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第72話 女子会にて

シルヴィアとシロが寄った先は…。

そこで出会った相手とは…。

第71話よろしくお願いいたします。

 時間は少々遡り、エルフの村で催されているパーティーの最中、白銀の森の地下にて。


 …スタスタスタ。

 …とことことこ。


 煌々と魔石の光に照らされながら、地下トンネル内に伸びる影が2つ。

 1つは人型、そしてもう1つは大きな犬のようなシルエット。


 そんな影法師を引き連れた2人、いや、2頭と呼ぶ方が正確かもしれないが。

 そう、シルヴィアとシロだ。

 普段あまり積極的に話そうとはしない2頭だが、今日は珍しく連れ立って歩いていた。


「おぉ、ここじゃな」  


 シルヴィアの目の前に、一際大きな空間が姿を顕した。

 大きな穴の奥は、薄暗くて見通しも悪い。


 だがシルヴィアは口角を歪めながら、まったく意に介さない様子で進んでいく。

 こんな程度の暗闇何するものぞ、といった風だ。


『…ワフン!』


 そんなシルヴィアに向かって、シロは1つ小さく吠える。


「んん…?喧嘩はするなよと言いたいのか?わかっておるわかっておる。我とて()と無駄にモメるつもりはないぞ?そんなこと、最近の我を見とれば一目瞭然じゃろが」


 シルヴィアは右手の親指を自分の方へ向けながら、シロの顔の方へと自分の顔を近づけ、ニヤリと笑う。


『…フゥ~…』


 シロは大きくため息をついたが、シルヴィアは全く気にしている様子はない。


「んん~?あやつめぇ、留守か?…ああ、もしかしてでっかいウンコでもしておるのかのう?くっはっはっはっはっ」


 シルヴィアが悪戯っぽい笑みを浮かべたその時だった。

 暗がりの奥から静かな女性の声が響く。


『…これはこれは、よくいらっしゃいました。相も変わらず、見た目どおりの下品な発想が得意なのですねぇ…?』


 薄暗い闇の中、それでも圧倒的な存在感を醸し出す者。

 まるでそそり立つ壁のような巨大生物。

 そう、この白銀の森の地下空間に住む女王アリだ。


 そんな女王アリの前まで移動したシルヴィアは、ふんぞり返って仁王立ちをする。

 シロはちょっと離れた位置に、ちょこんとお座りした。


「…ぐふふふ、久し振りじゃのう。ずいぶん見んかったが、口と性格の悪さは直っていないようじゃな…?」


『…うふ…うふふふふふふふ……!!』


「…ぐふ…ぐっはっはっはっ……!!」


 一見楽しそうに笑い合っているように見えるシルヴィアと女王アリ。

 だがその笑顔の裏で、互いの双眸には凄まじい殺気をみなぎらせている。


「気が変わったのう…。やはり今すぐ焼き殺すか…。地を這うアリ風情めが…」


 シルヴィアの大きな金色の瞳、その中の真っ黒な瞳孔が殺気に反応し、ゆっくりと縦に細くなる。


『…こちらこそ。その間抜け面ごと首を引き千切ってあげましょうか…。蠅のように飛び回る、目障りなトカゲ…』


 一方女王アリの複眼も、暗がりの中で怪しく、そして赤黒く光を放ち始めた。


 ピシッ…!

 ピシシィッ!!


 暗闇に響く何かがぶつかり合うような激しい音。

 不可視なるも、それは恐るべき殺気と殺気のぶつかり合いだ。


 互いに交わしたのは、ほんの一言。

 時間にすれば、ほんの一瞬。


 だが最早そこは、一触即発の絶望的な戦場へと変貌した。

 仮に普通の人間が側にいたならば、この殺気と殺気のぶつかり合いを感じただけで、即座に卒倒してしまったことだろう。


 だが。


『ワンワン!ワンワン!!バフゥ…』


 突然シロが、シルヴィアと女王アリを交互に見ながら吠え始めた。

 まるで『喧嘩はやめなさい!』とでも言わんばかりに。


「むむ…?」


『あら…?』


 ふと我に返る絶対的強者たち。

 お互いに大きく深呼吸をすると、徐々に平静さを取り戻す。


「ふぅ…。まあ…その…すまんかったのう。今日はお前と殺し合いをしに来たわけじゃあないんじゃったわ」


『ええ…。こちらも些か感情的になってしまいました。お詫びいたします…』


『ワン!ワン!』


 ともすれば近隣住民…どころか、周辺諸国にまで甚大な影響を及ぼす恐れのあった争いは、間一髪、回避された。

 シルヴィアと女王アリが本気でぶつかり合えば、付近一帯の被害たるや想像に難くないだろう。


「…まあなんにせよ、息災じゃな。アリの女王よ」


『…お陰様で。あなたこそ元気そうでなによりです。古竜…、いえ、今はシルヴィア…そう呼んだ方がよろしいでしょうか?』


「ぐっはっはっはっはっ!よい名じゃろ?我が(つがい)となるレインから貰った大切な名じゃ。ここ数千年で一番嬉しい宝物じゃわ」


『それはそれは。実は私も、先般レインさんに我が子共々命を救われましてねぇ。この胸の燃えるような魔石の輝き…これはあの方から頂いた命の炎なのです。この光と温もり、私は生涯忘れることはありません』


 小さな胸を張り、えっへんとばかりに自慢するシルヴィアと、同じく輝きを取り戻した魔石をこれでもかと強調する女王アリ。

 シロはまた少しため息をついた。


「気が合うの。ふふっ…こうしてアリの女王とよもやま話に花を咲かせるとは、我がことながら信じられんな」


『ええ、ええ。同感です。まさかあなたと共通の話題に笑う日が来ようとは、私とて夢にも思いませんでしたよ』


 最初とは打って変わり、和やかムードで話し始めるシルヴィアと女王アリ。

 シルヴィアもシロにならい、その場に腰を落ち着けた。


『しかし、あなたの口から(つがい)などという言葉が飛び出すとは…。それもその相手が人の子…。昔の…、眠りにつく前のあなたからは想像もできませんね…』


「そう!それなぁ!!…こんなことを言うのは些か面映ゆいのじゃが…。数千年生きてきた我が、今初めて“生きている”ということを実感しておるんじゃ」


 シルヴィアは腕を組み、いつになく真剣な顔で言葉を発する。


『…と言いますと…?』


「ん。お主もそうじゃろうが、我は長い長い年月を生きてきた。…まあかつては森の覇権を我が手に…などとうそぶいて、お主やこのフェンリルと殺し合いなどもしたがのう。それでいても、どこか空しいというか、満たされないというか…。まあ分かりやすく例えると、自身の目に写る全ての景色が灰色だった、とでも言うのかのう」


『……』


「…しかしな。空腹で久方ぶりに眠りから覚め、それこそお主の言うように、強力な魔力(いいにおい)につられて蠅のようにフラフラと飛んでいった結果、レインに出会ってのう」


 シロは、ちらりとシルヴィアの方を見る。


「そこでまあ、互いの勘違いからレインとやり合うことになったんじゃがな。はははっ。これがなぁ、我も最初はこの目を疑ったぞ?…この世で最強の生物と自負していた我が、あの小さな身体から繰り出される、そりゃあ強烈な魔法の数々でボロッボロにされてもうてのう…。最後はまあ、そこのフェンリルの加勢もあったとはいえ、奥の手のブレスまではじき返された上、天の矢で灼かれてジ・エンドじゃったわ。ぐははははっ!!」


 シルヴィアもシロを見ながら大声で笑った。


『天の矢…。彼は天空の力、神の御業まで備えているというのですか…?』


「いやそれがじゃな、レイン曰く、天の矢の原理は実はすごく身近なところにあるらしくてのう…?ほれ、時々物を触る時なんかにピリッと来ることがあるじゃろう?あれをめちゃくちゃ強力にしたのが実は天の矢の正体で、“かみなり”とかなんとかいう自然現象だと言うておったわ」


『な…なんとそのようなことが…。にわかには信じられません…』


「うむ、まあ多少話は逸れたが…。結果として我は敗れ、そのまま黒焦げになって死ぬはずだったんじゃが、その上でお主のようにレインに命を救われてのう…。しかもじゃぞ?我を助けた理由に“別に死ぬことはない、単純にそう思っただけ”とかなんとか言いよってのう」


 シルヴィアは再び大声で笑った。


「信じられるか?さっきまで本気の本気で殺し合いをしとった相手に、ようもまあそんなことが言えるもんじゃなと。けどその時我は思ったんじゃ…。(つがい)になるなら、我を負かせ、そして何事もなかったかのように救ってくれたコイツしかおらん!とな。…まあ凄まじく美味い魔力も食わせてくれるしの」


『…』


 シルヴィアは少し顔を赤らめ、両の頬に手を添えながら続ける。


「それからじゃよ。ただただ永い時をダラダラと生きてきただけの我の人生に…、我が見る景色に、初めて極彩色の輝きが灯ったような気がしてのう。古竜ともあろう我がだぞ?この地上最強の生物が、今は毎日、小さなレインの一挙手一投足にドキドキワクワクしっぱなしじゃて。ぐわっはっはっはっは!笑えるじゃろ!?」


『…いいえ、笑いませんよ。逆に私は、心から素晴らしいと思います。…それにしても変わりましたね、あなたは。昔のあなたなら気に入らない私のことなど、問答無用で消し炭にしたでしょうに…』


 アリの女王は優しい声でシルヴィアに答える。


「…かもしれんな。かつての我は、何に憤怒し、何故あのように他者との争いに身を投じていたのやら…。それこそお主やフェンリルと、かように座して胸の内を語り聞かせる機会があろうなどと、天地がひっくり返っても想像もできなんだのう。…なんでも、かような雌だけの会合を世間では“女子会”と呼ぶらしいぞ?なかなか良き響きじゃと思わんか?」


『うふふふ…、女子会ですか。なかなか含蓄のある言葉ですね。確かにかつての我々からは考えられないことですが…。この女子会…、これはこれで素敵な時間ではありませんか。私としては、楽しそうにニコニコしているあなたを見ると、何故か嬉しくもあり、大変羨ましくも思いますよ?…ところであなた、ちょっと太ったんじゃありませんか?』


 女王アリがシルヴィアのお腹辺りを凝視する。

 その無数の複眼は、シルヴィアのウェストの微妙な増加を見極めているのだろうか。


「い…いや!?こ…これは違うんじゃ!そ…その…、飯が美味いというか、美味すぎるというか…。我は魔力でしか腹が膨れんと思い込んどったんじゃが、レインが火と光の魔法で調理した料理、これがまためちゃくちゃ美味くて腹も満たされてのう…。ついつい食い過ぎてしもうて我の腹回りの肉も…って何を言わせるんじゃ!我は断じて太っておらん、太っておらんからな!!」


『うふふふふ、いいではありませんか。いつもレインさんと一緒にいるあなたを妬んで、少しぐらい嫌味も言わせてもらってもバチはあたらないでしょう?』


 女王アリはカラカラと笑いながらそう言った。


「ふっ…ふん!ま…まあそういうことなら許してやるか…。とにかく、しばらくの間、我々は休戦じゃ!せっかくレインに助けてもらった我々の命、無駄に戦って散らしたとあっては申し訳ないにも程があるからのう?フェンリル(シロ)もそれでよいな?」


『ええ、ええ。私とて異論はありませんとも。…最早我々が相争うこともないでしょうから』


『ワン!』


「…まあこのシロと名付けられたフェンリルは、まだあまりに幼く言葉も発せんし、かつての記憶も完全には戻っとらんじゃろうがな…」


『クゥーン?』


 シロはつぶらな瞳を丸くし、首を傾げてシルヴィアと女王アリを交互に見る。

 そして。


「さてと、長居をしてしまったのう。我とシロはレインの所に戻るとしよう。今日はエルフの村で地下鉄道の開通記念パーティーだかなんだかを開催しとるらしいわ。どうせ義母上の監視が強く、酒の一滴も飲めずにしょんぼりしておるじゃろうからな、我が戻って元気付けてやらんと。では帰ろうかの、シロよ」


『ワン!』


 シルヴィアはにっこり笑うと、女王アリに手を振って帰ってゆく。

 その背中に警戒の意思はまるで感じられない。


『…私などに、あのように無防備な背中を晒すとは…。やはりあなたは変わったのですね…。これもレインさんの影響なのでしょう』


 小さな声でつぶやく女王アリ。

 やがてシルヴィアとシロの姿は完全に見えなくなり、女王アリのいる空間に静寂が戻る。

 

 ふと女王アリは、静かな空間の天井に視線を移す。


『…我々長命の種からすれば、人の子の一生は短く儚い。…それはまるで一瞬の閃光のように…。シルヴィア…、あなたもまたそれを理解しているが故、彼との日々を精一杯楽しみ、慈しみ、そして心から大切にしているのでしょうね…』


 白銀の森に住み、かつて相争ったとされる強大な3つの存在。

 今は1人の少年とともに、共存の道を歩む。

 

 魔石の光は煌々と、いつまでも地下通路を静かに照らしていた。

 いつも応援ありがとうございます!

 よろしければ、下部の

  ☆☆☆☆☆

の所に評価をいただけませんでしょうか。

 ☆が1つでも多く★になれば、作者は嬉しくて、明日も頑張ることができます。

 今後ともよろしくお願いいたします。

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