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43:道化師はかく語りき・4

 海の聖獣シュヴィナーレに運ばれて、一行は再びルクシアルを目指す。


『あれから随分経ったような気がするわねぇ』


 しみじみと呟いたのはミューだった。思えばこの場にいるほとんどのメンバーが旅の最初に目指したのは、女神のお膝元と称される信仰都市ルクシアルで……


「あの時、とにかく他に縋れるものがなかったんだよな。オレはグリングラン以外に行くのも初めてだったし」

「旅とか商売とか他に特別な理由がなきゃ、住んでる場所を離れるなんてそうそうないものよ。外は結界で守られてないんだから」

「それでいきなり一人放り出されるんだから心細いなんてもんじゃないよねー」


 順番にフォンド、プリエール、サニー。仲間たちの言葉にうんうんと頷くモーアン。彼に至ってはルクシアルを出てすぐにエイミたちと出会い、そのままルクシアルに戻ることになったので、一人で行動していた時間は短い。


「俺も騎士団の任務で外には出たことはあっても、せいぜいディフェット周辺だったしな。隊長や父は遠征もしていたみたいだが」

「そう考えると、本来なら皆さんと出会う可能性はものすごく低いんですよね……」


 しみじみ噛み締めるエイミもまた、旅に出る前はドラゴニカからほとんど出たことがないどころか空も飛べない半人前の竜騎士だった。

 今ではミューの背に乗って空中から攻めるのが仲間との連携をとる上でお決まりの戦法となっているのだから、旅の中で彼女たちがどれだけ成長したか計り知れない。


「そんなメンバーと、もう一度ルクシアルに戻るんだな」

「ルクシアルに……」

「モーアンさん?」


 ふ、とモーアンの瞳に影が落ちる。日頃穏やかで朗らかな神官の笑みが僅かに曇る。


「……今度ルーメン様に会うのはノクスを連れて一緒に帰る時だって、そう思ってたんだけどな」

「あ……」


 彼にとっては父親がわりでもある大神官ルーメン。

 行方不明のノクスのことも、そして危険な旅に出たモーアンのことも、どれだけ心配しているだろうか……それがわからないモーアンではない。


「でも、ここまでの旅でたくさんのことを成し遂げましたよ。モーアンさんがいてくれて心強かったって、お話しようと思っています」

「それにモーアンさんがここまで無事だったことだって、ちゃんと知りたいと思うぜ。大神官のおっさん、モーアンさんを見る目がうちの親父みたいだったからさ」

『そりゃあこんなへっぽこ神官じゃ心配よねぇ……たまにはほんの少ーしだけ頼りになるケド』


 悪魔に支配されたディフェットとミスベリア、それにドラゴニカを救うこともできた。

 旅の目的のひとつでもあった八精霊と契約を結ぶことだって、きちんと成し遂げたのだ。

 ここまでの旅路は、モーアンが過ごしてきた時間は、決して無駄なものじゃない。一行の中で特に付き合いの長いエイミやフォンド、ミューにそう言われ、モーアンの表情から陰りが消えた。


「……うん、そうだね。きちんと胸を張らないと、また叱られちゃうよね」


 こうして彼らは始まりの地とも言えるルクシアルへ、久々の帰還を果たすことになる。

 そこで待ち受けているものなど、まだ知る由もなく……――。

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