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火星ダンジョン英雄譚 ー英雄だったおっさん、全人類に魔王と呼ばれ討伐対象にされるー  作者: 八夢詩斗
第一章 「俺が魔王とかマジで本当に嫌なんだけど?」
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第8話 「俺たちは火星へ!え、マジ?本当にもう行くの?」

 少しして場はどよどよと重苦しくざわついた。俺がオムライスの事なんて考えていたことは、読者の皆も忘れているころだろう。普通にヤバい事態だ。第七部隊にいったい何が起きたのか?


「静かにしたまえ。これは公言禁止だ。まだ連絡が途絶えただけで、生死については分からない。緊急で他の部隊も投入し、消息を追っている段階だ。ただ……」


 これはちょっと嫌な予感がするな。俺は教官の爆弾発言に備え、精神的防災頭巾を被った。


「違う地点からダンジョンへ入ったアメリカの部隊も同様の状況らしい。火星で何か異常な事態が起きていることは間違いない」


「質問を、よろしいですか!」


 第八期英雄候補のトップ犀原が勢い良く手を上げた。彼は”できすぎ君”な上、金髪でモテそうなやつだ……まあ俺にはもうモテなど何の意味もないがな! 俺はそんな風に心の内でマウントを決めつつ話を聞いた。


「許可する。なんだ?」


「ダンジョン内では配信が行われているはずです。その映像には何か映っていなかったのでしょうか?」


「…………撮影ドローンの映像については、秘匿情報だ。明かすことができない」


 ざわ……ざわ……。ここにいる誰もがその教官の発言にギャンブル中毒を引き起こされていた。


「なぜです? 配信が行われていたなら既に公開されているのでは?」


 教官はため息を吐いて首を横に振った。


「いや……実際のところ、我々が公開しているのはリアルタイムのものではない。検閲を行い、許可を得た映像だけが地球に送られている。少なくとも日本ではな」


 衝撃の事実だ。まあ確かに映像が少ないとは思っていたが……それでも相当グロイのとかあったけど。いよいよヤバそうな空気が蔓延してきた。


「その映像については我々英雄候補ですら知ることはできないと?」


「上の命令だ。実際に現地にいる者だけが知ることができる。そこで、だ……」


 教官は一度話を区切った。深く深呼吸をする。いよいよ爆弾投下ってわけかい。


「もし諸君らの中で火星での救助作戦に参加したい者が居れば、有志を募りたい。あくまで補給部隊としての役割となる。ただし、誰でもというわけにはいかない。上位3チームの面々、君らの中から希望者を募りたいと思う。これは強制ではない。だが、もし参加するならば正式な隊員と同等の待遇は与えられる。回答期限は明日の正午までだ。考えておいてくれ」


 彼はこの際だ全部言っちゃえ! とばかりに一息で言い切った。おいおい、いきなり火星行きだとよ。どうしよう。でも状況を知らずに飛び込むのは流石に命知らずすぎるよな。希望者には教えてくれんのかな?


「ワタクシは参加するわ!」


 俺の頭に様々な疑問や葛藤がアリンコの行列みたいに湧き出ているのを横目に、隣に座っていた命知らずが立ち上がった。マジかよ。


「伊良原か……。だがまだ期限はある。よく考えてからにしろ」


「いいえ! ワタクシはもう決めたの」


「ちょ、伊良原さん! いくらなんでもそれは」


 ミノムっちゃんも冷静にさせようと声をかける。だが彼女は一度決めてしまったことは引かないだろうな。俺はそんな諦めと共に、無鉄砲とも言える熱意に尊敬を抱いた。


「ワタクシは兄に追いつくためにここまで来たんですもの。みすみす追い付けるチャンスを逃すわけにはいかないわ」


 いやあ、あと半年辛抱すれば火星には行けるのに……イルミナティはブラコンなのだろうか。兄に直接会いたかったのかもしれない。でも確かに、家族に会えるチャンスがあるなら俺だって飛びつくかも。


「まあいいだろう……。とにかく、今日の会議は以上だ。希望者は私までメッセージでも構わないので送ること。それと考査のレポートは良く読み込んでおくように」


 教官はそう言い残して部屋を立ち去った。犀原をはじめ上位3チームの面々は一様に(イルミナティ以外)考えこんでいる。俺もどうしたものか……危険すぎるか? でもいち早く正式な英雄として待遇を受けられるのはアリだ。アリよりのアリともだ。だがしかしなあ……。


「アンタたちも来なさいよ!」


 ガンガン行くことしか考えていない姫様が俺たちミジンコに話しかけてきた。勘弁して。


「情報次第……かな。おそらくだけど希望を出したら情報共有はしてくれると思う。あくまで僕たちの覚悟を教官は試してるんじゃないかな……僕も早く英雄にはなりたい」


 ミノムっちゃんの答えは意外なものだった。でも確かにここに集う者たちはみな、多かれ少なかれ英雄に憧れて難関たる試験を突破してきたのだ。俺とて例外ではない。しかし、部隊全員が消息不明など、あまりにも危険な臭いしかしない。俺はそれよりは堅実に生きる方を選択したかった。


「俺は……今回は行かないかな……」


 そう、つい声に出てしまう。いかん、いつになくユーモアの欠片もない情けない発言だ。


「アンタたちそれでも男!? なんのためにアンタたちはここに来たのよ? 英雄になるためじゃないの!?」


「いやでも君、よく考えてみたまえよ。半年後には正式になれるわけだしね……」


 歯切れのわるーい返事をしてしまった。あー調子が悪い。冗談の1つも言えないなんて。


「ふん! 見損なったわ! アンタはどうなのよ前髪!」


「僕は……僕だって英雄になるために来たさ。だけど自分の実力と状況の分析は絶対に必要だ。犬死なんて最悪だよ……本当に。残される方の身にもなれってんだ……」


 ミノムっちゃんは前髪をかきむしった。彼もまた何か想いを抱えてここまで来たのだろう。俺も……俺の目的は……。


「ふん! ワタクシはね……兄を見返すの! そのためならなんだってやるわ! どんな危険だろうが、そのぶん実績になる! 必ず追いついてみせるんだから……!」


 イルミナティは拳を握りしめた。彼女の兄、伊良原湊斗(いるはらみなと)は黄金の第三期英雄メンバーの中でもトップの実力者だ。いまだに日本国火星探査チームではエースとしてバリバリに活躍中で、非公式の英雄人気ランキングでも1位をキープし続けている。イケメンで強くて頭も切れる日本の誇りであり、オムライスで言うところのオムレツなのだ。


「俺はさ……」


 彼らには打ち明けておくべきだろう。俺が英雄を目指す理由。大した志ではないし、家族を守るんだったら英雄でなくたって構わないじゃないか。そう言われればぐうの音も出ない。これは俺が自慢のパパに、自慢の夫になりたくて、ちやほやされたくて選んだ道なのだから。


「俺はただ単に、家族を守りたかった……。俺が英雄になれば、家族はきっと俺を誇ってくれる。そんな承認欲求が動機なんだ。何か崇高な目的があるわけじゃない。英雄に多少の憧れはあったけど、こだわりなんてなかった。娘が俺を英雄だって誇らしそうに言ってくれた、それだけが俺の英雄になる理由なんだ」


 なんかこうやって真剣に話すのは恥ずかしい。やっぱり俺はふざけているくらいがちょうどいいのだ。


「ワタクシはね……アンタたちと行きたいの。……自分の傲慢さが分かったから」


 イルミナティはデレるというよりは、まるで素人が吹くちくわリコーダーみたいな声で囁いた。この3日、彼女なりに思うところもあったのだろう。


「……い、いいから一緒に来なさいよ! これはリーダー命令なんだから!」


 めちゃくちゃ恥ずかしかったんだろうな……イルミナティはすぐに大きな声でちくわを投げ捨てる。空想上のね。俺とミノムっちゃんは顔を見合わせた。彼はため息を吐いて告げる。でも少し口元は笑っていた。


「……とにかく僕も希望は出してみるよ。情報はもらえるか分からないけど、流石に情報共有なしで送り出すようなことはしないと信じよう。そのうえで皆でまた相談した方がいい。もし無謀だと判断したら、僕は無理矢理にでも2人を行かせないから」


 語るミノムっちゃんの声音にはいつになく芯のある響きが込められていた。ちゃんと聞いたわけではないけど、彼の大切な人が火星ダンジョンで亡くなったか、行方不明にでもなっているのかもしれない。


「俺も、希望は出してみるよ。家族の生活を早く楽にできるならそれだけで行く理由にはなるしね」

 

 自分で言っていて、そうだなと納得する。結月や真結美の生活を早く楽にしてあげたい。そのために来たんだって、言いながら腑に落ちた。


「決まりね! いくわよ! 火星へ!」


 もう行く気満々のイルミナティを見て、俺はなんか希望をもらった。雰囲気はいい。全員が自己開示を果たし、団結力が高まった感覚がある。そう、我々「ドラゴンホリダー with イルミノムシ」ならば、すぐにきっと本物の英雄になれるのだ! 


 その時の俺はそんな風に甘く見ていた。悲しきかな、ちょっとスレッドやらで褒められたからって舞い上がっていたのかもしれない。

教官はまだ”英雄”と呼ばれる前の火星探索チームメンバーでした。

最初は基本的に自衛隊や宇宙飛行士などの中から選抜されたエリートです。

でも当時の装備で生き残れただけでもつわもの。

ほとんどのメンバーは亡くなっており、これではいかん!ということで改めて英雄選抜という制度が出来上がりました。

オムライスは案外固めの方が好きらしいです。よかったね誠!


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