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42:最後の精霊・1

 エルフの族長ケラスィーヤから話を聞いたエイミたちは、木の精霊ベルシュが住まう地へと向かった。

 それはこのシルワ島の中心地であり、ひときわ目立つ大きな木がそびえるところ。島の者たちにとって大切な場所だという話だ。


『実はわらわたちもここに来るのは初めてなのじゃ』

『ベルシュは一番最初にレニと出会っていたからな』

『ちっちぇー頃からの付き合いらしくて、姉妹かダチみたいに仲良かったよなあ』


 精霊たちが口々にそう言うと、プリエールが首を傾げる。


「レニってレレニティア様のことよね? 確かケラスィーヤ様も言ってたわ」

『便宜上女神と呼ぶことはあるが、我々はそもそも彼女がヒトだった頃からの付き合いだ。今の君たちと同じような感じで、気安い仲だったのだよ』

『あと普通に名前が長いからのう。ケラスィーヤのことも、レニはスィヤと呼んどったぞ』


 ラクト、ディアマントの説明に自らのことを思い返しなるほどと頷くプリエール。

 彼女自身も同様の理由でアルバトロスとは「アルバ」と「エル」と呼び合っていた。


『女神といってもかつてはそなたたちと同じ……ひとりひとり等身大の姿があるように、レニもそうだった』

「等身大の姿……」


 おとぎ話の中に語られ、世界を救った、偉大で遠い存在。そんな女神レレニティアがかつてハーフエルフだったことすら、つい先刻知ったばかりの話だ。

 女神の力を託され、彼女と同様に精霊や聖獣の力を借りながら旅をして、復活した当時の脅威に立ち向かって……

 ここまで旅路に類似点がありながら、エイミたちは……恐らく、ほとんどの者がこの世界の大地の名にもなった“レレニティア”という人物のことを何も知らない。


「……ベルシュさんは、どんな精霊さんなんでしょう?」


 レレニティアと最も近しい木の精霊。きっとそれを知ることも、おぼろげだった“レレニティア”の輪郭に触れるひとつの手がかりになるのだろう。

 エイミが疑問を口にすると、精霊たちの何体かが揃って渋い顔をした。


『……正直、我は苦手だ』

『そうだなあ……強いて言うなら、火の玉爺と近えタイプというか……?』

『まあ、会ってみればわかる……とだけ』


 途端に歯切れが悪くなる彼らに、そこはかとなく嫌な予感がして思わず顔を見合わせる一行。

 すると……


『なにナニー? ウチのハナシしたー?』


 きゃらきゃらした少女の声が降ってきて、大樹の前に小さな女の子が姿を現す。

 よく茂った緑色の葉っぱを思わせる髪のあちこちに花を散りばめ、足元を隠す長い丈の褐色のドレスは木の幹や根のようで。言ってしまえば一本の木をヒトの姿に近づけた、そんな容姿をしている。


『みんなちょー久しぶり! そして人間ちゃんたちははじめまして! ウチが木の精霊、ベルシュだよっ! ベルぽよって呼んでもよきだよー』

「ベ、ベルぽよ……?」

『いきなり濃いわね……』


 あまりの勢いに目眩さえ覚えるモーアンやミューに、ベルシュは金色の目をばちんとウインクしてみせた。

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