え? そんな雑に転生されられるんですか?
本日複数話投稿します。
「起きなさい、井草与一! いつまで寝てるのですか?」
綺麗な女性の声に呼ばれて俺は目を覚ます。
なんか真っ白な世界が広がっていた。
「うるせーな。明るいから電気消してくれ」
俺は体を横にして、再び目を閉じる。
「いや、電気とかじゃなくて。今、一瞬目を開けましたよね? 違う光景があったら普通驚きません?」
「昨日夜中までマ〇クラしてて眠いんだ。後で話聞くわ」
「いやいや、私が話しかけていますよね? 女神ですよ? 皆、会ったら泣いて喜ぶ女神ですよ?」
しばらく近くで何やら色々話していたが、俺は睡眠に集中する。
「起きろおおお! 女神放置プレイとか許されると思ってるんかあああああああああ!」
耳元で怒号が響く。
「うるせえええええ! こっちは寝てるっつてんだろうがああ!」
俺が怒鳴り返すと、目の前には少しキレている絶世の美女の姿があった。
衣の服に羽衣スタイルは痴女に見えなくもない。
「あんたは死んだのよ! DEATH! あの世! けど、感謝しなさい、私が凄い力を与えて転生させてあげるわ!」
え、俺死んだの?
死んだというナイーブな事実をこんなキレながら説明されることある?
「寝ていても金貰える力で頼む。働きたくねえんだ」
「はい!? 普通あんたくらいの年齢なら勇者の力とかを喜ぶもんでしょう?」
俺の言葉を聞き、自称女神が若干引いていた。
「現地通貨で百億円くらいでもいいぞ」
「自分の力で稼ぎなさい、井草与一よ。話をしていても、無駄そうなのでもうあなたを新しい世界に送ります。決して寝ていても金を貰える力など与えません。馬車馬のように働きなさい」
「おい、もう少し説明を。せめてその力の説明だけで——」
俺は最後まで言い終わることもなく、その空間から飛ばされた。
気付けば人だらけの広場に立っていた。
まじで飛ばしやがったよ、あいつ。
やべえ。適当に対応していたせいで、どんな力を貰ったのかも分からねえ。
現代日本ではコスプレに近いファンタジー旅人服を纏った全身を見ると、ポケットに銀貨が三枚だけ入っていた。
一つ言えるのは、この銀貨が一枚一億円相当の価値でもない限り、働かないといけないということだ。
俺は本日まで十八歳の高校生であったが、いきなり学生というスーパー免罪符を失い、ただの放浪者(まだ柔らかい表現)になってしまったようだ。
働かずに生きるために必死に勉強をしていたが、全て無駄になってしまった。
身体能力が上がったのか、体は前世より軽い気がする。
大きく深呼吸をした後、周囲を見渡す。
円形の広場を囲うように出店がずらりと並んでおり、出店を物色する人達で周囲は混雑していた。
どうすっかな。
取り柄と言えば、手先が器用なことくらいが……。
とりあえず、寝ていても暮らせる生活を目指すぜ。
目指せ、異世界引きこもり生活。
早速、出店の婆さんに声をかける。
「婆さん、楽で稼げる仕事を知らないか?」
「冷やかしなら帰んな」
そう言って、柄杓で水をぶっかけられる。
キレキレの返しである。
「婆、何しやがんだ!」
「あんたみたいな馬鹿、どこも雇っちゃくれないよ。冒険者でもしてな!」
婆にもやばい奴みたいに見られるし、ろくなことがねえ。
やはりいきなり異世界に来た住所不定無職を雇ってくれるところはないのか、俺は婆から聞いた冒険者ギルドへ向かう。
途中で集めた情報によるとここはエミル王国の王都バーリアというらしい。
日本とは違う石造りの建物を見て、ここが日本とは違うことを実感する。
結局俺はドラゴン退治をして英雄になるしかないのか。
それにしてもおかしい。
聞いた通りに向かっているはずなのに、段々治安が悪くなっている気がする。
ようやく俺は冒険者ギルドと書いてある建物を見つけ、中に入る。
中は絵にかいたような荒くれ者が酒を飲んでいる。
受付嬢が美人なのはなんでなんだろうね。顔採用なんだろうか。
そう思いながら声をかける。
「冒険者登録をお願いします。ヨイチです」
「分かりました~。ここは初めてですか?」
やべえ、田舎者なの一瞬でばれてんじゃねえか。
「簡単に説明してくれると助かります」
「えーっと、冒険者というものは魔物を討伐するというイメージが強いと思いますが、実際の依頼はそんな魔物討伐ばかりではありません。とくに初めの方は雑用の方が多いと思って頂いた方がいいです」
「ゴブリン退治じゃないんですか?」
「近くにそんなゴブリンはいませんからねえ」
いよいよフリーター感出てきたんだけど、大丈夫か?
いや、ランクが上がるとドラゴンスレイヤーになるんだろう。別になりたいわけではないが。
「初めての方はFランクから始めて貰います。最高位はSランクですので頑張って目指してくださいね。ヨイチさんの職業はなんですか?」
ジョブ? 社長とかか?
俺が首を傾げていると、受付嬢が説明してくれる。
「あれ? 村出身の方でも皆、ジョブ鑑定はしているんですけどね? この水晶に手をかざすと、貴方の適正ジョブが一つ浮かんでくるんですよ。剣士とか、農家とか、盗賊とか。基本的にはその適正ジョブにあった技能を磨いていく形になります」
「なるほどね。村でやった気がするけど覚えてないなー、残念ながら」
職業選択の自由はないのか……厳しい世界だ。
俺達の会話を聞いて、周囲の冒険者達がこちらに注目し始める。
「ジョブ鑑定を今更するらしいぞ?」
「どんな田舎もんだよ」
来たな。勝ち確イベント。
あの痴女が俺に与えた力の詳細を教えなかったのは、ここでジョブを知ることができたからなのだ。
いよっ、憎い演出だね!
「手をかざしてください」
俺は水晶に手をかざす。
そして、水晶が輝き始める。
これは……ソシャゲならSSR級の演出なのでは!?
そして光が収まった後、水晶には——何も文字が浮かんでいない。
あれ?
「故障してない? おーい? ジョブが凄すぎて表示しきれなかったか?」
俺はこんこんと水晶を叩く。
「高いので止めてください! 本当に何も表示されていませんね」
「表示されていませんね、って俺の適正ジョブは?」
「ない、ですね」
ないですね? ノージョブ(無職)、ってこと!?
「適正ジョブなしって……無職じゃねえか!」
次の瞬間、ギルドが爆笑に包まれる。
「ハハハハハ、一つも出ない奴はじめてみたぜ!」
「ノージョブのヨイチ、新たな伝説が生まれたな」
後ろの禿げたおっさんが、渋い顔で酒を飲みながら言う。
最低でも、剣聖とか賢者とか花形ジョブの流れだっただろ!
異世界で無職って、シャレになってねえぞ!
「ふっ、ふふ……! まあ、長いこと戦っているうちに適正ジョブが出た、ってこともあるらしいですから」
受付嬢が笑いをこらえながら言う。
こうして俺は、名実ともに無職となった。
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