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火星ダンジョン英雄譚 ー英雄だったおっさん、全人類に魔王と呼ばれ討伐対象にされるー  作者: 八夢詩斗
第一章 「俺が魔王とかマジで本当に嫌なんだけど?」
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第10話 「いよいよ火星に到着だぜ!って感じのテンションでもないね」

 俺はついに火星に行くことになった。やばいな。魔王になる時が刻一刻と迫ってきている。


 え? ”ダンジョン配信”って聞いて10話も読んだのにまだ配信してねえじゃねえかって? おいおい、わかってないな。()()人類の技術では「火星のダンジョンで生配信!」なんてできないのだよ。正確には配信はできるけど、君たち読者の求めるような、「コメント欄と協力し合うダンジョン攻略!」みたいなのは俺の世代ではなく、もう少し時を待たねばならないのだ。そう、例えば俺が魔王になってから10年後、人類が量子もつれ通信を完成し、ついに配信が安定するようになった時代とかね。

 

 メタ的な発言はここまでとして、俺は火星に行くことを愛する家族2人に告げることにした。会議のあった夜の事である。そう、毎日恒例オンライン電話のお時間だ。


 もしもこれが楽しみでない読者がいるとしたならば、俺はSF小説『虐殺器官』のごとく、言葉によって言語野を乗っ取り、君に向かってこう命令するだろう。「これから君は”まゆまゆ可愛い!”としか考えられなくなる」とね。それかチェンソーマンの宇宙の魔人よろしく、君の頭に過度の情報を詰め込むことで、死ぬまで「まゆまゆラブ!」しか言えないようにするというのもありだな。はたまたこの小説全編にサブリミナル”まゆまゆカワイイ”を……。


 おっといけない。またメタ的になってしまった。これはついうっかりした癖なのである。


 気を取り直し、俺はいつもの時間にいつものように通話ボタンをタップしようとした。でもちょっと緊張する。いきなりの火星行きだし。だが、そんな迷いを頭をフリフリ振り切る。通話音が流れ、画面に天使たちが降臨された。今日はいきなり2人がいるぞ! ラッキーだ! ちなみにこの演出が出る確率はおよそ36%である。これはチャゲアスと聞いてアスカの方を思い浮かべる人の割合と同じくらいだ。ソースはない。


「お疲れマイスウィートたち!」


「おちかれー! パパ!」


「お疲れ様。なんか今日は重大発表があるって聞いたけど……」


 ああ、マユミが社会人ぽい挨拶になってしまった……俺のせいだな。くっ! こんばんはの方が好みかもしれん。いや、おちかれというのも可愛いではないか。もうなんでもいいや。まゆまゆなら例えいきなりエスペラント語で話し始めても可愛いだろう。というより、結月はいきなり本題に入ろうとしているではないか! ぐっ、もうちょい心の準備をしたかったが……。


「そう! すっごい発表だよ! なんだと思う?」


「んー。どらごんさんと、おともだちになった?」


 あんな凶悪なるドラゴンとお友達など絶対になるものか! などとは口が裂けても言えない。だが、素晴らしい発想だ。彼女にとっては世界に敵という概念が存在しないのだろう。未来の世界平和は確約されたようなものだ。


「ぶっぶー! ドラゴンさんはねぇ、実はあの日からもうお友達なんだ!」


「ほんと? パパすごーい!」


 ああ、まあそういうことにしておこうマーズドラゴン。俺たちは友達だ!


「結月選手に回答権が移ります! さあ答えは?」


「え? んーと……そうだなぁ……」


「ママ!」


 考えこむ結月選手に耳元でごにょごにょと耳打ちする天使の囁き! ああ、俺も聞きたいよお。


「……うんうん。っふふ。えーっと、じゃあ、はい! パパがまた帰ってくる! とか?」


 2人の純真無垢できらっきらの眼が俺に突き刺さる。ちくしょう、言いづらいじゃないか。いつ帰れるか分からないなんて。


「ええっと……ざ、ざんねん! 不正解です!」


「えええ!? ちがうのー? じゃあ、いつ遊べるの!」


 ううう、これ以上はやめちくり。わっかんないんだよ。本当に。そんなちょっと気まずそうな俺の顔を見て察してくれたらしい結月は、真結美さまのご機嫌を取るべくなでなでしながら何か言ってくれている。


「……こほん、気を取り直して、正解を発表するよ! 正解は……」


 あー、言うぞ! 俺は、英雄になったんだ!


「パパは本物の英雄になりました! 来週から火星に行きます!」


 俺は一息に言いきった。マユミは「えーゆー! かせい!」とパチパチ拍手してくれている。だが、対する結月の方は少し顔を青ざめさせていた。うっ、でもさ、これはきっと家族のためになるニュースなんだ。わかってくれ妻よ。


「ちょっと……どういうこと? ……ごめんねマユミ、ちょっとだけ2人にしてくれる?」


 結月は「なんでー!」とブーたれるまゆまゆを抱っこして、お部屋に連れて行った。あ、いかないで、こわいよ……。1人戻ってきた結月は真剣なトーンで質問を繰り返した。


「火星へ行くってどういうこと? しかも来週からって……」


「いや、だからその……正式な英雄として、声がかかったんだよ。ドラゴンホリダーが評価されちゃったのかな? みたいな?」


「…………」


 珍しく怖いモードだな。これはあの時以来だろう。そう、あれは恐ろしい体験だったが、今では麗しき青春の1ページとなっている。大学2年生の夏……彼女と13回目のデートに行った時のことだ。あの時の俺は……。


「訓練はまだ半年あるはずじゃない」


 おっと、回想に逃げ込もうとしたところだったのに回り込まれた! くっ、なかなかやるな妻よ。


「そ、そうなんだけど、特別に成績上位チームだけで行けることになったんだ。でも悪くない話だよ。正式な英雄だから、たくさん給料も入る。マーズクォーツをゲットすれば余計にボーナスだって出るんだ。2人のためにもなると思ってだね……」


「でも! 急すぎるじゃない。この前会った時は何も言ってなかったのに」


 そう、2人に会ったのはつい2,3日前の話だ。確かに急転直下、寝耳に水であろう。俺にとってもそうだしね。


「あの時は俺も知らなかったんだ。昨日の考査の結果発表で打診された。で、迷ったけど行くことにした」


「だったら……相談してくれても良かったじゃない!」


 それは確かにそうだ。昨日のハッピー電話タイムでは考査の結果についてしか話さなかった。まだ迷っていたし、情報もなかったから。そして今日、俺は多少、周りのプレッシャーにやられ、相談もなくその場で決断してしまった。でもさ、でもでも。


「でも、これは家族のためになるんだよ! いつかは行くことになるんだったら早い方がいい。これで結月が働かなくても大丈夫だし、マユミにも欲しいものを買ってあげられるんだ」


「……うん……わかってる。でも、でもなんでこんなに急なの? こんな話聞いたことないよ。火星の配信だって最近は全然されてないし、なにか、危ないんじゃないの?」


 さすがに頭の切れる奥様だ。勘のいい嫁は嫌いだよ……。うそうそ! 大好き! 愛してる!


「……もしかしたら危ないかもしれない。でも、俺たちはそんなにヤバい任務をやるわけじゃないんだ。あんなドラゴンとかと戦うわけじゃないし、それに、英雄になるって決めた時から危険は覚悟の上だよ」


 第七部隊はドラゴンと出会ってたけど……まあ、俺は奴にライドするテクニックを人類唯一もっているからな! 問題はない!


「はぁ……」


 愛しき妻はため息を吐くと、頭を抱えてうつむいてしまった。うう、罪悪感が込み上げてくる。だけど、俺が死ぬことはない! なぜならば……。


「大丈夫! 約束しただろ? 無茶はしないよ。絶対に生きて帰ってくる! だから信じて応援して……ほしいな……?」


 ほしいな……? の余韻を堪能してから、結月はゆっくりと顔を上げた。サラサラの茶髪を掻き上げると、そのブラウンの瞳には涙が溜まっている。いつも心配ばかりかけてごめん。でもきっと、今まで支えてもらった分の恩返しはここで出来るはずだ。


「……わかったよ。信じて、待ってるから……。頑張って、ね」


 俺と妻はグーサインを交わし、少し彼女の顔に笑顔の花が戻った。こんなに美しい笑顔を萎れさせることなんて絶対にしないぞ!


 そうして涙をぬぐい落ち着きを取り戻してから、結月はマユミを連れて戻ってきた。そこからはいつもの家族団らんスーパーハッピータイムである。俺たちは楽しく話し込み、時間はあっという間に過ぎた。


「パパ、かせいでも、がんばってね!」


「うん! まゆまゆのために、頑張っちゃうぞ~! これでパパは本物の英雄だ!」


「火星でも毎日電話してね……マユミが待ってるから」


「もっちもちのろんうぃずりーさ!」


 結月はなんともいえない微笑を浮かべつつ、マユミを抱きしめた。そしておやすみのキッスを画面越しに行い、オンライン家族通話は終了した。


 ふっ。作者的にはこの一話の前半くらいで俺の家族タイムをまとめるつもりだったようだが、俺にはアルティメットスキル「運命改変」があるのだよ。作者の予測を裏切り、魔王になるまでの時間を引き延ばすのだ! 現に、この卑劣な作者様は10話目くらいで俺を魔王にする予定だったらしい。フハハハハ。既に狂ったようだな! 闇落ちさせようとする作者とは徹底的に戦わなくてはなるまい! 応援してくれ読者諸君! ん? 早く魔王になれって? 無粋だねぇ。


 こうして火星行きまでの一週間は瞬く間に過ぎた(やめろ! 1週間を1行でまとめるんじゃない!)。ついに俺たち8人は火星行のシャトルへと乗り込んだのである(くそ、作者のやつ無理やりにでも今回で火星に向かわせるつもりのようだ!)。


 俺たちは宇宙服を身にまとい、頭で『アルマゲドン』のテーマソングを流しながら、”マーズディザスター”というデュエルマスターズの古いフェニックスみたいな名前のシャトルへと乗り込む。不吉な名前だ。ひどすぎる。これは読者諸君より進んだ我が世界のテクノロジーによってわずか1か月で火星へと到着できるらしい。読めたぞ。1か月も一行で済ますつもりだろう! 作者の外道め!


 そう、案の定1か月は特に語ることもなく過ぎ去った。これは硬派なSF小説ではないから仕方ない。宇宙船の描写とかもっと色々してよ……という声があれば加筆されるかもしれないが、この世界線ではもう俺たちは火星の英雄基地に到着してしまった。


 荒涼とした赤い砂漠に聳え立つ巨大な建造物。それは銀色を基調とした、ドーム型の複数の建物から成り立っている。防塵用のアーチ型エアロックがいいアクセントだ。電力は主に大量のソーラーパネルで賄っているらしい。


「第八期だな? 早速で悪いが、こちらも時間がない。状況説明と作戦について伝える。付いてこい」


 日本の旗が掲げられたドームに入ってすぐに出迎えたのは、なんと、第一師団所属、日本軍のリーサルウェポンこと伊良原湊斗、つまりイルミナティの兄であった。スレッドから拝借してイルミナティ1世と呼ぼう。妹がいるから彼が差し向けられたのかもしれない。黒髪ベースに赤のメッシュが入った高身長、高収入、最強武力のイケメンである。彼は妹の熱視線に一切触れることなく、そそくさと歩き出した。


「兄さん!」


 その背中に向かって、元祖イルミナティは声を張り上げた。


「俺を兄と呼ぶな。ここでは上官だ。分をわきまえろ」


 冷たくあしらわれた彼女だったが、言いたいことは山ほどあるのだろう。ぶっ殺すぞみたいな顔を浮かべつつ、言葉を続けた。


「ワタクシは、ついに追い付きましたわ。必ず、貴方にも、お父様とお母様にも認めさせてやりますから」


「私情を持ち込むな。死にたくなければな」


 ひえー。ツンと言うかツンドラと言うか取り付く島もない。彼はそう言ってまた歩き始めた。だが、イルミナティは今に見てなさいとでも言いそうな、やる気に満ちた顔をしている。


「今に見てなさい……必ず、認めさせてやるんだから」


 ほら言った。ね? 俺も段々と彼女のことが分かってきたのかもしれない。


 その後俺たちは黙って彼に付き従った。そして、作戦本部に到着する。いよいよ俺たちの火星ダンジョンの攻略が幕を開けるのだった。


 

はい、作者的にはサクッと魔王になってもらって俺TUEEEとかしてもらおうと思っていました。しかし、誠の能力によってまんまと引き延ばされてこんな感じに……。結果としては良かったのだと信じたい。

段々と僕も誠に魔王になってほしくないとまで思っている始末です。でもプロローグ書いちゃったし泣く泣く不幸になってもらうしかないのです。


面白いと思っていただけたらでいいのでブクマや応援してもらえたら励みになってハゲるかもしれません。よろしくお願いします。

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