第86話 なんでイケメンって、爆発に巻き込まれたりしないのかな
楽しみにしていた魔道具科が無くなってしまう?
そんな思いを抱きながら、レインが向かった先は…。
第86話、よろしくお願いいたします。
カツ、カツ、カツ…。
「あ~疲れた~。くっそ…目的地はたしか5階だったよ、な!よいしょっと!」
ズシッ!
大きな鞄の重さが容赦なく、俺の肩にのしかかる。
…だがそんな荷物の重さなど気にならない程、俺の心の中には、どんよりとした感情が立ち込め、先日からもやもやした日が続いていた。
俺は今、魔法学校敷地内に建つ“学科棟”と呼ばれる大きな建物の階段を上っている。
もちろんその理由は1つ。
俺がこの魔法学校で最も学びたかった“魔道具科”の講義に参加するためだ。
1階や2階は多くの生徒たちで賑わっている学科棟。
在校生たちの他、特に俺と同じ新入生たちの顔は、これから多くを学ぶ未知の学問に対する希望に満ち溢れ、しっかりと勉強しようという強い意志が見て取れる。
だがそんな賑わいを見せる学科棟も、3階を超えた辺りからだんだんと人気がなくなり、最上階である5階ともなれば、ほとんど人の気配が感じられない。
やはり生徒たちに人気のある学科は下層階に集中し、反面、過疎化しているような学科はすみっコぐらしを余儀なくされているようだ。
「けどさ…。せっかくの魔道具科が廃止になるなんて、冗談にも程があるぞ…?」
先日、あらためて希望の選択学科の1つとして魔道具科を選んだ際、担任のテティス先生に物凄く怪訝な顔をされた。
「レイン君~?サイモン教授から説明があったと思うんだけどなぁ?☆魔道具科はもうすぐ無くなっちゃうんだぞ?…それでなくとも、魔道具科は担当の先生がちょっとアレだしねぇ☆…ま!短期間だけ受講するにしても、治療用のポーションぐらいは、ちゃんと持っていっておいてね☆」
…などと言われたのだが…。
肉体を酷使する授業でもあるまいし、なぜ魔道具科の講義にポーションがいるんだろうか?
ちょっとアレなテティス先生をして、さらにちょっとアレと言わしめる魔道具科の担当者はかなり危ないヤツなのだろうか…?
…ドアを開けた瞬間「…オレサマオマエマルカジリ…」とかだったらどうしようか…。
「けど先生に問題があるからって、俺の邪魔をさせるわけにはいかねぇぜ…。魔道具科における勉強は、俺の将来の人生設計に直結してると言っても過言ではないんだからな…。よいしょっとぉ!」
ガサッ!
大きな荷袋を再び抱え直し、俺は目的の教室へと進んでゆく。
今日はシロもシルヴィアもおらず、俺1人だ。
魔獣や従者は、必ず主人に付いていなければならないのかと言えば、別にそのような縛りはなく、学校に迷惑を掛けさえしなければ、基本的に単独行動は可能だ。
シロは、春のぽかぽか陽気の中、中庭の木の下で爆睡しているし、シルヴィアに至っては、お友達特権をフル活用し、食堂のバックヤードでパフェを食ってゴロゴロしている体たらく。
(まあ、シロはともかく、シルヴィアは問題を起こしさえしなけりゃあ別にいいけどな。まあ、ある意味存在自体が問題ではあるが…ブツブツ…)
などと考えながら、なおも進む俺。
「はぁ…はぁ…。しっかし遠いなぁ…。このバカでかい学科棟の一番最上階のそのまた一番端っこかよ…。マジで冷遇されてんなぁ。というか、ほんとに教室の場所あってんのか…?こうも遠いとちょっと不安に…うん?」
俺はふと視線を上げ、各教場に掲げられている、木製の札を注視した。
「お…おぉ、ここだ。やっと着いた…。ちょっと早いがまあいいだろう。そこはやる気みなぎるレイン君の15分前精神ってことで!」
些か年季の入った古い木製の札だが、そこには確かに“魔道具科”と記載されていた。
俺は早る気持ちを抑えながら小走りで進むと、教場の出入口扉の前に立つ。
スーハー。
スーハー。
(…ぃよし!思い切って一気にいこう!万が一訳のわからん先生が襲いかかってきたら、ぶっ飛ばした後、全力で逃げよう。…その後は知らんぷりでもしてりゃあ、どうにでもなるぜ…!)
ガチャ…。
俺はゆっくりと、扉を開ける。
どうやら、鍵は掛かってないようだ。
「こ…こんにちは~…?」
ギイ~ィ…。
立て付けが悪いのか、古いアパートのドアのように安っぽい音を立てながら、扉は開いた。
だが教場の中には人っ子ひとり見当たらない。
「んん…誰もいない…か」
窓からキラキラと陽光が射す教場を支配するのは、まるで別世界のような静寂のみ。
この空間だけが、あたかも世界から切り取られてしまったかのような印象さえ感じる。
それ程の静かさだった。
俺はそんな教場の中へ、ゆっくりと歩を進める。
「まだ誰も来てないのかなぁ…?もしくは、やっぱり無くなっちゃう学科なんで、誰も来ないのかな…って、あれ?…なんだありゃ?」
俺は、そんな広い教場の中心部に、キラキラと輝く無数の小さな光を認めた。
(日の光に照らされた埃…か?…いや、違うな。これは…)
俺は、まるで楽しそうに舞い踊っているかのような、光の粒の方へと近づいてゆく。
そして間もなく俺は、煌々と舞う無数の光の正体を目の当たりにすることになった。
「これは…魔法陣…」
俺が目にしたのは、金色に輝く直径2~3メートル程の大きさの魔法陣だった。
幾重にも重ねられた真円の中には、さらに緻密な幾何学模様が高度な芸術品のように多数施され、そこからは脈々と循環する魔力が感じられる。
(す…すっげぇな…。こんな精密な魔法陣、見たことないわ。…けど、気のせいか?なんとなくだけど、ちょっと安定していないような…?)
そんな魔法陣に一抹の違和感を抱いた俺が、ふとそれを上から覗き込んだ時の出来事だった。
「あわわわ!そこの君!何をやっているのです!?魔法陣に近づいちゃだめなのです!!」
「えっ?」
突如教場に響いた、甲高い女性の叫び声。
それと同時に、先程まで確かに金色に輝いていた魔法陣が、一瞬にして暗い紫色へと変色した。
文字通り、外側に描かれた円から内部の緻密な文字の1つひとつに至るまで、全て。
(あ…この流れは、あかんやつでは…)
「えい!簡易結界発動!」
カランコロン…!
女性が咄嗟に投げた、小さな四角い物体が俺の足元に転がってきた。
「結界!?おぉ…、これなら…」
俺は一瞬期待したのだが…。
ピカッ!!
ぼっかぁーーん!!
「ぎゃあああああ…!?どこに結界がぁぁ!?」
「あ…あららら~。また失敗かしら…?」
(…やっぱ、こうなる…のな…ガクッ…)
※※
「ほ…本当の本当にごめんなさいなのです。えっとレイン君…だったかな?…まさか私の魔道具科を受講したいという奇特な生徒がいるなんて思わなくって…。つい実験中の魔法陣をほったらかしにしてしまったのです…。大丈夫…?」
俺の顔を覗き込むのは、真っ青な長い髪の毛を無造作に後ろで束ねつつ、足下まである長い白衣を着用した、ちょっと背の低い女性。
髪の毛は、ろくに手入れもされていないのか、ボッサボサで目元まで隠れてしまっており、かつて真っ白だったであろう白衣もかなりヨレヨレで、色も小汚くくすんでしまっている。
典型的な研究者といったところか。
「ゴホッゴホッ…!いえ先生、お気になさらず。僕の毛がもじゃもじゃになった程度ですので、特に問題ありませんです…。ゴホッ…!」
ぷはっ…。
俺は爆発コントのオチのように、もじゃもじゃアフロになってしまった自慢の銀髪を何度も手で触りつつ、口から丸い形の白い煙を吐いた。
テティス先生の言ってた治療用ポーションってのは、こういうことか。
「あわわわ…、本当にごめんなさいです。咄嗟に簡易の結界を構築する魔道具を使ったのですけれど、どうやら、また正常に作動しなかったみたいですね…」
俺は足下に転がった、ルービックキューブのような物体に視線を落とす。
そこからは、微量ながら魔力の反応も感じられる。
(どうやら、助けてくれようとしたけど、この魔道具が動作不良を起こしてしまったみたいだな…)
カラ…。
俺は結界の魔道具を拾い、じっと眺めてみる。
「ふっ…この程度の爆発、問題ありませんよ。…あらためてお伺いしたいんですが、ここは魔道具科の教場で、あなたは魔道具科の講師の先生でいいんですよね?」
俺は手に取った魔道具を近くで見たり高く掲げたり、臭いをかいだり齧ってみたり、一生懸命に観察する。
「はっ!?そ…そうなのです!我が魔道具科へようこそなのです!私は魔道具学科、学科長のパトリシアです!えっへん!…と言っても私1人しかいないのですが…。それでも、この学科に生徒が訪れるなど数年ぶりのことなので、感謝感激あめあられなのです!!」
「…おぉ…!よっ…よろしくお願いします!!」
若干変わった先生だが、テティス先生が言う程危ないってわけでもなさそうに思うが…。
しかし見た目はともかく、こんなにはつらつとした先生が運営する魔道具科が、本当に無くなってしまうのか…?
(はっは~ん…そうか…。読めてきたぞ…?実はもしかして学校関係者の誰かに弱みを握られて、脅されてる的な何かじゃあないのか…?きっとそうだ、そうに違いない。ちっ…ありがちな話だぜ…)
「それで、あの…。レイン君…」
「はい、パトリシア先生!僕は魔道具の研究というこの学問に、将来への大きな希望と未来への無限の可能性を感じ、受講に臨んだ次第です!この上は、ぜひとも僕に、魔道具のイロハをご教示願いたいと考えております!」
俺は、結界の魔道具の中心に空いた小さな穴を覗き込みながら、そう言った。
「は…はぁ…、それは別にいいのですけれど…。ちょっと言うのが遅れたんですけど、君がじっと覗いている、その簡易結界の魔道具…」
「あっ。これですか?はい、こんなの見たことがなくて、一体どういう構造なのかなと…」
「えっと、あの…。それは合図とともに、付近に漂う魔力を利用して、簡単な結界を張って身を守るための道具なんですけど…」
「ほっほ~、成程!いや素晴らしいですね!!」
こんな魔道具今まで見たことがないぞ?
もしかしてこの先生、実はすごい人なんじゃ…?
これは俺の未来も明るいぞ…!
「あ、あの。でもね、周囲の魔力を取り込むだけ取り込んで、結果的に正常に発動しなかった場合は…」
「ふむふむ。発動しなかった場合は?」
「爆発するのです」
「へっ?」
えっへん、とばかりにパトリシア先生が笑顔で人差し指を立てたその瞬間—————。
ピカッ!
ぼっかぁーーん!!
「ぎゃああああああああ!!?」
目の前が真っ白になり、強い衝撃と轟音とともに爆発した魔道具。
もくもくと教場中に充満する煙&煙。
「…め…目が…目がぁああ…!?」
「コホン、コホン。ご…ごめんさなぁい…!ばっ…爆発するって、先に言っておくべきでした!」
「ゴッホ!ゴッホ!!ブフゥ…!!そ…そうですね…。そういう事実は、もう少し早目に言ってもらえると…ありがたいです…ウオェェ…」
あぁ…。
俺の髪の毛がさらにもじゃもじゃに…。
ふ…普通の人なら死んでるのでは…?
「あっ…あの、ところでレイン君」
「わわ!?ま…ままままた何か爆発しますか!?」
俺は咄嗟に身構えたが…。
「あ、いや、そうじゃなくて…。えっと、そちらの男の子?も魔道具科の新しい受講生かな…と?」
「え…?」
俺は、いまだ爆発の閃光と衝撃でくらくらヒリヒリの涙目をこすりながら、後ろを振り返った。
すると。
「やあ、レインフォード君。ぜひ俺も、この魔道具科を受講したくてね。君と同じく希望したのさ」
スラリと高い身長と、後ろで束ねた長い金髪。
常に余裕を持って優雅たれ、と言わんばかりの美しい立ち振る舞い。
そこには、クラスメイトのイケメン、クロウ君が立っていたのだった。
…ゴッホゴホッ!
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