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【第25話】激怒の覚醒



「皆、聞いてくれ! もしかしたらサイクロプスには言葉が通じるかもしれない。だから俺は通じる可能性に賭けて今から言ノ葉飛ばし(ことのはと)でサイクロプスのメンタルをかき乱して隙を作ってみせる。隙が出来たら一斉に畳みかけるぞ!」


 俺は仲間にも視聴者にも分かりやすく作戦を伝えた。仮説に対し視聴者たちは盛り上がってくれているようだが、俺の発した言葉自体がサイクロプスの耳に入っているから却って冷静になっているかもしれない。


 ここはサイクロプスが目で見る文字のみを理解しているのか、口から発した言葉も理解しているのか確かめる必要がありそうだ。今にも殴りかかってきそうなサイクロプスを前に俺は肉声で語り掛ける。


「なあサイクロプス! お前は俺達の言葉を理解しているのか?」


「ウウゥゥ……ガアアッッ!」


 なんとサイクロプスは肯定も否定も示さずにいきなり俺に殴りかかってきた。慌ててヌメヌメシールドを構えて攻撃を捌いた俺だったが、衝撃を逸らしてもなお大盾を持っていた手が痺れていて痛い……相変わらずの馬鹿力だ。




――――全然通じてねぇw ウケルw


――――まぁ仮に話が通じてもボコられるのは変わらないだろうなw




 チクショウ……目論見が外れて痛いし恥ずかしいし最悪だ……。


 だが、まだ俺達には話し合いの余地が残っている。俺は続けて言ノ葉飛ばし(ことのはと)を発動して、ありとあらゆる『煽り文言』を浮遊させた。


 すると、サイクロプスは端から端へと文字列をしっかり読み込み、逆上させるのが狙いと判断したのか却って冷静になって俺達から距離を取ってしまった。意外と煽り耐性が高いらしい。


 長期戦になるのも冷静になられるのも困るが、今のやり取りで『肉声では意味を理解されないが文字さえ見せれば理解してもらえる』ことが判明した。それだけで大きな収穫といえるだろう。


 馬鹿な実験をしているうちに息を整えた利奈姉は「全く隙が作れてないニャ! どうするんだニャ!」とキャラを維持しつつ俺を攻め始めた。


 きっと、り~にゃん状態じゃなかったらもっとボロカスに言われていたことだろう。ここは一応言い訳しつつ、次の手に移るとしよう。


「待ってくれり~にゃん! 一連の流れで分析は済んだから次で確実に隙を作り出してみせる。次にスキルで浮かべる文字はアイリスたんには少々刺激が強くなるから、アイリスたんはサイクロプスだけを見ててくれ。いいな?」


「う、うん? よく分かんないけど分かったよ!」


 困惑するアイリスを尻目に俺は3度目の言ノ葉飛ばし(ことのはと)を発動させた。狙いは勿論サイクロプスに隙を作り出すことだ。浮かべた文字列は著作権フリーの短編官能小説『Sランク団地妻』のクライマックスシーンだ。


 浮かべられた文字列を読み始めたサイクロプスは手で顔を覆うと雑念を払うように顔をブルブルと左右に振っている、ウブな奴め。サイクロプスの意識が逸れた今こそチャンスだ! 俺とアイリスは一斉にサイクロプスの左右へと回り込んだ。


 俺は棍棒を地面に触れさせて地属性魔術『鉱石(ミネラル)付与(エンチャント)』を発動し、棍棒の表面を地面と同じ材質でコーティングさせた。これが俺の放てる数少ない攻撃系魔術の1つだ。


 俺が石棍棒を持って右側へと回り、アイリスが鉄爪を持って左側へ回り込んでサイクロプスの足首に連撃を叩き込む。


鉄爪連撃(てっそうれんげき)!」


石割(いしわり)・ダイナミック!」


 鉄爪が奏でる高速の風切り音、そして石と骨がぶつかる重低音がサイクロプスの足元で響き渡る。



「グアアアウウウゥゥッッ!」



 断末魔と共にサイクロプスが両膝をついた。今こそ利奈姉の魔術でトドメを刺すチャンスだ。俺は利奈姉にアイコンタクトを送ると利奈姉はコクリと頷き、強烈な火の魔力を練り出して解き放つ。


「これで決めるニャン! 3連フレイム・ランス!」


 両膝をついたサイクロプスでは避けようのない紅き直線が両肩と腹に直撃する。大ダメージを受けたサイクロプスは呻き声をあげているが、立ち昇る炎が激し過ぎるのか声が曇って聞こえにくい。


 上半身を前後左右に揺さぶりながら悶え続けたサイクロプスは砂漠で水を求めるが如く土のあるポイントを手で探り当て、勢いよく胸から飛び込んで消火したものの、間に合わなかったのかピクリとも動かなくなった。


 利奈姉の三連フレイム・ランスでトドメを刺せたんだ。俺とアイリスと利奈姉は互いに見つめ合って頷き、勝利を喜び合おうと拳を天に掲げた。


 しかし、喜んだのも束の間、突然両腕で上半身を起こしたサイクロプスは獣の四足歩行を彷彿とさせる水平移動で一直線に利奈姉に向かって走り出してしまった。まだ奴は息絶えていなかったのだ!


 戦闘態勢を解いていた利奈姉は無防備になっているし、俺とアイリスは反応が遅れたぶん、ギリギリ間に合いそうにない。


 サイクロプスの四足歩行自体はさほど速くはないが、出遅れて距離が開いたのが致命的だ。俺かアイリスに遠距離から攻撃できる手段があればサイクロプスの足を止めて追いつく事が出来るのだが……。


 こんな事ならもっと魔術の修練を積んでおけばよかった…………走る俺の脳内に後悔の念が渦巻く。流石の利奈姉でもタンク役割(ロール)じゃない以上、サイクロプスの一撃には耐えられはしないだろう。


 刻一刻と利奈姉に迫るサイクロプスに怒りと絶望が湧き上がってきた次の瞬間、俺は起死回生の一手を閃いた。俺は走りながら右手の上に球状の魔力を作り出し、野球ボールを遠投するかのようにサイクロプスの顔目掛けて放り投げる。



「一瞬でいい……止まりやがれェェッ!」



 俺が放った球状の魔力は狙い通りサイクロプスの後頭部へと直撃して砕け散った。利奈姉もアイリスも、そして視聴者も俺が何をしたのか分からない事だろう。


 俺が投げたエネルギーはダメージを与える魔術の類ではない。スキル言ノ葉飛ばし(ことのはと)に連なる第2の能力音玉(おとだま)|飛ばしだ!


 音玉(おとだま)飛ばしは名前の通り俺が脳内でイメージできる音を音玉(おとだま)に込めて飛ばし、破裂させることで対象に聞かせることが出来る能力だ。


 俺が音玉(おとだま)に込めた音は2つある。1つはスタングレネードを参考にした強烈な爆音だ。確か本物のスタングレネードは混合物を爆燃させることで170デシベル近い爆音と閃光を生み出す凶悪な武器だったはずだ。


 だから実際に受けたことが無い俺には100%の形で念じることは出来ないだろうし、そんなものを投げたなら俺と仲間の耳までおかしくなってしまうだろう。


 ゆえに今から起きる爆音はサイクロプスの耳だけをおかしくする程度の音量でいいのだ。どうか、いきすぎた爆音だけは出ないでくれと祈っていると、音玉(おとだま)は凄まじい爆音で俺の耳と皮膚を刺激し、サイクロプスを大きく仰け反らせた。


 狙いの第一段階は成功したが、俺もアイリスもまだサイクロプスの前方へは回りこめてはいない。サイクロプスと利奈姉の間に入り込んでようやく作戦成功だからだ。


 3秒とかからず態勢を整えたサイクロプスは再び利奈姉を睨み、走り出した。爆音を当てたのは俺だというのに、それでも利奈姉を狙い続けるのは相当フレイムランスでヘイトを集めてしまったのだろう。


 絶対に利奈姉を守ってみせる! 俺は音玉(おとだま)を見つめ、爆音とは違うもう一つ音を発動させるべく右手を掲げて叫んだ。


「この音でもういっぺん止まりやがれ! 秘技・フリーASMR・団地妻編!」


 サイクロプスの耳元に付いた音玉(おとだま)から発せられたのは俺が極貧時代に世話になったフリー素材のエチエチASMRだ。


 ASMRとは日本語で訳すと『自律感覚絶頂反応』らしく、アッチ系の音声サービスとして古来より高い人気を誇っている――――とアイリスに説明したいところだが視聴者の前でそんなことをしたら下手すれば炎上する可能性がある。説明は後で利奈姉に任せるとしよう。


 そんな音玉(おとだま)を性コンテンツに慣れていないであろうサイクロプスの耳にくっ付くレベルで初被弾させたなら、きっとパニックを起こすはずだ。


 音玉(おとだま)は俺達やリスナーにギリギリ聞こえるか聞こえないかぐらいのボリュームを発しながらサイクロプスに対し



「私はSランク団地妻……貴方の〇〇を××してあげるからこっちに来なさい」



 と扇情的な言葉を艶やかな声色で並び立てている。サイクロプスの集中力は完全に途切れて首をブンブンと振り回して雑念を消し去ろうと頑張っている。種族を超えて卑猥な気持ちを昂らせる声優の演技力に脱帽するばかりだ。


 そんなこんなでサイクロプスの気持ちが乱れている間に無事利奈姉の前方まで到着した俺とアイリスは武器を構えて防御態勢を整えた。これで少なくとも利奈姉は守れるはずだ。


 音玉(おとだま)を振り払おうと頑張り続けるサイクロプスを俺達3人は見つめていた。こちらから攻撃を仕掛けるべきか、それともサイクロプスの攻撃を捌いてからカウンターに出るべきか迷っていたからだ。


 しかし、攻めるかどうか迷っているうちに音玉(おとだま)の効果は切れてしまい、サイクロプスはゆっくりと首を回してこちらを見つめ始めた。さっきまでとは打って変わったゆっくりな動きが却って不気味さを感じさせる。


 そんな俺の予感は見事に的中することとなった。激怒の表情に豹変したサイクロプスは耳が割れんばかりの叫び声をあげると自身の額から生えている立派な一本角をへし折り、長さ5メートル幅1メートルは余裕で越えている棍棒に巨大化させてしまったのだ。


 まさかサイクロプスに奥の手があったとは。今までサイクロプスと戦ってきた冒険者たちは『角を棍棒に変化させる技を持っている』なんて誰も言っていなかったというのに。これは俺が執拗以上にメンタルを刺激させたことによる特異変化なのかもしれない。


 特異変化というのは俺の推測でしかないけれど、それを確信したくなる要素が1つある。それはサイクロプスのヘイトが完全に俺へ向いているということだ。


 今までで一番血走った眼をしたサイクロプスは大ダメージを与えた利奈姉の事を完全に無視して俺だけを見つめている。音玉(おとだま)による鼓膜&精神攻撃が堪忍袋の緒を切ってしまったのだ。



「グルルルゥゥゥッッ!!」



 もう、いつ俺に襲い掛かってきてもおかしくない状況だ。サイクロプスの角から生み出された棍棒がどれほどの威力か分からないが、これまでの攻撃より強力なのは確かだろう。


 次の攻防で確実に勝敗は決するだろう。覚悟を決めた俺は両手に魔力を練り、サイクロプスに宣言する。


「濃厚な戦いだったがそろそろ終わらせようぜサイクロプス。さあ、来い! お前が放つ怒りの一撃を防ぎ切ってやるからよッ!」




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