第9話 「覚悟はいいか? 俺はまだちょっとできてないです」
参加希望のメッセージを送った俺たちは、回答期限の時間に呼び出しをくらった。「13時に第三会議室に来い」そうとても簡潔で無駄のない文章が送られてきたのだ。俺たちは食堂での飯を平らげて会議室に向かった。
「失礼いたします!」
俺は丁寧に指を4,2,0にしてスライドドアを開ける。そこには俺たちイルミナティチームの他に、既に6人のメンバーが着席していた。上位チーム全員じゃん! おいおいマジかよ。てか教官ももういるし。そんなことよりスティールボールランのアニメ化最高だぜ!
「これで全員が揃ったな」
俺たちが着席すると、教官はスクリーン黒板の前に立ち、厳かに説明を始めた。
「まさか全員が参加希望とは思わなかった。お前たちの覚悟は本物らしい。だが、最終決断は今回の情報共有を終えてから、改めて行ってもらうことになる。この情報は他言無用だ。無論、他の英雄候補にもな」
やはりミノムっちゃんの目論見どおり、あの時点で情報共有するか否かを告げなかったのは俺たちの覚悟を見るためだったのだろう。あったまいいね! ミノムっちゃん!
……この部屋の空気、それはそんなノリではなかった。ふざけてごめん。俺含め皆が黙って教官の話を聞いた。その情報とやらは一体何なのか。火星で何が起きているのか。誰もがそれを聞くためにここへ集ったと言っても過言ではないのだ。
「……さて、第七部隊が消息を絶った件だが、まずは彼らのおかれた状況、作戦内容から伝えた方がいいだろう」
ふっふっふ。前提となる知識を俺が説明しよう! 日本の火星ダンジョン探査は大きく5チーム、第一から第五師団で構成されている。トップは難度の高い特殊任務を行う第一師団。第二から第四師団は主にまだ探索済みでない未知の部分を発見して進む、通常探索部隊。そして、第五師団は英雄候補生上がりの新人で構成される、既知のダンジョンを探索する部隊で、今回の第七部隊とはこの第五師団の事を指しているのだ。
数字だらけでわけわかめになりそうなので、今回は第五師団でなく第七部隊と呼ぶことにしよう。彼らが一年間の任期を終えると、その成績によって第一から第四に割り振られる仕組みだ。第一はめったにないけどね! その次の年に我々第八期英雄候補たちがその第五師団になる形である。ふぅ。真面目な解説は疲れるぜ!
「諸君もご存じの通り、第七部隊は第五師団に配属され、探索済みの場所でモンスターを狩り、実戦経験とマーズクォーツ収集を行うことが主な任務だ」
ね? 解説しておいてよかったでしょ? まったく、何がご存じの通りだ! 知らない読者の事もきちんと考えたまえ!
「彼らは今回も比較的安全性の確保されたフロア3の探索に当たっていた。もちろんモンスターが相手である以上、イレギュラーなことは起こる。だが……この映像を見てほしい」
そう言って読者の事をお構いなしな教官は、スクリーンに画像を映した。教官が画面をタップすると、荒いドローン撮影の映像がノイズ交じりに再生される。俺たちはそれにくぎ付けになった。
「こ……第七部隊! 緊急……発生! ち、地形が動いています。隊員……既に何人か……取れていません」
第七部隊の若いリーダーらしき先輩はドローンに向かって焦った表情で話している。ノイズ交じりで声は正確には聞き取れない。だが、画面の前方では、一部が崩落し、横からは黒い結晶のようなものが生えたりと、ダイナミックにダンジョンが動いていた。これは一体……?
「そ、それだけではあり……ん。我々……るフロア3……出現……はずの大型モンスターも多数…………ています」
その直後、悲鳴のようなものが響いた。前方から巨大な影がのっそりと姿を現す。アイツは……マーズドラゴンじゃねえか! 今回の考査内容もそういう意図か日本政府……。彼らは突如襲来したドラゴンに臨戦態勢を敷くが、対応できていない。みな四散して逃げ惑うだけだ。
そして、そのドラゴンの爆炎ブレスと共にその映像は唐突に終わった。これは……彼らの生存は絶望的と言えるかもしれない。部屋のみな、暗澹たる面持ちである。
「さて……」
教官は再び前に立ち、俺たちを睨んだ。
「この映像を見ても諸君らは火星行きを希望するかね?」
重苦しい沈黙が熱帯性高気圧のごとくこの部屋を覆った。なんか知らんけど汗がにじむ。これは……俺たちの手に負えるような事態ではないだろう。いや、人間の手に負える事態なのか?
「……もし、火星行きを取りやめたければ構わない。いや、英雄候補を辞退することも私は止めない。我々が築き上げてきた全てが破算となったのだ。一旦はこの謎の活動は治まっているため、火星の英雄たちは調査を続けている。しかし、またいつこのような事態が起きるかは予測できない。非常に危険な状態だと言えるだろう」
そうだ、もしここで火星行きを止めたとしても、半年後にこの”ダンジョン生き物仮説”みたいなファンタジー現象がまた起きないとも言えない。周期的に起こるのか、突発的に起こるのか、それすらも我々の科学力では分からないものかもしれないのだ。くっそ! でもだめだ、こんなところで辞退したところで何になる! 結月に大きな負担をかけてまで費やした時間は何だったんだ。ガッデム! ファ〇ク! バルス!
「ワタクシは……行くわ」
イルミナティは立ち上がり宣言した。お前はそういう奴だよ……うん。隣に座るミノムっちゃんは頭を抱えていた。ついでに俺もね。
「本当に行くのか? 命の保証はできない。それに……」
「そんなの元々ないじゃない!」
彼女はきっぱりと言い切った。それは確かにそうだ。だとしても……。
「彼女の言う通りです。どうせ半年後になっても状況が改善している保証もないでしょう?」
犀原もイルミナティに続く。いやだから確かにそうなんだけど……。うーむ。
「……そうだ。何の保証もできない。だが半年間、なにも進展がないのかどうか、それもわからない。もしかすれば規則のようなものを発見できる可能性もある。それまで判断保留するのも賢い判断かもしれない」
「彼女と同様、私は行きますよ。これは逆に言えばチャンス。第一師団配属の大きな足掛かりとなるかもしれない」
犀原、やっぱり自信家だなあ。彼も並々ならぬ決意があるのだろうけど。
「ウチも行くで。おもろそうやしなぁ」
おおっと、ここで口を挟んだのはこの関西弁ガール。彼女は胡桃沢チームのリーダー、胡桃沢夏芽だ。おれはナックルと陰で呼んでいるぜ! 鋭い目つきに豊満なボディを持つ彼女は、火星マニアで有名である。中間考査でも疑似モンスター相手に様々な実験をしたというマッドサイエンティストだ。ちょっと怖いです。だが、これで各チームのリーダーは参加を表明したことになるぞ! どうする俺! ん? 俺はリーダーじゃないって?
「本当にここで決めて良いのか? 回答期限を再び設けるつもりだったが……」
「いらないわ!」
「不要です」
「いらんやろ。ここで決めれん奴なんか、どーせ行かへんやろし」
三者三様ではあるが彼らの意見は一致していた。ここで決めろってことね。うんうん……。余計なことをしおってからに! 若造どもが!
「お前たちはどうする?」
教官はため息を吐いて、リーダー以外の俺たちに視線を合わせた。
「あたしは……辞退します」
胡桃沢チームの一員である女性は(ごめん、名前ド忘れした)気まずそうに口を開いた。賢明とも言えるな。空気に飲まれなかったのは偉い! だが次いで言葉を発したのは意外な人物だった。
「僕は……行きます」
俺とイルミナティは目を見開いてミノムっちゃんの方を向く。君、行くのかね?
「僕たちのミッションは主に、人命救助や補給物資の運搬……そうですよね?」
「……ああ。主にはそういった役割になるだろう」
「それが確認できれば結構です。参加……します」
よもやだな。やはり助けたい人物などがいるのかもしれない。その覚悟は本当に天晴だ。普段の彼を知る俺からすればなんというか、天晴である! さて、回答権が残されたるは、伝説のドラゴンホリダーことこの私と……。
「オレたちもいくぜ! な?」
声を上げたのは犀原チームの陽キャ男だった。目を向けられた犀原チームのもう1人も控えめに頷いている。
あれ、やべえ最後になっちゃうよ。……行くべきか行かざるべきか、それこそが問題だ。シンプルな話じゃないか。何をもたついているんだい俺は……。そんなことを考えてるうちに、残された胡桃沢チームのもう1人も「行きます」と告げていた。みんな、すげえよ。
全員の視線が俺に注がれているような気がする。やめて。そんなに見つめられたら……。
「俺も……行き……ます」
俺は返事をしてしまった。そうだ、覚悟は決めてきたじゃないか。英雄になるのだと。正式な隊員となり、家族に安寧をもたらすのだと。正直めっちゃ怖い。でもここで逃げたって、俺の目的からは遠ざかるだけだ。どうせなら大活躍して本物の英雄となり、ド派手なる凱旋パレードと共に結月と真結美に会ってやる。かのガリアを制したユリウスカエサルのごとくな!
「全員、回答は出揃ったようだな……」
教官は珍しく目を伏せがちに、言葉を紡いだ。
「急で申し訳ないが、参加者諸君には一週間後の火星行きシャトルで火星に飛んでもらう。それまでに考えが変わったものは申し出てもらって構わない。質問のある者もいつでも聞いてくれ。……本日は以上だ。君たちの覚悟に敬意を表する」
教官が恭しく敬礼をし、俺たちも続く。ついに俺たちは火星へと向かうこととなってしまった。それがどんな運命を辿るのかは、誰も知らないままに……。
実のところ誠はメタと物語の中を自在に行き来する能力者なので時々こうして読者の皆様に語りかけます。
これは大いなる伏線……そう、彼の能力こそがこの物語のカギ……という名の作者の悪ふざけ……かもしれません。
正直に言えばかなりふざけながらその場のノリと思い付きで書いており、プロットとかほぼないのでキャラたちにお任せしてます。僕はキャラたちに試練を与え、痛めつける役割です。ごめんね誠、ホントに。泣きながら書いてるので許してください。
あ、もし面白いと思っていただけたらブクマや応援をよろしくお願いします!
みたいなことをあとがきでは言っといた方がいいよって偉い人が言っていたので書いてます。
それではよい一日を。




