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43:道化師はかく語りき・3

『ウチのチカラも存分に使っちゃって! レニちんが一生懸命守った世界をぐちゃぐちゃにしようとしてるマジヤバ連中なんかの好きにさせるもんか!』


 悪魔と実際に対峙して、彼女なりに思うところがあったのだろう。

 協力すること自体は了承していたがそれほど乗り気に見えなかったベルシュが、今は鼻息荒くやる気に満ち溢れている。


『あの時必死で封印した連中がああも悠々と活動再開しとるのを見て、腹が立ったんじゃろ』

『何でも良い。やる気を出してくれるならな……』


 光と闇の精霊がやれやれと溜息を吐く。さらに闇精霊は、気怠げに言葉を続けた。


『こんな奴だが一番女神に近しい精霊だ。生命力を司るだけあってその力は強大だぞ。こんな奴だが』

『ちょっとぉーこんな奴ってなにさー!? 二回も言うなし!』

「女神に近しいって……?」


 レレニティアとベルシュが昔からの友であったことと、精霊の力の強さが関係しているのだろうか。

 疑問を口にしたサニーを始め、仲間の誰もが不思議そうな顔をする。


『あ、近しいって、仲良しだからってコトじゃないよ?』

『女神となったレレニティアは世界の中心とも言える聖域“星の庭”に眠っている。美しく緑豊かで、星樹と呼ばれる大樹がそびえるそこは、木の精霊力が一番濃く満ちた場所なのだ』


 精霊たちの話を聞いて「あ」と声を漏らしたのはモーアンだった。


「“少女は傷ついた世界を癒すため女神となり、星の庭から世界を見守るのだった”……昔読んだ本は、そんな言葉で締め括られてた。ルクシアル近く、きらめきの森の奥にある霊峰の頂には、聖域への扉があるって話も。ホントにあるんだ、星の庭……」


 しみじみと飛び出した神官らしからぬ発言にプリエールが呆れ顔でツッコミを入れる。


「ホントにあるんだ、って……確か霊峰はルクシアルで管理してるんでしょ?」

「いやぁ、僕はただの下っ端だし……今の最高位、大神官ルーメン様ならご存知かもしれないけど」


 千年前のおとぎ話がどれだけ脚色されて語られているか、その真偽を知る者などこの世界にほとんどいないだろう。

 女神レレニティアを祀るルクシアルの神官といえども、末端のモーアンにはその程度の認識だった。


『そんなら一度行ってみる?』

「え?」

『八精霊が揃った今なら、星の庭へ行けるよ。レニちんは星の庭から出られないけど、こっちから会いに行くことはできるってこと!』


 ベルシュからの思いがけない提案で、エイミたちはルクシアルを訪れた時のことを思い出す。

 旅の途中でいろいろなことがあり過ぎて状況が変わってしまったが、そもそも最初の目的が精霊を集めることだった、と。


「星の庭でなら、レレニティア様とちゃんとお話ができますね。千年前の脅威にも、何か対抗策があるかもしれません」

「ルーメン様のところにも一度報告と、霊峰への立ち入り許可を貰いに行ったほうが良さそうだね」


 うん、と頷き合う仲間たち。これで次の目的地は決まりだろう。


「よーし、んじゃ次はルクシアルだな!」


 元気よく拳を振り上げるフォンドに「おー!」とサニーが続く。

 浜辺へ向かって歩き出す一行の中でシグルスだけが一旦立ち止まり、集落がある森の奥をちらりと振り返るのだった。

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