、心臓が跳ね、頬が熱くなる。


「さっきのテストも引っかけ問題にことごとく引っかかっていたものね」


別の気恥ずかしさに、俺は思わず視線を逸らした。



食事を終え、二人で玄関まで歩き出す。


「今日はありがとう、成島くん」


音羽は当たり前のようにそう言った。


「いや、俺は別に……」

「掃除も勉強会も無理を言ってしまったし」


音羽は目を伏せた。


「いや……音羽さんが気にすることは」


いつもの自分になれない、うまく言葉が出てこない。

勉強を教えてもらって、信じられないぐらいうまいご飯を食べさせてもらって、もらってばかりなのに感謝までされる。

自分が理解できていない重さが胸の中で膨らんでいく、この感情はなんだ?

そんなことを考えていると、音羽がそっと俺のほうを見た。


「成島くん、また来週」


音羽は微笑んで、そう言った。


「っ!音羽、明日は月曜日だぞ? 普通に学校に来ないとダメだろ」


やっと取り繕って音羽に返す。


「……成島くんは本当に素直だね。 また明日」


ドアが小さな音を立てて閉まる。

思わず手で顔を覆うと、頬が熱を持っているのを感じた。


最後までご覧いただきありがとうございました

恋愛要素と飯要素を強めてみました

鱧美味しいけど家で処理したやつ臭み出るよね

店に行くと全然感じないのに

あとギャグ足りなくなっちゃった

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