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Eternal  作者: たくひあい
1章  適当が肝心
1/12

 楽しいことを探して、旅に出る。 きっとあるはずだと思うんだ。

201804111430




 朝から、心臓がばくんばくんと鳴っている。

まるで全身が梅干しになったみたいだ。甘酸っぱく、きゅー、っと、苦しいような期待するような、そんな感じ。




 お気に入りの水色に白い水玉が入ったスニーカーを履いて、ゆっくりとドアを押し開けて外に出る。


これ、お母さんやお父さんなら派手な色を身に付けてるっていうけど、私はこのくらい明るい色じゃないと、落ち着かないのだ。なんとなく。

自分の世界がふっと闇だけになって灯りがなくなってしまいそうな怖い気持ちになる。

なーんて言ったら、この前夢見すぎじゃないのと一同に爆笑されたんだけどね。


悔しいから通販で勝手に靴、買っちゃった。


 外はいい天気だった。携帯のバッテリーもばっちしで、まだ85パーセントある。

お財布だって肩にかけた鞄に入れてあるから、道でお菓子も買える。


ドキドキする……


ドキドキする理由?

初めて、旅に出るから。まあ隣町だけどね。

中学生から高校生になる記念に、人生初の、プチ家出ってやつ。


 期待と不安で潰されそうな気持ちのせいで、身体中がムズムズしてる……

足元のスニーカーを見ると、テレビで見た外国のカップケーキみたいに派手な色をしてる。

うん、少し元気が出た。


きょろ、と辺りを見渡す。何も……ない。よし。家の前が道路だから、田舎道と言っても、一応安全確認してから第一歩を踏み出さなくちゃならない。


楽しみだなぁ。

まぁ、かなりキョドりながら、バスの予約券を行った日を思い出すと、地面に埋まっちゃいたいんだけど。

 駅に売っているものだと思って意気込んで入ったら窓口が違うと笑われ、うろうろして、やっと受付を見つけたのだ。


自由だ、自由だー。

 たん、と強く飛び上がると、なんだか嬉しくって明日まで飛べそうな気がした。




 弾む足取りで意気揚々とバス停に向かって、それからそこで待っていたときだった。


なにやら騒がしい。


騒がしいってのは、目の前のバスの雰囲気が異様で、列に並ぶ数人が、それを見てざわついてるということだ。


「……なに?」


ひょこ、と首を傾げつつ列にくわわり、視線の先を覗くと。


バスの中に、ひとり、変なのが居た。

なにやら、刃物を、じゃない。

おもちゃの水鉄砲みたいなのを持った――なんていうか、まんまるの奇妙な生き物……そう意思を持つ、タコみたいな。

それがバスを占拠してて、乗っているみんなが、戸惑いを隠せないでいる感じ。


えええ。


私が目を疑っているときだった。

 何やら、目の前を私と同じ歳くらいの、長い銀髪の子どもが通過して列に入って行く。

うわあ、美少女だなぁ。目がぱっちりしてて、ピンク色。

まつげが長い。口が小さい。いいなー。



後ろからはパトカーの音。

なにこれなにこれ。

撮影かな。


っていうか、予約したバスの時間があるから、駅を目指すためにも(駅から家が離れてる)、これに乗りたいのにっ。


軽い動作で飛び上がった彼女?(性別不明)は、なぜかマイクを手にしていて、そしてバスの真上に立っていた。

それから。


「お眠りなさい」


彼女の声に合わせて周りが、ばたばたと眠っていく。数人の警察官さんまで。


私?

私はなぜか、起きていたの。

 バスから、タコみたいなぐにゃっとしたやつが出てきて、バスの上に立っている少女に襲いかかる。

「ひゃっ!」


びっくりしたような声。 しかし、彼女は持っていたマイクを軽く振ると、今度はそれを短めの剣に変えた。

ばし、と宇宙人?の一部が切断される。

「んもー、危ないんだから」

唇を尖らせる彼女。

私はただ、ぽかんとして見ている。と、ふいに目が合った。


「うそ、なんで?」


「え、えぇ?」


天使みたいな子に、急に話しかけられてどぎまぎする。な、なに、なに。

「私の催眠がきいてない」

「もしかして」


彼女はそう言って、手にしている剣をまた振った。それから、なにやら呪文みたいなのを唱える。しばらくは、きょとんとしていたんだけど。


どうやら、私に何かしたみたい。

急にふわりと身体が軽くなって、気がついたらストン、と彼女のいるバスの上に居た。


そのとき、ちょうど、よくわからない生物が彼女を狙う。

下を見たら周りは寝てるし、時間が止まったみたいになってるし。

いや、私は動いてしゃべれるってことは、時間が止まってるわけじゃないの?


 ああ、っていうか、彼女は!

パニックになっていると、またも声がした。

淡いピンクの髪をした、強気そうな女の子。


「おいおい、こいつを囮にすんのー?」


そう言って、いつのまにか、銀髪な彼女だけでなく私にまで伸ばされかけていた触手を、ぐるりと包帯みたいなので固定して縛っている。伸縮自在みたいだ。


「ありがと、アリン」


「エチルも、少しは周り見ろよなー」


その子は、ぺいっ、と剣で、謎の生き物を切り刻む。

私がぼんやりしていると、で、こいつはと聞いた。

「この子たぶん、私たちが探してた子じゃないかしら」

ひそひそ、エチルと呼ばれた子がもう片方の、アリンって子に耳打ちする。

「え、そーかなー」


彼女は、私にすたすたと近づいてくるなり、ばし、と剣で右手を掠めた。……。

気のせい?


当たったけどそんなに痛くないや。なんて思っていたら、急に、手の甲から、たらーっと血が。


「わ、わー……」


慌てているとアリンって方が、にこっと笑った。

「おいしそ」


「いやいやいやいや!」


血だよ!?

舐めそうな勢いだったんだけど、エチルちゃんが、セクハラはやめてと言うと、わーってる、と、くんくんとにおいを嗅ぐにとどめたみたいだ。


「な、なっ」


「ふん。まどろっこしーいな」


改めて私をみるなり、そんなことを言う。

なんなのっ。

「んじゃーお前ぇ」


お前呼ばわりされた私は、なんでしょうかと精一杯返す。

剣をさっと振ると、今度は、可愛いリボンのついたスプーンになっていた。

「新しい自分に目覚めさせてやるよっ」


スプーンの先が、くるりと円を描き私を囲む。

その間、こっちは任せて、とエチルさんが戦っている。


がくん、と身体が揺さぶられた気がした。

なに、なにっ。


私は急に眠くなっていて。目が覚めたときには……

肩までだった髪がばさりと伸びて、淡い水色に。そしてひとつに結んであって。

モノクルみたいなのを頭に付けてた。


「ひ、ひゃあっ」


それから。


「なにこの恥ずかしい服!」

いつもより断然短いセーラー服。しかもアイドルとかが着そうなやつ。


「恥ずかしくないっ!」


アリンが噛みついてくるように言う。


「あたしたちも着てるだろーが」


見てみると、確かに、エチルもアリンも、この際どいセーラー服だ。


「一蓮托生ってやつ?」


みんな一緒だから恥ずかしくないってこと?

いや、恥ずかしい。


「使い方間違ってると思うけどねぇ」


アリンが厳しい。

っていうか、この状況、いったいなんだ?


「ねえ、みんな、死んじゃったの?」


マイクを握っていたエチルをちらりと見て言うと、アリンは、手に持っているリボンのついた金色のスプーンを私に見せた。


「死んでないよ。寝ているんだ。そして、あたしたちは、普段は、この町を眠らせている間に戦っている」


「私は、起きてるし……、なに、あの生き物。あなたたちは?」


あまりに真面目に言われたが、理解はできてない。「驚かないで見てて欲しい」


アリンはそう言うと、飛び上がってエチルと戦うそいつの身体を包帯でしっかり固定して、それから。

 手にしていたスプーンを、大きめの注射器に変化させて針を刺す。



エチルが引き付けるあいだに、しゅるるる、と、生き物は液体となり、注射器に吸い込まれていく。あの質量ありそうな生物が、一瞬で小さくなった。


それを見届けていると、くるりと、アリンが私を見た。


注射器をこちらに見せてくる。


「あ、あの……」


「お前のモノクルをつかえ」


「は、はぁ」


目にあわさっている、レンズで、注射器の中を覗く。


「なにが見える?」


「なんか、この液体、ぐにゃってなって、水と油みたいに、上と下に層がわかれてるよ?」


私は思ったことを言う。「不純物か」


理科の実験みたいなことを言われた。それからアリンは、エチル、と彼女を呼ぶ。

 エチルはアリンからそれを聞くなり「やっぱり!」と笑顔になる。


そして、筒の中にぐっ、とスプーンをいれて、がしゃがしゃ混ぜたが、もちろん混ざらない。

仮初めな注射器がぐにゃりとゆがんで広がり、中身の液体がうねうねと動き出す。


「どうする?」


アリンが頭に手をやりながら困った顔。

エチルがふっ、とマイクで息を送ると、それは少しおとなしくなる。

それから私に言う。


「これは、人に寄生する物体なの。よく拡大するとわかると思うけど」


言われたとき、ふとモノクルの横に、なにやら歯車みたいなのを見つけて、私はそれをくるりと動かす。

これ、ルーペもついてんのね。見てみると。


「わぁ。なに、これ」


幾何学模様みたいな、呪文の言葉の固まった筆記体、みたいなやつが、液体の中に浮いてる。

「すごい、ね」


目を丸くするうちに、彼女らは『それ』を、投げた。

投げっ!?


それから、二人で左右に立ち、スプーンを鍵にして、空に翳した。

大きな扉みたいなのが現れてぱかっと開く。

すると急に強い風が吹いてきて……

不純物と、私たちは扉の中に引き込まれた。




なにここ、どこ。

辺りをきょろきょろする私。二人はきょろきょろすんなよなんて言ってる。落ちたはずなのに、全然、そんなんじゃなく、身体は浮いてた。

いや、透明な地面がある。

それは全部ガラス張りみたいな、変な場所。

まわりは空だった。

しかしあんまり観光気分にならない。

目の前には、大きな、黒い塊があるんだから。

これ、どうすんのよぉ!!


私があわわわっとなってると、メチルが任せて!と言ってスプーンを巨大化させた。

(あれ、エチルだっけ……わかんなくなってきたぞ)


そしてくるりくるりと縦に円を描くと、空間に、コーヒーカップみたいなのが浮き出てきて、その中から、ぽんと、小さな四角い欠片が生まれた。

角砂糖、じゃないよね……?


そしてそれは、黒い固まりに向かって、ぽんと投げられた。

それに吸い寄せられた黒い固まりは、次第に姿を変えていって、最後には手乗りサイズの犬になった。なんかチワワみたいなやつ。


「え、なに、これ……」


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