35:戦いのあと・2
別行動していた仲間と合流したエイミたちが城の中庭へ出ると、そこには操られていた竜たちが戻ってきていた。
『操られていた時のことは朧気だが覚えている。面目ない……』
『けど、元に戻ったのはこの城の周辺にいて結界の影響を受けた者だけみたい。やっぱり大元を倒さないといけないね』
「そうですか……」
竜たちの話を聞き、エイミが僅かに俯く。
だが、すぐに顔を上げ、彼らの顔をまっすぐに見つめた。
「わかりました。まずはパートナーのもとへ行ってあげてください。彼女たちに城を取り戻したことを伝え、復興のために呼び戻してほしいのです」
『エルミナ様は?』
「わたしたちはこのまま次の目的地へ向かいます。魔族や他の脅威を野放しにはできませんから」
凛とした、芯のある声音。竜たちが僅かに目を見開き、そして細めた。
あたたかく、慈しむような瞳の光が、竜たちにとってエイミがどんな存在なのかを知らしめる。
『……承知致しました。どうかご無事で……』
「ありがとうございます」
大きな翼をひろげ、竜たちのうち数匹が飛び立っていく。
ひとかたまりでは動かず、半数ずつ城の守りにつくことにしたようだ。
話がひと通り終わったのを見届けると、サニーがおずおずと挙手する。
「あ、あのさ。次に行く前に山小屋に寄っていい? 門番さんたちそろそろ目を覚ましてると思うんだ」
「確かにそうだね。彼らも魔界には帰れないだろうし、勝手に抜け出されて何かあったら困るか」
騒ぎにならないよう密かに眠らせて拘束し、山小屋に隠した魔族の門番がふたり。
彼ら自身はほんの下っ端な上に、無理矢理連れてこられて魔界にも帰れないとぼやいていた。
「なるほど、今のうちにきっちり始末したいと。あんた神官のくせに意外と物騒な……」
「そんなこと言ってないでしょ。物騒なのはきみの発想だよ」
「冗談だ」
「真顔で言われるとわかりにくいよ……」
もちろん、モーアンがそんな物騒な提案などするはずがないとわかっていての発言なのだが……指摘を受けたシグルスは、ふ、と表情を崩した。
「と、とにかく、行ってみましょう。暴れてないといいのですが……」
「訳もわからず眠らされて目が覚めたら縛られてたとか、まあ普通はパニックものだしな……」
オレでもそうなるわ、とフォンドが呟くと、情景を想像したらしいエイミが思わず吹き出す。
「なんで笑うんだよ?」
「ふふ、ご、ごめんなさい。フォンドが大騒ぎしてるのすんなりイメージできちゃって……」
「ったく……まあ、元気になったら良かったわ」
フォンドは少し気恥ずかしそうに頬を搔き、先行して山道を下り始める。
ノール・エペの山に吹く風は、ひんやりしながらも穏やかなものへと変わっていった。




