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31:海の聖獣シュヴィナーレ・2

「な、なんとかなったね……」


 巨体はそれだけ消滅に時間もかかるのだろう。徐々に形を失っていく魔物を尻目に、モーアンは仲間たちに回復魔法をかけた。

 魔物に取り憑いていた黒いモヤも一緒に霧散していく光景は、モーアンとプリエールには大切な友人を思い起こさせるのだろう。ふたりの表情がどこか哀しげだ。


「……うん。切り替えましょう!」


 小声で呟くと、ぱちんと己の両頬を叩くプリエール。次の瞬間にはいつもの笑顔で仲間たちを振り返った。


「さぁ、いよいよね。ブリーゼさんが言うからにはこの扉の向こうに何かしらあるんでしょうけど……」

「まさか、聖獣ご本人がいたりして?」

「開けてみますね。念のため、皆さんはさがっていてください」


 何が出るかはわからない。エイミは仲間が距離をとったのを確認して、おそるおそる扉に触れた。

 ドラゴニカの王族の血に反応してか扉の縁が青色の光を発し、重々しくゆっくりと開いていく。


「これは……!」


 扉の内部は神殿と同じ石造りの大部屋になっていて、奥には祭壇、中央には水を湛えたプールのような丸い穴があった。

 プールを覗き込むとどこまでも深く暗く、底がまるで見えない。

 荘厳で清らかで、どこか重く冷ややかな空気が満ち、一行は身が引き締まる思いがした。


「どうやらここからも海に繋がっているようだな」

『じゃがここへは魔物は入って来られん。聖獣の領域じゃからのう』

『左様。先程の“禁呪の魔法士”が退いたのも、ここには近寄れなかったから。女神の守りに弾かれた時点で、それを察したのであろう』


 禁呪の魔法士は女神の力のカケラである“聖なる種子”をもつプリエールに触れようとして弾かれてから、一度は狙いをつけた聖獣のこともあっさり諦めて引き下がった。

 光と闇の精霊が言うように、彼はこの部屋に入ることはできないのだろう。


「けど、町とかここにもある女神像だって結界が張られてるよな?」

『古く劣化した結界くらいなら破れるのじゃろう。魔物の一匹二匹ならともかく、千年後、これだけ平和な時代にかつての脅威が蘇るなどと誰が想像したじゃろうか……』


 これまでの旅の中でも魔物や脅威が町に侵入したことは何度かあった。

 結界の綻びを見つけ次第修復してはいるが、千年という時は想像以上に長い。恐らくは世界中、エイミたちが把握できないほどあちこちで起きていることだ。


「当時は今その時のことで精一杯か……責められねえよな、それは」


 女神だって遠い未来に丸投げするつもりはなかっただろう。ただ、予想外のことが重なって今の状況があるのだ。

 そもそも彼女が禁呪の魔法士を含む脅威を封印しなければ、現在この世界にエイミたちは生きてすらいない。もしかすれば、世界そのものが存在していたかも怪しいところだ。

 今はエイミたちが女神の力を借りて、戦わなくてはならない。そのためには……


「あれは……この神殿のお宝? なんか笛みたいだけど……」


 台座の上、大事そうに祀られている“宝”は、貝を加工した笛のようなものに見えた。

 ふらりと、エイミの足が自然に台座に歩み寄る。笛を手にすると、それは淡い光を発してひとりでに鳴り出した。


「綺麗な音色……」


 優しく、穏やかな旋律に思わず聴き入っていた一行だったが、直後足元から……いや、水の中から巨大な気配が迫ってくる。


「なっ、なんだなんだぁ!?」


 ざぷんと現れたのは、丸く透き通った柔らかそうな物体。ひらひらした、上等なレースやフリルを思わせる細く長い何本もの触手。

 壁画で見かけた“子供のらくがき”はこれだったのかと思い出したモーアンが口許に手を置き考え込む。


「でっかいクラゲ……!」

「聖獣シュヴィナーレ……なのか?」


 シグルスが独り言のように問いかけると、クラゲはふよんと頭を弛ませ、応えてみせた。

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