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火星ダンジョン英雄譚 ー英雄だったおっさん、全人類に魔王と呼ばれ討伐対象にされるー  作者: 八夢詩斗
第一章 「俺が魔王とかマジで本当に嫌なんだけど?」
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第5話 「対マーズドラゴン特別作戦”オペレーションβ”

 何度か怒りのあまり無駄な攻撃をし続けたあと、イルミナティは涙を浮かべ膝をついていた。


「なによ……こんなのって……!」


 泣いてるよ。ちょっと可愛い。


 いや、誤解をするでないぞ! これは決して妻や娘とは違う指標で測られたものだ。彼女たちは別格であり殿堂入りであり、どのような指標を用いても推し量れぬ絶対的な可愛さなのだから、なにものもそれと比較することはできない。対してイルミナティの可愛さレベルはせいぜい、空き缶に描かれたオレンジくらいの可愛さだ。


 一方そのころ我が鉄腕アトムの一角である電子担当ことミノムっちゃんは、恐怖のあまり前髪や顔どころか膝も笑っていた。爆笑である。いや、笑えないけど。意気消沈で今にもくず折れそうだ。あーホントヤバい。


 ドラゴンは咆哮をまき散らし、こちらに向かってきた。深紅の眼が俺たちとばっちり合う。目と目が合うと、ときめいちゃうね! 俺はミノムっちゃんの手をひっつかんで声を荒らげた。


「一時撤退だ! ミノムっちゃん! ぼーっとすんな!」


「む、無理だよ、もう……イルミナも死んだんだ……」


「これが現実でも、本当に諦めんのかよ!」


 俺はつい胸倉をつかんで大声を出してしまった。唾が飛んでたら申し訳ない。だがこんな腑抜けたミノムシのままではすぐに全滅だ。


「で、でも……」


「デモもストライキも知るか! 行くぞ!」


 俺は無理矢理に手を引っ張って通路を走った。とにかくマーズドラゴン(あいつ)が入ってこれないところへ。こうして何とか狭い通路にたどり着いたのだが、そこに奴の口が近づいてくる。


「走れ!」


 後方で爆発が起きた。もちろん仮想だが火葬されたかと思ったよ。例のブレスだろう。なんとか直撃は免れたが、かなりのダメージ判定をもらってしまったな。俺たちはさらに奥へと逃げ込んで、座り込んだ。ここなら奴は入ってこれない。さあ、どうする……。


「なあミノムっちゃん、あのデカブツを倒した前例はあるのか?」


「……候補生の中にはいない。火星では専用の討伐隊が編成されて、ロケットランチャーを10発以上撃ち込んでようやく倒したらしいよ。僕たちの装備じゃどう足掻いたって勝てない」


 おいおい、バイオハザードのボスですら弱点にロケランで一発KOだぞ? ちと強すぎないか。最強の矛イルミナティを失い大きく戦闘能力を欠いた俺たちに残された選択肢は、妥当なるダトーショコラくらいしかないだろう。つまりフロア1へと戻り安全にマーズクォーツを集めなおすのだ。たいやきくんの事は忘れ、まずは堅実にメジャーデビューを果たすことを考えるべきかもしれない。


「フロア1まで戻って、クォーツを集めなおそう。俺たちじゃフロア2ですら油断すれば死ぬ。この体力だしね……」


 そう自分で言っておいてなんだが、とてもダサい。やっぱいやだな。あのドラゴン野郎と日本政府に一泡吹かせてやりたい。


「うん……それしかないかな……」


 前髪にうずもれながら同意してくれたミノムっちゃんには悪いが、俺はある作戦を閃いた。あのドラゴンの体格や皮膚……ワンチャンいけんじゃないかな。無駄にホログラフィックなのに触れるし。要は別に倒さなくてもいいのだよ。我々の目的はマーズクォーツなのだから。


「ねえ、相談なんだけどさ。こんな作戦はどうかな? いけると思う?」


 俺は対マーズドラゴン特別作戦、オペレーション”バサルモス”の内容をミノムっちゃんに伝えた。彼はその発想はなかった! というように驚きに目を見張り、俺の天才ぶりを褒めたたえる! ことはなく、ぼそぼそと考え込んでいた。うーん、やっぱちょっち厳しいか?


「……でも面白い作戦だね。試す価値はあるかも」


 ふふふ、そうだろうとも。俺たちは作戦の中身を詰めた。まあ細かなところは主にミノムっちゃんが考えたのだが、発案者は俺なので特許は俺がもらう。稼ぎは一銭たりとも渡さないぜ!


 こうして俺たちは奴の元へと戻った。今考えればあの部屋は広すぎた。あのドラゴンのために用意されていたのだろう。まったく、「ガンガンいこうぜ」だけじゃやっぱり駄目だね。「いのちだいじに」しないと。部屋の様子をひっそりと伺うとやはりドラゴンはそこにいた。ついでにツインテールピンク髪ドラゴンも隅でうずくまっている。まったく。心まで死んでしまうとはなさけない。


 俺たちはドラゴンがそっぽを向くのを待った。そして……時は満ちた。オペレーション”バサルモス”を開始する!


 俺たちは奴に忍び寄り、ドラゴンの眼前に向けて閃光手榴弾を投げ込んだ。ミノムっちゃんの投げたそれは上手いこと炸裂した。目がくらんだ龍は前方に爆炎ブレスを吐き出す。無駄無駄ァ! 俺たちはその隙をついてドラゴンの背中へとよじ登る。ブレスを吐くときは体を一直線にして安定させる必要があるらしく、無暗(むやみ)に暴れないのだ。ミノムっちゃんの計画通り! よーしよし。いい子だねえ。


 俺は数回やったことのあるボルダリングテクニックを華麗に披露し、「なんか使えるかも?」と思ってテキトーに持参していたロープをイイ感じの突起に括りつけた。これで多少暴れてもずり落とされることはない。ミノムっちゃんも上手いこと登れたらしく、俺たちはドラゴンライダーとしてデビューを果たした。そういえばダンジョン攻略の様子は候補生以外には配信されている(安全性確保の大義名分を掲げてカメラが大量に設置されているのだ。日本政府め! 俺たちで儲けやがって!)。本当に”ドラゴンライダー誠”って二つ名で呼ばれちゃうかも! という微かなワクワクを抱きつつ、作戦は次のフェイズへと移行する。


 俺たちは小型ピッケルを取り出して、ドラゴンの皮膚に浮き出ている赤い結晶を穿った。すると、なんということだろう! やはり、俺の目論見は正しかった! 手元の腕時計にはマーズクォーツが10グラム加算されている。同じ個所を削っても10グラム……ザクザクだ! 合計で100グラム取れたところで加算はされなくなったが結果は上々だろう。


「ガンガン掘ろうぜ! ミノムっちゃん!」


「これは、いけますね!」


 作戦を変更しテンションが上がってきた。ふしぎなタンバリンのリズムが聞こえてきそうだ。閃光弾の光で目を上げていたイルミナティも固唾をのんで俺たちを見守っている。「ああ、ワタクシが間違っていたのね……誠様こそがリーダーにふさわしいわ!」きっとそんな風に自らの過去を悔恨しているだろう。


 俺たちはゴールドラッシュだァ! ヒャッハー! とばかりにがつがつドラゴンの皮膚を削った。そして腕時計の表示はついに、900の大台に乗った。もうすぐ1kg……いける! そう思われたのだが、イルミナティが声を荒らげた。死んでるからルール違反な気もするけど、まあいいでしょ。言われなくともって感じの発言だし。


「危ない! こいつ立つわ!」


 そう、このドラゴン、二足歩行ができたのだ。ぶっとい後ろ脚と尻尾を器用に使い、化け物は立ち上がった。重力の方向が変わったので結構しんどい。それだけならよかったのだが……。


「くっそ!」


 勢いよく体をフリフリしたドラゴンによって、なんとミノムっちゃんが手を放してしまい、ロープの遠心力そのままに叩きつけられた彼は、あっさりと死亡判定を喰らってしまった。やはりボルダリングをやっておいてよかった。俺はなんとか持ちこたえたが、グラム数は再び減って600グラム。もうちょっとだったのにぃ!


 だが俺は諦めなかった。この諦めの悪さだけが俺の唯一の取柄である。いや、あとはユーモアと愛情と勇気と努力と友情と勝利あたりか。俺はまるで髪に住み着くシラミのごとく、粘着質に奴の背中に張り付いて採掘を続けた。チマメがつぶれて手汗も混じり、滑りそうになるピッケルを必死で振りまくる。握力や筋力もキッチーよ! だがこれも英雄となり家族を救うため。俺は気力を振り絞った。


 流石に背中から倒れ込まれたりしたらヤバかったが、そうすると奴も起き上がれないのだろう。それをやられることはなかった。俺は暴れる龍を見事乗りこなし、ついに待ち焦がれた瞬間が訪れる。


 そう1000グラム! 1kgのマーズクォーツをゲットしたのだ! 我々はついにやり遂げたのである! 悪しき龍から結晶(ひめさま)を救い出し、地上へ帰還する時が来た! 2人は尊い犠牲となったが、これも国家のため。ナムミョウホウレンソウ。


 俺も持っていた閃光手榴弾を投げて、奴は再び目がくらんだ。所詮は理性のないモンスターにすぎぬ! 俺は華麗に舞い降りて、急いでその場を離れた。


 しかし奴は今回、ブレスを吐かなかった。その場で暴れ、巨大な尻尾が俺に向かって薙ぎ払われる。できれば使いたくなかったが(ダサいし)……しかたない! 俺はついに伝家の宝刀、持参していた武器を解き放った。


 俺が持参していたのはコンパクトに収納可能な盾である。ぶっちゃけあまりカッコよくない。だが、俺はもともと「いのちだいじに」主義者なのだ。近接武器とか扱い難しいんだもん!


「「危ない!」」

 

 陽子電子コンビが叫ぶ。知ってるさ! 俺はすんでのところで盾を広げ、尻尾の攻撃を受け止めた。多少吹き飛ばされたが、死亡判定は出ていない。よし! 俺はBボタンを押してガンダッシュした。


「アンタ、やるじゃない……」


 なんか声がうっすらと聞こえた気がするが知らん。腰抜けと呼ばれようがなんでもいい。とにかく走った。明かりのついた方向へ盾を手に持ちひた走る。無様と笑うがいい。だが個人の能力(モビルスーツの性能)の差が戦力の決定的差ではないことを教えてやろう。成果を出せば官軍だ。ベンチャーでもそうだった。


 こうして俺は迫りくる全てのモンスターから逃げて、盾で防いで、なんとかスタート地点へと戻ることができた。結果は1時間27分。歴代トップには及ばないが、当初想定していたガトーショコラ作戦よりは早く終えることができた。


 走りすぎてすげえ疲れたよ。とりあえず早く休もう。俺は安堵と共に訓練寮のベッドにへたりこむ。結果は3日後にはでるらしく、それまでは久々の休暇だ! 家族に会いに行っちゃおうかな~!


 俺は忘れていた。この映像が全国に生配信されていたことを。俺の無様なる逃げっぷりが全国の視聴者に晒されていたなんて……。


 次回はお待ちかねのスレッドの登場となるだろう。新時代の英雄たるもの、エゴサーチをしなくてはなるまい。

中学生の頃発売されたモンハン3rdが一番やったモンハンかもしれません。

友達は2ndG信者ばっかりであんまり嵌らなかったらしく、僕はほぼソロでモンスターを狩りまくっていた気がします。大剣ばっかり使います。



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