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0話:なんの世界?

初投稿です。

 街灯が夜を迎える世界を照らす。

 雑踏が広がる町で男は静かに眠っていた。


「わたし、パパと結婚する──!」


 脳に響くようなそんな声で男はまどろみから目を覚ました。目を拭い周囲を確認する。何も盗まれていない。この町の治安の良さに安堵し、気になっていた声のする方に少しだけ視線を向けた。

 男と同じようなベンチに座る若い男女は騒がしく、楽しそうに会話をしていた。


「って千花が言ってたのも懐かしいなあ」

「ちょっと! そんな大きな声で言う事じゃないでしょ! 大体アンタだって未だにママと寝てるじゃない。恥ずかしいのはお互い様よ」

「いやいや、お前と付き合い始めてから流石に卒業したわ。お前こそアプリに入ってる写真の9割はパパだろ」

「でも1割はアンタよ。よかったわね」

「はいはいそうかい」


 手に持った機械を指でスクロールし膨大な量の写真を見せ続ける。表情が二転三転する彼氏を面白がりながら少女は思い出を語った。


 星が一つだけ見える。カップルで賑わう現時刻、一人で来ていた男は居心地の悪さを感じていた。もう一眠りでもするかと瞼を閉じかけ、また隣の話し声で遮られる。


「……それでねアンタがどうしてもって言うからここがこうなっ、うん? 勇次? おい起きろ、なに人が話してる最中に寝てんだ!」

「うるせえな……ちょっと目を離した隙に俺の目が勝手に閉じていったんだよ。歴史の捏造凄いしもういいよその話は」

「全て真実に決まってるでしょ。勇次がマザコンなのもね」

「お前のファザコンもな……」


 得意げに語る千花に呆れていそうな勇次は、話を変えるためか眠そうなテンションから一転して楽しそうに口を開いた。


「そういえば千花、アレ考えてくれた?」

「アレってなんだっけ?」

「一昨日話したゲームだよ。いま全世界から注目されてる意識を没入させて仮想世界でゲームをする、という感じのやつ。覚えてる?」

「覚えてるけど、あんまりゲームする時間取れないし、そもそもそこまでゲームに触れたことがないから怖い」

「プレイ時間については大丈夫。凄い仕組みになってるから。まぁとにかくだ、神ゲーだから一緒にやろうよ」

「検討しとく。ゲーム名は?」

「何回目の検討だよ。ゲーム名は──」



 〝MAMS〟


 一通り話が聞こえていた男は呟き、その音は一瞬だけ世界に広がったがすぐに風と足音で掻き消された。

『魔物が、あなたを、待っている、そして・・・』

 この長ったらしいタイトルを略してMAMSだ。

 そしてが何を意味するのか、次に何が来るのかはMAMS七不思議の一つ。タイトルは運営が五秒で考えたとも言われているし、魔物を仲間にし育成するのがメインコンテンツであるこのゲームでは、プレイヤーは育ての母のような存在になるため〝MAMS〟と銘打たれたのではないかと考察する者もいる。


「MANMOSっていうゲーム」

「マンモス?」


 (MANMOSだったか。うろ覚えだったな)


 適当に脳内変換していた男は少しだけバツが悪そうにしながら耳を傾ける。


「魔物があなたの仲間に。最も大いなる世界で。

 通称〝MANMOS〟ラスボスはちゃんとマンモスらしいんだけど公式のネーミングセンス酷いと思うな。10秒で考えてそう」

「私に勧めたいのか勧めたくないのかどっちなのよ」

「名前以外の全てが本当に凄いからね」


 逆転するように自慢げに語り出した勇次に対し、これが日常なのか千花は笑ってツッコミを入れる。


(……あの少年はそこそこ詳しそうだな)


 男はラスボスであるマンモスの正式名称を思い出し、これで合ってるかと悩みつつ恐らく合っているだろうと、もう一度手が届かない星を見上げた。


【事象牙國:マンモス種】


 季節は冬。寒空の下、ココア缶を片手にとある想いを馳せた男は自分も好きなゲームなのか、興味が湧いたのか、先程よりも二人の会話に耳を澄ましていた。何分暇な者だ。そんなに大きな声で騒ぐなら時間潰しをするくらいには利用させてくれと勝手なことを考えながら、少し冷めてきたココア缶を置き手袋を手に嵌める。


「最新鋭の技術でファンタジーの世界を歩き回れるし、いろんな種族にも成れるんだ。可愛い動物を模した魔物も仲間にできる。新しく始めてみよ、俺が色々教えるからさ」

「可愛い動物もいるの? ふーん」


(新しく始める、か)


 何やらそれぞれが別の部分に刺さったようで。それでも二人は悩み、即日ゲームスタートという流れにはならなかったが千花と呼ばれた少女とココア缶を飲み干した男は近い未来、その世界に降り立つことになる。

 恋人の会話はもう少し続くことになるが、始まりの物語(プロローグ)には不要なため割愛しよう。

 ある日の町で少年が話したゲームトーク。これにより世界は動き出した。何の世界か、人は好奇心を頼りに芽を咲かす。



 寒いな、と独りごちる。街灯が夜を照らす。

 眠気はもうない。


 若い男女は会話に満足したのか既に去り、寂しそうに片割れのベンチが残された。時間は過ぎていくが、それでも男は動かない。


 男は待っていた。

 その時を、静かに待っていた。


 

あけましておめでとうございます。

今年からよろしくお願い致します。

裏話ですが色々間違えてしまい2023年0時0分の投稿に出遅れました。

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