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35:戦いのあと・1

 ドラゴニカの城を奪還したエイミたちは、玉座の間にあった女神像の結界を強化して張り直した。

 すると外を旋回していた竜たちの瞳から妖しい輝きが消え、ゆっくりと地上に降りてくる。


「これは……」

『ガルディオの支配が弱まったところに結界の浄化作用が働いて、元に戻ったようじゃな』


 もともと、不安定な支配だったようじゃからと付け足す光精霊。

 操られていた竜たちも元通りとなれば、近隣の住民も安心して外を出歩けるようになるだろう。


「これでグリングランへの道も通れるようになるし、定期船も再開できるな!」

『ブランヴワルの人たちもひと安心かしらね。下のみんなと合流しましょ』


 祈りの間へ向かったメンバーもこちらへ向かっている頃だろう。下階へ降りていけば、合流できるはずだ。

 と……


「あ、あら?」


 ぺたんと、エイミがその場に座り込む。自分でも予想していなかったのか、大きな目をぱちくりさせて。


「あ、安心したら、力が抜けてしまったみたいで……」

「ずっと張り詰めっ放しだったろ? お疲れさん」

「きゃ!?」


 フォンドはからからと笑うと、少女を軽々背負って歩きだす。


「ありゃりゃ」

『ちょ、ちょっと何すんのよ!?』


 仲間たちは驚きに目を丸くし、それぞれ声をあげる。

 さすがのエイミもこれには顔を真っ赤にして、ぽこぽことフォンドの肩を叩いた。


「フォ、フォンド、わたし、歩けます……!」

「いろいろ大変だったんだ。ちょっと休んどけ」

「それは皆さん同じでしょう?」

「……同じじゃねえよ」


 ぴた、とエイミの手が止まる。フォンドの声がワントーン下がり、真剣さを帯びて。


「今すぐ飛び出したくなるような衝動を抑えて、ずっと耐え抜いて、ようやく念願の城を取り戻したんだ……同じなもんかよ」

「――っ!」


 天色の瞳が潤み、じわりと涙が滲む。

 泣き出してしまいそうな顔をフォンドの豊かな髪に埋め、震える手でギュッとしがみつくエイミ。


「……ご、めっ……ごめん、なさい……少しだけ、こうしていてもいいですか……?」

「おうよ。気が済むまでいいぜ」


 ひく、ひっくと声を堪えながらしゃくり上げる少女を振り返ることなく、青年は穏やかに笑う。


「フォンドってば、やるじゃないか」

『ったく、もう……今だけ、だからね』


 そう。大きな目標を成し遂げた、今だけは。

 ようやくひとつの戦いが終わった――そんな実感が、じんわりと彼らの胸に満ち始めるのだった。

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