37:家族・2
仲間たちが魔物と乱戦を繰り広げる最中、フォンドとジャーマだけはまっすぐ互いのみと対峙していた。
魔族になったと豪語したその言葉どおり、変わり果てた姿の兄弟。最後に手合わせした時より数段重く、速くなった拳打を流せば、凄まじい風圧がフォンドの頬を掠めた。
「ッ……まともにくらったらやばいな」
「ハハハハッ! 避けてばかりでは俺は倒せんぞ、フォンドォ!」
「わかってる、よっ!」
パワーやスピードは上がったが、その分大振りになった攻撃の隙をつき、魔法で威力を上乗せされたフォンドの蹴りが炸裂する。
ぱぁん、と弾ける音と共に、魔力の冷気が飛び散った。
「フン、仲間の力か……そんなもの」
「ガルディオに命を握られてる力よりはいいだろ!」
「なに?」
ぴくり、ジャーマの口の端が動く。己の全身を巡る力の正体を、彼は知らないのだろうか。
「お前と同じような術でパワーアップした魔族と戦ったことがある! そいつはオレたちに負けて暴走した後、突然死んじまった!」
「なん、だと……」
「だから早く、そんな力からは手を引いて……」
「やかましい!」
フォンドの必死の説得は、豪快に振り回したジャーマの腕に阻まれた。
咄嗟の防御はどうにか間に合ったが、勢いにおされてフォンドが僅かに後ずさる。
「ぐ……ジャーマ……!」
「そうか……さっきから感じる心臓が潰されそうな息苦しさはそのためか……だがそれがどうした!?」
「!」
「こうなれば後戻りはできんのだろう? ならお前らを倒すだけだッ!」
瞬間、思いっきり殴りつけられたフォンドの体が吹っ飛び、瓦礫のひとつに激突する。
「がはッ、ぐ……っ」
「フォンド!」
ガラガラと破片と共に崩れ落ちるフォンドにラファーガが駆け寄りかけ、ハッと思い留まった。
「ラファーガ、フォンドの次はキサマの相手もしてやる。俺を騙し続けた魔族め、手加減なんかして俺を見下したことを後悔させてやるッ!」
「ジャーマ……」
ぐ、とラファーガの顔が悲痛に歪む。ジャーマやフォンドの家族を奪ったのは魔物を率いた魔族で、広い意味では自分も同族だ。
その事実を十三年ものあいだ隠し続けてきたのは事実。責められても当然だ、と……
「ちが、う……違うっ!」
「フォンド……?」
倒れ伏したフォンドが顔を上げ、拳で地面叩いた。
「お前は親父の何を見てきた!? ずっと正体を隠してきたとしても、十三年もオレたちを育ててきただろ! 不器用で、料理下手で、時々ちょっと情けなくて……それでも親であろうとしてきただろ!?」
「!」
「今だって、お前の呪いを解くために危険を承知でここまで来たんだ。圧倒的な力をもつガルディオに、たったひとりで……そんなの、情がなけりゃなんだっていうんだ!?」
ずる、ずると引き摺るようにしてジャーマににじり寄るフォンド。
仲間からの強化魔法の効果は切れ、今の彼はジャーマにとって脅威ではないはずなのに、金縛りにあったみたいにジャーマの足が動かなくなる。
「お前だって、それを感じてんだろ? 親父のこと信じてたから……」
やがて震える手がジャーマに届き、肩を掴む。
その力は強く、咄嗟に振りほどけないほど。だが……
「家族だと思ってたから、裏切られただなんて言ってショックを受けたんだっ!」
「――ッ!」
何よりジャーマが圧倒されたのは、真っ直ぐに見つめてくるフォンドの、涙が滲んだ眼であった。




