恐怖!飯テロ!?1
【これは2話ですよー】
「飯テロ!」
「それは、ある日突如」
「空腹という感性を……刺激する」
◆◆◆
――――
彼女は、語る。
「最近、里に居るみんなの元気がなかったの」
一人一人別人になっていくみたいに様子がおかしくって。
ある日を境に、里にはまるで次元移動を繰り返すように、現れては消えてしまう身体になった人たちが急増していた。
それにより、次元が歪み続け、現在、現実との境にある壁にもヒビが入り始めていた。
『博士』は、それに誰より早く着目して……
まあ、いろいろあってサンプルとして、私を連れ帰った。
やがて博士はこれが蔓延してきた理由を突き止めた。
それは、人間にある欲望と、宇宙からの何らかの信号により生まれるとされる寄生生物。
細かく見ないとわからないくらいに、やつらは人々にうまく寄生しては操っている。 私やアリンの身体は、現実と、そうでない空間の境目に入るための研究で出来ている。
……んー。
簡単に言えば、寄生生物を少しずつ植え込まれて抗体をつけた身体なのかも。あなたもそう。
いくらかの人は耐えきれず亡くなったり暴走を起こしてしまった。
どうにか生きていても、いつどうなるかはわからない。
「私は、なぜ生き残ったの」
私は定食屋で、ずるる、とラーメンをすすりながら聞く。
「というか、そんな覚えがないけど」
そんな記憶みたいなのは見たけれど、なんか、実感がわかないし。 エチルが長い髪をお団子にしつつ、困った顔で言う。
「……そうね。あなたと私たちは、まだ捜査の途中だった」
もちろん、さきほどの話からもあるように犯人は寄生生物で、
そして人を探してたという意味だろう。
「花河とか、目久留木さんたちを探していたときか」
アリンが言う。アリンも細かくは覚えてないのかな。
「まさか、さらしあげるわけにもいかないからな。下手に保護しようにも
寄生されるリスクがあがるだけだし……責任問題がややこしくなるし」
ずるる、とアリンは醤油味の麺をすすった。
その日の夜は、雨が降り始めていたからか、私たち以外ほとんど客足が無い。
私は、この食事の時間が終わるのが怖い。
部屋は手紙を残して飛び出したし、もう帰る場所が無いからだ。
なるべく会話をしようという気持ち、そして彼女らについて知りたい気持ちもあり、私は彼女たちに私たちがなんなのかと、近くに見つけた定食屋に入りながら聞いた。
そして食べながら、冒頭の話をしてた。
「今は、協会、連盟の設立を目指してるって感じかな」
「何の?」
「寄生生物を、撤廃させる」
アリンがやけに真面目な声で言った。
エチルはそんな彼女をなんだか、意味ありげに、じろりと見つめた。
私は聞く。
「でも、町の一大事でしょうに。どうして極秘裏?」
あのバスを見ただろ、とアリンが言う。
「町を乗っとるために、
寄生された人たちの姿を財宝に変えてしまって売り飛ばすの」
「そのお金を町に捧げる。そうしたら、増えすぎた人口をお金に変えて減らせて、メリットなのよ。町はメリットを、わざわざ消さないわ」
エチルがやれやれとあきれるように呟いた。
信じられない話で、頭が追い付かない。
「寄生成物は、知能が人間で言うと3歳から5歳くらいあると言われているの」
エチルが、うどんに一味を大量にかけながら呟いた。
「でも、人が使う長い言葉や、難しい理論はあまり理解出来ていないみたい。
寄生されても、その人の魂自体を吸い出すところまでされてしまう人ばかりではないのはこのばらつきのようね」
「だったら、退治が簡単なんじゃ……」
私がいうと、アリンが首を振った。
「あらゆる手段で暴れるから、問題」
「私たちが敵なんだとあおって、善良な市民の中に紛れて誘導することもあった。
勘違いなのか意図的なのかに判断がつくまで、かかるから、実際寄生かどうかが、すぐにわからないのよね」
店を出る頃には、ぽつぽつと雨が降りだしていた。
暮れ始めた空。
私は、帰る場所がないと思い出した。
いや、正確には捜索さえ願われなければ……まぁたぶん、ないだろうけど。
「そういや、大荷物だな」
あ、と気がつくようにアリンが私の肩にかかっていた鞄を見て言った。
「え?」
「確かに。どこかに泊まる予定?」
エチルがきょと、とした目で私を見てくる。
「えーっと。実はですねぇ」
こんな商品をご用意いたしたんですが、みたいなノリで、私は家を飛び出してきたことを二人に語った。
「なるほどね……」
エチルが頷く。
「事情はよくわからないけど、あなたが決心したんだから、よっぽどのことだったでしょう」
「そんなに、忍耐強く見えるかな!」
「なんで嬉しそうなんだよ」
アリンがあきれた声を出す。
「大抵の悩みには、お気楽そうに見えるのに、ってことだ」
「別にお気楽じゃないよ!むしろなげやり!」
「確かに」
エチルが、それは盲点だった、みたいなはっとした目で私を見た。
「うちに、来るか?」
アリンがやれやれという顔で言う。
「いいの?」
私はぱっと表情を輝かせた。現金なやつだと思われそうだなと焦って顔をシリアスにしていると、アリンはいいよと言った。
「どーせ、野宿なんかできなさそうだ。放っておけねえ」
「うっ……あ、ありがと」
まあ、こいつも同じ家だがとアリンは、エチルを指差した。
「私たちも、仲間を探してたのよ。魔法少女探してます、みたいなサイトとかつくって」
「魔法少女のサイト?」
「最近流行ってるの。そういうのを元に、魔法少女を出演させるのが」
ところで、私たちって魔法少女なのかな?
私はふと疑問に思ったが、聞かないことにしておいた。
「夢も希望もねーよな!」
アリンがいらいらした声音で言う。
この子は魔法少女にたいして夢や希望を描いていたんだろうか……
「大体、サイトなんかで来るやつが戦えるわけがねぇ!」
「ちょっと、アリン、なに熱くなってるのよ」
エチルが呆れる。
「だってぇ」
「私は、良いと思うわよ? 手段は気軽過ぎるけど」
このひとたち、やっぱりどこかしら思うとこがあるのだろうか。
うーん……
ツッコミを入れようか迷ったが、触らぬ神はたたらないだろう。
さわるから悪い。
「じゃー、お前、さっきの寄生体と戦ったときの現象について説明出来るか?」
いきなり、喧嘩腰のアリンに詰め寄られ、私は冷や汗をかいた。
「えーーっと、何を!?」
「変身から、お前の身に起きたこと。そしてそのスプーンがなぜ望みを叶えると思う?」
「戦ってもらいたいから、ですか……」
「だーっ、ちっがああう! あー、これだから!」
何が起きてるの、と、エチルを振り向くと苦笑いしていた。
「こうなると、熱いのよ、あの子。諦めて」
と口で伝えてくる。
えー。
「まず、変身だが。これは単に服が変わったわけじゃない!」
「そういえば髪質も変わってたね」
「なぜ髪まで変わるかわかるか」
「あにめとかで映えるから」
「制作者の気持ちになるなよ!」
アリン先生、熱い。
私はひええ、となりながらも純粋な生徒を心がける。道端で。
「髪質が変わるだけでもわかるように、ストレス度合い、身体の成分の配合率が変化しているんだ! つまり……お前は、いつもと違う状態になる」
「よくわかんないよアリン」
アリンの額に、汗が滲み私には冷や汗が滲んでいた。
「ここで、生物のテストだ」
「なんでよーっ」
「私たちに近いのは、分裂、出芽、栄養生殖のどれだ?」
え……別れて違う個体ができてるというの?
まって、じゃあ私の核はどこへ。
落ち着いて頭を整理することにした。
まず、『分裂』は、あいつら寄生体みたいに二つにわかれたら、違うイキモノができること。
それから、『出芽』は、身体の一部から芽が出来て、それが分離する。
栄養生殖……なんだっけぇ。えっと。確か。じゃがいもだ。
「魔力みたいなエネルギーが身体を満たすと、まず、通常の人間はどうなる」
「普通の人間が、そのまま満たしたら、死んじゃうよね?」
人間の身体というのは、エネルギーを作るけど、魔法みたいな強い電気とか、炎にそのままの身体が耐えるわけがないし。
そこまでの力が体内にあって満たされてたら、生きるにはなにかと効率が悪いだろう。
「まず、第一にこれを満たす必要が生じる」
「できるの?」
「私たちは、ね」
エチルが、横から冷ややかな笑みを浮かべた。
「そっか、それで、さっきの違う個体の話になるんだね」
私が言うと、エチルが寂しそうに頷いた。
「はっきり言うと、生身の人間に魔力をそのままつくるエネルギーは、あり得たとしても長生きしないのがほとんどなの」
「それじゃあ」
「本来、不可能よ」
「もしかして……」
「『体内に、魔法を使える生物を寄生させている』これが、私たちの身体の答えだよ」
「そっか、そう、なるよね……」
エネルギーを受けいれられる生物を体内で飼う。
って、まさか。
「それ!」
「あぁ。そうだ」
「魔力を持つ個体を自分と切り離す分裂はバツだ。一部に膨らみを作り、それが分離していく出芽といいたいところだが……
まあ細かくは略すけど、あの力は人為的な、接木に似ていてな。
生物とあたしたちを繋いでる。
栄養器管の一部から分離発育し、その間の身体器官への影響を……
まあ。
ミラクルに誤魔化してるんだ」
「か、かなりワンダーな説明だね。でも、個体は」
「それは、違うイキモノだから、あり得ないよ」
アリンが、あまりに真顔で言うからだろう。
私はひゅっと息がつまる想いがした。
その生物というのも、身体に根は張っているが、力を使ったあとは萎えるらしい。
「一時的な栄養を与えて私たちを接続するだけなんだよ、これは」
その際に、半分くらいは私たちは寄生生物の何かが流れているらしい。
深くは聞かなかった。
「それって、私、たち」
「ええ。私たちしか居ない。あいつらと戦うのは」
エチルが困った顔で笑って、いきましょうと手を引いた。
私はただ黙って頷いた。二人の悲しそうなあの顔が、忘れられそうにない。
夜空の星たちを眺めていると、エチルがびっくりしたかと聞いた。
「ううん……私も、なんとなく、そんな気がしていたんだ」
私は、なるべく明るい声を出した。
「でも、若い子にはよくあるって、先生たちはみんな笑うだけだった」