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4:ルクシアルへ続く道・3

 魔物がいないところで改めて話を始めたエイミたちは、順番にモーアンに経緯を説明していった。

 ドラゴニカの城が魔物を率いた魔族に奪われたエイミと、グリングランの町を襲ったかつての家族、そして旅立った育ての親を追いかけてきたフォンド。

 どちらも千年前に女神に封印された魔族絡みということでルクシアルを目指し、旅の途中で出会ったということを。


「……なるほど。それは確かに急ぎの用だ」


 ひと通り聞き終えたモーアンは顎に手をあて、やや上方を向いた。


「オレたちの事情はひとまず置いといて、次はモーアンさんの番だぜ」

「そうだね。僕の話もあながち無関係じゃないのかもしれないし」


 フォンドに促され、薄緑色の目が静かに閉じられる。過去を思い返し、言葉を噛み砕きながら話し始めた。


「僕はルクシアルの神殿で、何でも屋みたいなことをやっていたんだ」

『何でも屋?』

「神殿には悩みを抱えた人が日々訪れるけど、その数は多くてなかなか神殿に入れない人もいてね。できる範囲でちょっとしたことの受け皿になれればと、僕が勝手に始めたことなんだよ」


 他の神官は忙しいからこんなことしないよ、と付け加えて。

 悩み相談に失せ物探し、喧嘩の仲裁や屋根の修理までやったことがあり、気軽な頼みやすさからか特に子供からの依頼が多かったとモーアンは笑う。


「僕にはノクスという幼馴染の神官がいてね。僕と違って優秀で忙しくて、でもたまにやれやれいいながら何でも屋の仕事に付き合ってくれてたんだよ。それで、その日もきらめきの森でワンちゃん探しの依頼に同行してくれたんだけど……」


 きらめきの森とは、神殿の北、聖なる霊峰の手前にある森のこと。光の粒子が宙を舞う、神秘的な森だと説明しながら話は続く。


「きらめきの森では神殿の女神像の影響もあって、凶悪で強力な魔物は現れないはずだった。強力な結界から離れれば多少は魔物も出るけれど、脅威にならないぐらいのものだったんだよ」

「それが、違ったんですね?」


 港町リプルスーズでの魔物の襲撃がエイミたちの脳裏をよぎった。神殿ほどではなくても、あの町にも女神像の結界はあったはずなのに。


「……ワンちゃんは魔物に襲われてた。襲っていた魔物は不気味な黒いモヤを纏っていて、強さも凶暴さも普段知るそれとは段違いだった」

「黒いモヤ……」

「魔物はノクスが魔法で倒してくれた。その時はおかしな様子はなかったんだけど……夜になって、彼は豹変してしまったんだ」


 モーアンの声音が低く、緊張感を帯びていく。エイミたちはその変化にごくりと息を呑んだ。


「彼は一年前、将来を約束した恋人を亡くしたんだけど……彼女を蘇らせる方法を見つけたと、突然言い出した」

「そんな……そんな方法あるもんかよ!」


 かつて両親を亡くしたフォンドが強く否定すると、モーアンも険しい表情で頷く。


「僕もそう思う。あったとしても……それは恐らく、人の道を外れたものだ」

「じゃあ、モーアンさんが言ってた行き先もわからない相手って……」

「そう。ノクスは止めようとした僕を攻撃して、姿を消した。魔物と同じ黒いモヤを纏って、使えないはずの闇の魔法を使ってね」


 これが、モーアンが旅立った理由。そこまで聞いて、エイミはひとつ思い出したことがあった。


「黒いモヤ、ですか……確か、港町で襲ってきた魔物から、そんなものが吹き出ていたような……?」

「えっ、本当かい!?」

『私も見たわ。魔物の群れのリーダーから、倒した時にぶしゅーって』


 続くミューの言葉を聞くと、モーアンは腕組みをし、俯いてうーんと唸る。やがて右手の人差し指をこめかみにあててトントンと叩いた。


「……やっぱり、神殿には僕も行った方が良さそうだ。大神官にはこちらから取り次いでおくよ」

「あ、ありがとうございます……!」


 ルクシアルの神殿に辿り着いたからといって、スムーズに話が進むとは限らない。モーアンがいることで、どうにかしてもらえそうだ。


(よかった……これで少しでも早くドラゴニカの、世界の危機を伝えられる……)


 じめじめとした薄暗い洞窟内で、希望の光が射し込んだような、そんな気がした。

 エイミは胸の前に両手を重ね、この巡り合わせの奇跡にそっと感謝を捧げるのだった。

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