第78話 入学式で新成人みたく暴れるのはやめて
魔法学校において迎えた入学式。
教師陣の紹介が始まるも、そこでトラブルが…。
第78話、よろしくお願いいたします。
「…~…~…」
うつら…うつら…。
うつら…うつら…。
あぁ、誰かの話し声が聞こえる…。
やばい…意識を保つことが…できない…。
これは…呪詛の類…か…。
今俺は、割と座り心地の良い椅子に座らされ、強制的に抑揚のない音波攻撃に晒されている…。
だがもちろん、訳の分からない黒い組織とかに捕まっているわけではないし、変な呪い薬で身体を小さくされようとしているわけでもない。
今の俺は、ある種の試練に立ち向かっていると言っても過言ではない状況なのだ。
「……ええ~、ではですねぇ、甚だ短くはありますが、以上で私からのお祝いの言葉とさせていただきます」
話を締めると、舞台中央から舞台袖へと下がり、そのまま億劫そうに椅子へと腰掛けるのは、学校長として紹介されたアルベールと呼ばれた太った男。
(…や…やっと終わったか…)
そう。
今日は、今年王都魔法学校に入学する俺たち新入生の入学式なのだ。
とはいえ、式自体は簡素なもので、特に親兄弟が参列することもない。
噂では卒業式を盛大に取り行うため、入学式はあまり気にしていないとかなんとか。
式次第としては、学校長の話の後、主な教授の紹介や学校生活をする上での諸注意等を聞いて終わる予定であったが、しかしまあこの学校長の話が長いのなんの…。
最初に3つだけ大切な話をします…とか言いながら、かれこれ2時間以上は話をしていたぞ…?
運悪くなぜか一番前の席に座らされていた俺は、初日から堂々と寝るのはさすがにちょっとアレだし…などと思って我慢していたのだが、となるとこれはもはや拷問にも等しい代物。
チラリと周りを見ると、他の新入生たちも、ぐったりと疲れ果ててしまっていた。
そんな俺たちの睡魔との死闘を尻目に、教師席の方からずっと聞こえていた大きないびきには、俺じゃなくとも殺意を抱いたことだろう。
さらに俺個人としては、そのいびきプラス、目立たない場所に設けられた従者席や魔獣の待機スペースにおいて、誰憚ることなく爆睡しているシルヴィアやシロが妬ましい。
ボカーンと巨大な爆炎でもぶっ込んでやりたいぜ!
「アルベール学校長、素晴らしい話をありがとうございました。新入生の皆さんも、心に染み入る学校長の話を心に刻み、生涯忘れることはないでしょう…。私も感動で…うぅ…ぐすっ…」
校長が舞台を離れた後、そそくさと出てきた本日の司会進行役の教師。
鼻をすすり、声を詰まらせ、目頭をハンカチで押さえながら、学校長の方へ恭しく一礼する。
嘘つけ!大いびきでふんぞり返って寝とったのはアンタだろうが!!…と思ったのは俺だけじゃあないはずだ。
「えー、では引き続き、主な教師陣の紹介に移ります。まずは座学や実技をはじめ、色々な場面で皆さんの教育に尽力してくださいます主任学科長、サイモン教授です」
次の瞬間にはケロっとして、涙の欠片も見られない司会の教師がそう言うと、舞台袖から1人の男が現れる。
カツカツカツ…。
ガツン!
主任学科長サイモンと呼ばれた男。
凛と背筋を伸ばし、深緑色で中央に黒いラインが入ったローブに身を包んだその男は、堂々とした足取りで舞台中央に出てくると、右手に把持していた身長程もある長い杖を、強く地面に打ちつけた。
そういえば魔法使いって、ああいう杖を使う人が多いんだっけか。
(既に一言一句憶えちゃあいない)校長の長話の時とは違い、場の空気がピッと引き締まる。
「主任学科長を任されているサイモン・ド・スペルマスターだ。…諸君、まずは入学おめでとう、と言っておこう」
ざわ…。
会場がにわかにざわめいた。
スペルマスター…?
スペルマスターっていやあ、あのエライさんのセドリック宰相も、そんな名前だったような…?
「…また、既に聞いている者もいると思うが、昨日のクラス分け検査において、ある新入生が水晶体に魔力を流し込んだ際、図らずもこれまでの長い歴史の中、水晶体に蓄積されていたと思しき魔力が暴走してしまったのではないかという報告を受けている。結果として皆を困惑させたことを詫びねばなるまい」
ざわざわ…。
ざわざわ…。
やはり皆、昨日のことが気になっていたのだろう。
成程そうだったのかという様子でうなずく者、隣と顔を見合わせて安堵の表情を浮かべる者もいる。
その実、当事者たる俺もそのうちの1人なのだが。
ガツン!!
再び強く杖を打ち付ける音が講堂内に響いた。
全員がハッとしてサイモン教授に注目する。
「…静粛に。私からの話は1つだけだ。メモを取る必要はないが、皆しっかりと憶えておいてほしい」
ジロリ…。
眉間にシワを寄せたサイモン教授の厳しい視線が、こちらの方へ向いたような気がした。
「…如何に持って生まれた才能や能力が優れたものであろうとも、それに溺れ、自己研鑽を怠るようなことがあれば、魔法使いとしての成長は見込めぬし、人として大成することもなかろう…。故に…」
前を向き直すと、サイモン教授は静かに続ける。
「…才能ある者とは、不屈の闘志でたゆまぬ努力を続けていける者であると肝に銘じよ。私からは以上である。…あぁ、あと最初のうちは集団生活に慣れないだろうから、体調管理には十分配意するように…」
サイモン教授はそう言うと、サッと身を翻し、舞台袖へと消えていった。
サイモン教授かぁ…。
さすがに主任学科長ってだけあって、いい事言うじゃん…。
たまたま俺の方を見ただけだろうけど、なんか俺がこれまで将来のために努力してきたことを褒められてるような気がして、ついニヤついちゃったぜ!
にゅふふふ!
「えー、サイモン教授、ありがとうございました。その他の主な学科担当などは、それぞれの授業で自己紹介をしてもらうので割愛するとして…、続いては各クラスの担任を紹介させていただきます。ブルードラゴンクラスから順番に舞台へどうぞ~」
スタスタ。
カツ…カツ…。
ドシンッドシンッ!
トコトコ。
ざわ、ざわざわ…。
司会に促され、舞台袖から登場したのは4人。
(何というか、こりゃまた個性的な…)
1人目の男は長身の瘦せ型かつ色白で、深い紺色の頭髪はワックスのようなもので強く固められているのか、ビッチリとオールバックに固定され、全く動く様子がない。
テカテカのスーツのようなジャケットとパンツ、中は真っ白いシャツで、見ようによっては、前世での結婚披露宴の新郎のように見えなくもない。
「フッ…。僕はブルードラゴンクラス担当、アラン・オルブライトだ。初めに断っておくが、僕はこの美しい自分自身と、この私が紡ぐ風の調べ以外のものには、何一つ興味が無い。…諸君はほんの少しでも私に近づけるよう、努力するがいい。そのための術は教えてやろうとも」
……?
この人ほんとに先生?
突っ込みどころ満載のアラン先生はさておき、続く2人目は女性の先生。
黒のロングヘアーに、深くかぶった黒いとんがり帽子。
全身を包むのは黒のローブで、もちろん足元も黒いブーツ。
いかにも誰もがイメージする“魔女”といった様子の女性…なのだが。
「…ボソボソ…(クララ・ベルナール…レッドフェニックス…帰りたい…)」
ぎりぎり聞こえるか聞こえないかの声で呟いたクララ先生は、あまりやる気が無さそうな雰囲気の先生だった。
…というよりも、むしろ生きる気力すら失っていそうな気がしないでもないが。
何かしらの相談電話的なものを教えてあげたい気持ちを抑えつつ、続いて3人目の先生の紹介に移る。
だがこれは…。
「がっはっはっはっ!俺はルドルフ!!見てのとおりドワーフだ!!土魔法の使い方はまあ別にどうでもいいとして、俺は酒の飲み方をしっかりとお前らに教えてやるからな!あぁ、クラスはたしかシルバータイガーだったか?がっはっはっはっはっ!!」
この上半身裸のムキムキドワーフには、もはや何も言うまい。
若干顔を赤くしながら、手には何やら液体の入った小さな瓶を握っているその様子は、先生という以前に、社会人としてどうなの?と思ってしまうが、まあ何か用事があればアルコールの類を持っていくとするか。
そんなこんなで最後の4人目。
この人は俺の担任の先生になるのかな?
…うーん、クララ先生とまではいかずとも、ああいうドライな感じの先生が希望なんだが…。
すると、程なくして1人の女性が前に出る。
少し先が丸く尖った長い耳に、水色の美しい長い髪を振りながら、眩しいくらいの笑顔と、くりっくりの大きな眼で、隅から隅まで新入生たちを見渡している。
「皆さん入学おめでとう!初めまして、アタシはテティス!ブラックタートルクラスの担当よ!アタシは魔族で、マーメイド族という種族の出身なの!!得意な魔法は水魔法全般と風の魔法を少々。ちょっと苦手なのは火の属性の魔法かな。…けれど教育にかける情熱と、生徒たちを想って燃えるハートは、火山の噴火にすら負けないと自負しているわ!!みんなにはこの魔法学校で成長してほしいのはもちろんだけど、それと同じくらい、精一杯青春を謳歌してほしいとも思っているの!!一生忘れられないような素晴らしい思い出をみんなで作っていきましょう!どうぞよろしくね!!☆キラリ」
魔族であるマーメイド族のテティスと名乗った女性の先生。
俺の期待とは裏腹に、目をキラキラさせながらそう叫んだ。
(うわぁ…、長いし暑苦しい…!よりによって俺の一番苦手なタイプの先生かも…。適当に受け流しながら、無難な愛想笑いで乗り切るか…はぁ…)
「それとアタシはね、“ふんっ…興味ないな…”とかぁ、“俺にかまうな!”…なんて言っちゃう思春期の照れ屋さんは、男女問わず水の中に引きずり込んで、全身全霊で愛の猪突猛進&窒息ギリギリ・思い出の水魔法攻撃をお見舞いしちゃうから、覚悟しておいてね☆キラリ」
右手で作った横向きのピースサインを目の横に持ってくると、さらにニッコリ笑うテティス先生。
ひぇ…これあかんやつや…。
根底にうちのゆるふわ母と同じような狂気が見え隠れしている気がする…。
「ボソ…ボソボソッ…(ウザい…、暑苦しい…、消えてほしい…)」
「あれれ~?クララちゃん!何か言った!?クララちゃんもアタシや新入生のみんなと一緒に熱くハートを燃やそうよ!!ほら、多少年増でも青春は永遠なんだぞ~!!☆キラリ」
テティス先生の自己紹介に、露骨に嫌な顔をするレッドフェニックスのクララ先生。
それを知ってか知らずか、テティス先生は遠慮のえの字もなく、どんどんぶっ込んでいく。
天然なのか腹黒いのか、もはやわざと地雷を踏みにいっているとしか考えられないのだか…?
「はい、では担任の先生たちの紹介はここまでです。続いては寮生活の諸注意等に移りますので、先生方はお席の方へ…って…うわあぁ、熱いぃ!?」
突然司会の教師を襲った火の玉。
直撃は免れたものの、あまりの熱さに悲痛な叫び声が上がる。
舞台上を見ると、どうやらクララ先生がテティス先生に向けて火の魔法を放ち、それをさらっと司会の方へ受け流したらしい。
(一番前の俺も、めちゃ熱かったんですけど…!?)
「ボソボソ…ボソボソ…(テティス…黙らせないと…永遠に…)」
物騒なことをボソボソと小声で呟くクララ先生。
その周囲には、さらに凶悪な炎の塊が次々と生み出されてゆく。
「わぁお☆クララちゃんが燃えている!アタシも負けないぞ〜!!…母なる海より生まれ出でし我が身、海神の加護を賜りて、炎の侵略を誅さん!いえ〜ぃ!シー・ウォール!!」
そう思った矢先、魔法詠唱を行ったテティス先生の周りに魔法陣が顕れると2〜3メートルぐらいの高さの水柱が複数、そこから勢いよく吹き上がった。
バッシャアッ!
一番前の俺に容赦なく降り注ぐ水&水。
べぺッ、しょっぱ!?
こりゃ海水か!?
「ちょ…ちょちょ、ちょっとクララ先生!?その燃え盛る火炎は何ですか!?テ…テティス先生も相殺しようと水柱を作るのは止めてください!!こ…ここは講堂ですよ!!?ちょ…他の先生たちも止めてください!!」
ギュン!!
ドドドン!!
ブッジュゥゥゥワァァァ…!!
うわぁぁぁ!!
きゃあああ!!
ひええええ!!
ぶつかり合う強烈な炎と膨大な水。
衝突の中心部から凄まじい熱気が発生し、会場は阿鼻叫喚のカオス状態に。
「ふっ…放っておけ、いつものことだ。それより今日の私の髪型、いつも以上にキマっていると思わないかい?彼女らの魔法のぶつかり合いにも、全く乱れる様子がないだろう…?」
近くで爆発が起こっていようと全く動じることなく、手鏡を見ながら、うっとりした表情で自分の顔や髪型を見ているアラン先生。
「か…かか…髪型など気にしている場合ではないでしょう!?ル…ルドルフ先生も何とか言ってくださ…って、なんであなた千鳥足なんですか!?…手に持っている瓶、それまさかお酒じゃあないでしょうね!?」
ルドルフ先生はそのままふらふらした足取りでどこかへ逝ってしまわれた。
それはそれで問題だと思うが、そんなの知ったことかとばかりに、無表情で次々と炎を繰り出すクララ先生と、笑顔で何本も水柱を噴き上げさせるテティス先生。
そしてそれを止めに入る他の教師陣。
校長などは青い顔をしながら四つん這いの姿勢で逃げていき、端っこの方では、大きくため息をつきながら手で顔を覆うサイモン教授の姿も…。
(あ…ああいう部下がいて、きっと苦労してるんだろうな…サイモン教授…。前世の上司の係長を思い出しちゃったぜ…)
ブッジュゥゥゥワァァァ…!!!
さらにぶつかり合う魔法と魔法。
クララ先生に表情は皆無だが、テティス先生の方はきらめく笑顔…。
…どっちもヤベェ奴だよ…。
「…うわっあちゃちゃちゃちゃっ!!し…新入生の皆さん、入学式はここまでです!至急寮に帰って次の指示があるまで…うわぁ熱っつ!…た…待機していてくださーい!!」
司会の教師にまでとばっちりの熱湯が降りかかる。
あと一番前の席の俺にも…。(涙)
(…熱!?あっつぅ!?…けど…にししし…。しめしめ…ちょうどいいや。せっかくだし寮に帰ってゴロゴロしてよっと)
俺も他の新入生と同様に、焦っているフリをしながら、そそくさと講堂から退出する。
シロやシルヴィアに関しては、特にこの騒動を気にすることなく爆睡したままなので、放っておくとしよう。
ズドォーン!!!
ドバッシャアァー!!!
新入生やその他の人たち(寝坊助の2名除く)が講堂から出た瞬間、轟音とともに大きな屋根が吹き飛び、さらに窓から大量の水が噴き出しはじめた。
ずぶ濡れになりながら、瓦解してゆく建物を呆然と眺める新入生たち。
(ふっ…。こういうのは気にしたら負けだぜ…?)
「ヘクシッ!」
俺は濡れた服をハンカチで拭きながら、いそいそと寮へ戻るのだった。
いつも応援ありがとうございます!
よろしければ、下部の
☆☆☆☆☆
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☆が1つでも多く★になれば、作者は嬉しくて、明日も頑張ることができます。
今後ともよろしくお願いいたします。




