白い塔
白い塔
私の眼の前に、白く雄大な塔がある。
石造りのようで、古めかしく、年季が入っている。多分、これは夢だ。夢と分かりながら渡り歩く夢は、これまでの人生で初めてである。
あたりは霧に包まれ、唯一わかることは森に囲まれているということだけだ。静まり返っていて、鳥の鳴き声の一つすらも聞こえない。何なんだ、この夢は。早く先へ進み、この夢を終わらせよう。とにかく、私はこの夢という名の物語を一刻も早くに終わらせなければならない。
外からは霧のせいか、塔の高さというのはあまりわからないが、中に入ると、最上階のようなところから光が入っているようであった。あれは朝日か、夕日か。まだわからない。螺旋階段になっていて、とてもつもなく長いようにも、短いようにも見えた。
螺旋階段は歪な形をしている。壊れそうとか、ひん曲がっているとかでもなく、とにかく歪なのだ。一段目に踏み出すと、思ったよりしっかりしているようだ。小走りで、五段目、十段目、そして二十段目へと軽快な足取りで進む、、、ここらあたりで窓があった。よく見るガラスとかではなく、ただの穴とも言えるが、しっかりとした石造り窓だ。だが、、、やはり霧で何も見ることができない。最上階からは陽の光が来ているのだから、きっと、霧は上に行くほどなくなるはずだ。そう思い、立ちすくんだ足を、進めた。
五十段目にまで来ると、疲労がやってきた。きつい。温度的に寒気がきながらも、疲労によるのか、汗が出て、気持ちが悪い。少し歩きながら進むことにした。
歩く速度で階段を登っている途中、ふと、下を見た。すごく高い。私はここまでよくやった。きっとだ。この夢というなの物語が終わるのも。
七十段目にやっとこさ来た。すでに息はゼエゼエ言っている。肌が乾燥しきっている感じがした。景観は今も変わらず、石造りの壁で囲まれ、上に登る以外、選択肢はない。もうきつくなってきた。いっそ、螺旋階段の真ん中の穴に落ちてやろうか。いや、だがまだである。この夢を早く終わらせなければ。
八十段目に来た。足腰が痛い。途中で一段、崩れ落ちたが、片足だけをのせていたのでギリギリのところでかわした。今思うと二十段目からここまで、あっという間だ。
九十段目まで来た。日の光が見える。私は最後の力を振り絞り、重い足腰を思いっきりあげ、登る、上る。
百段目である。最上階だ。塔の最上階にはちょうど、ベランダようなスペースがあり、あたりが見えるではないか!あたりの霧は晴れている!なんていい景色だろう!周りにあった草木は枯れ果て、皆、のんべりとしているではないか!朝日か夕日であったものは朔月と変わり、光はなにもない。
ふと、そんなところへ、風が来た。強く、拳のような風だ。私は塔から落ちた。
私の眼の前に、白く、雄大で、どこか懐かしく感じてしまう塔がある。