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31:海の聖獣シュヴィナーレ・3

 道中で戦ったクラゲ型やイカ型の魔物とは明らかに違って“聖獣”という生き物はどういうものかと知らしめるような、美しく神秘的な姿。

 角度で色を変える艷やかな光沢はさながらオーロラをドレスに仕立て上げたかのようだ。

 あまりの華麗さに言葉を失って、しばらく見惚れていた一行だったが……


『シュヴィナーレ、久し振りだな』


 間に入るように現れた風精霊により、現実に引き戻される。


『もう気づいているだろう。かつての脅威が蘇り、再び世界を脅かそうとしている。彼らに力を貸してほしい』


 聖獣は何を言うでもなく、彼やエイミたちを順番に見つめている。


「……喋らないの?」

《口じゃあ、ね》

「うわ!?」


 キン、と音が突き抜け、頭の中に直接声が響いた。

 年嵩の女性らしきしわがれた声。シュヴィナーレは丸い笠をふわふわさせながら、エイミに語りかける。


《ドラゴニカの王族……パメラではないね。彼女はどうしたんだい?》

「じ、実は……」


 ドラゴニカの城を魔族に奪われたこと、魔族と戦って命を落としたと思われた女王が魔族に操られてグリングランの町を襲ったこと。

 そして今のドラゴニカに行く方法としてここに行くようブリーゼに言われたとエイミは聖獣に説明した。


《……なるほど、そんなことが……海の魔物がおかしくなっているのは知っていたが、陸のこととなるとどうも疎いねぇ》

「力を貸していただけますか?」

《お安い御用さね。みんな一箇所に集まりな!》


 シュヴィナーレに言われるままエイミを中心に寄っていくと、全員まとめて大きな泡に包まれ、浮き上がる。


「きゃっ、何!?」

《その中にいれば安全だから、じっとしてるんだよ》


 泡は触手に絡め取られ、抱き締められる形で海中へ。

 突然のことで何人かが悲鳴をあげたが、泡の中ではまるで水が満ちているように中を漂うことができ、それでいて呼吸や会話はできるという不思議で快適な空間となっていた。


「どうなってるんだこれ……魔法の泡?」

「そういえばブリーゼさん、次の精霊の住処とは海中で繋がってるって、ま、まさか……」


 フォンドの言葉が終わらないうちに周囲の景色がどんどん暗くなっていき、ぐん、と横に加速する。


《地下に泉に繋がる穴があるのさ。さぁ、突入するよ!》

「それはいいけど速過ぎて怖ぁぁぁぁ!」


 それらしき横穴に入ってからは猛スピードで細い通路を潜り抜けて。

 泡の中でその衝撃に晒されることはなかったが、ある者は面白そうに外の景色を眺め、ある者は絶叫。またある者は唖然とし、そしてある者はあまりの光景に気絶した。


「お、お花畑が見えた……」

『ちょっとアンタ、それ大丈夫なの……?』


 泉に到着し、陸に戻され意識を取り戻したモーアンはぐったりとそう呟く。


《その“さざなみの貝笛”を大事に持っときな。海の近くかここで使えば駆けつけるから》

「そしたらまたさっきのやってくれるの!?」


 きらきら目を輝かせるサニーに、からから笑うシュヴィナーレ。


《ははは、チビちゃんは気に入ったかい。そうさね、そこの兄ちゃんが保たないから広い海じゃなるべく安全運転かねぇ》


 えー、と不満の声をあげるサニーの後ろでモーアンがほっと胸を撫で下ろす。

 貝笛を抱えたエイミが、泉に潜ろうとする去り際のシュヴィナーレに慌てて駆け寄った。


「あのっ……ありがとうございました!」

《……必ず、ドラゴニカを取り戻すんだよ。そして、あの子も……》


 あの子、とは王族としてもともと神殿を訪れていたであろう女王パメラのことだろうか。

 一瞬、シュヴィナーレが目を伏せたような、そんな気配がした。


《アンタたちはどことなくレレニティアに似ている。負けるんじゃないよ!》

「はいっ!」

《いい返事だ!》


 そうして今度こそ、海の聖獣は外海へと帰っていくのだった。

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