32:ドラゴニカは目の前に・3
ブランヴワルの町にそれぞれ散っていったエイミたちは神殿から休んでいなかったこともあってしばらく後に宿屋に集合した。
ひとあし先にコートを着ていたサニーが、嬉しそうにくるくる回りながらあちこち確認する。
「あっサニー、かわいいですね!」
「うんっ。それに軽くて動きやすいよ! さっすがプリ姉の見立てだよねっ!」
この辺りに生息するギンカヒツジの毛を編んだコートはもこもこして可愛らしさもさることながら防寒効果もしっかり高く、サニーの動きを妨げることもない優れものだ。
彼女をはじめ、プリエールが選んできた防寒着はどれもそれぞれによく似合った、戦闘でも妨げにならないものばかり。
全員に試着をさせると、プリエールは満足げな笑みを浮かべた。
「わたしまでこんな……寒さには慣れているので大丈夫なんですが……」
半竜人は寒さにも強いのか、そもそもエイミ自身が何事も鍛錬で済ませてしまうのか、ここまでの道中でも彼女はけろっとした様子で雪の中を歩いていた。
「こっちが見てて寒いからせめてケープだけでも羽織って!」
『まさか竜とお揃いのケープがあるなんてねぇ……さすがドラゴニカ近くの町だわ』
きっと竜騎士たちも御用達の店なのだろう。なんだか一人前の仲間入りをしたように思えてエイミもミューも嬉しくなる。
と、おもむろにモーアンがテーブルの上に地図をひろげ始めた。
「……さて、ファッションショーはこのくらいにして……そろそろ次の目的地について話そうか」
地図によれば、ここブランヴワルの北へ道沿いにしばらく歩けばノール・エペ山。頂上付近にはドラゴニカの城がそびえ、麓には小さな村があるという。
エイミはブランヴワルの位置から街道をなぞり山の麓を指し示しながら、それらを説明する。
「麓の村はたぶん、今はもぬけの殻だと思います。魔族襲撃の際グリングランに避難させましたから」
「そうそう、一部はこの町にも逃げて来てるみたいだよ」
情報収集に向かっていたサニーは、町中で見かけた竜騎士らしき女性に声をかけていたようだ。
「……その村、拠点に使えそうだな。ここから山までの距離もあるが、さらにその山を登り城でも魔物や魔族と戦うことになるだろう。体を休められる場所が必要だ」
「山の中にも休憩用の山小屋があるはずです。使わせていただきましょう」
シグルスとエイミが頷き合う。決戦を控えた今、できるだけ万全な状態で城まで辿り着きたい。
『操られてる竜が空から見張ってるんじゃないかしら……街道を行く間が不安ね』
アクリアに守られているブランヴワルを出れば、しばらくは遮蔽物もない道が続く。
空を飛ぶ竜たちからすれば、無防備なことこの上ないだろう。
そこに進み出たのは、光と風の精霊たちだった。
『そーゆー時はアマちゃんにお任せじゃ。見えないようにちょちょいっと誤魔化してやるぞい』
『ならば音や匂いの遮断は私に任せて貰おう』
「うおお、心強いぜ!」
姿を隠す魔法道具に使われているのも光の魔法で、以前にもディアマントの力で周りから見えないようにしてもらったことがあった。
そして音を伝えるのは空気で、匂いは風に乗って流れてくるもの。
(ふたりの力を借りたら義賊のシゴトもやりやすくなるかな……なんて、さすがに悪用だよね)
サニーは一瞬よぎった考えを遠くに追いやると、少しだけばつが悪そうに笑うのだった。




