産地不明の根
人を殺したい理由が欲しい。
男にとって幼き頃からの純然たる願いであった。
いつからか人を殺したいという思いが強くあった。
だが原因ははっきりしていない。
ただ強い憎しみや殺意だけがそこにある。
原因の無い悪意だけ、男はそんな醜悪な存在だった。
きっと曝け出せば、ただ薄気味悪がられて見捨てられるだろう。
男は望んだ、己の友に裏切られることを、家族を悪意によって奪われる事を。
己の殺意に、憎悪に、理由がつけたかった。
しかし叶う事は無かった、友人も家族も失わず男は普通に働いていた。
働き、働き、働きながら、男は自分の中にある理由なきものが膨れ上がる事がわかった。
殺意だけ、憎しみだけ、ただそれだけの化物は肥大化を続け男を内側から食い破ろうとしていた。
男は嘆いた、おぞましい己に。
いずれ理由もなく化物は表に現れて、理由もなく人を殺すのだ。
そう思いながら日々を過ごし、そしてふと気づいた。
憎しみと殺意の理由はもうできていることに。
誰を憎み、殺したかったのか。
男は輪を作った縄を天井からつるした。
そして化物退治を決意し、手をかけた。