第69話 お誕生日のプレゼント ~ヴィンセント・グレイトウォール編①~
王都に滞在するヴィンセントも元へレインからの贈り物が…。
第69話、よろしくお願いいたします。
「ヴィンセント様、プラウドロード辺境伯家レインフォード様から、贈り物が届いております」
そんな何気ないメイドの一言で彼の1日は始まった。
ここはグレイトウォール公爵家王都別邸。
先般レインやヴィンセント、そしてユリが変態黒山羊さんと戦った場所だ。
祖父である財務卿ライアンの体調も万全で、ここから毎日王城へと出勤している。
あの騒動があって以来ヴィンセントは、祖父がいるこの王都別邸へ滞在する期間が増えていた。
ヴィンセント自身税務査察官の役職に就いているものの、彼は王国騎士でもあるため、有事の際は直ちに王城に参集しなければならず、グレイトウォール公爵領にいるよりも、こちらにいた方が都合がよかった。
また最近では、ライアンが趣味としているガーデニングを手伝うのも楽しく、同じく彼が庭で大層大事に育てている大きな木の手入れや、花壇に咲く色とりどりの花の世話まで任されているのだ。
そんなある日のこと。
冒頭のとおり、レインからヴィンセント宛の贈り物が届いたということなのだが。
ヴィンセントは、使用人たちにレインからの品々を取り急ぎ邸宅内の庭先に運ばせた後、同梱されていた手紙を開封した。
(レインからの贈り物とは何だ…?心当たりがないが…)
友人と呼べるような間柄の者がほとんどいないヴィンセント。
そんな彼にとって、初めてできた親友と呼べる存在であるレイン。
彼からのプレゼントとあっては嬉しくないはずもなく、期待にはやる胸を落ち着かせながら、手紙を手に取った。
『拝啓 ヴィニー なかなか王都に行く機会もなくご無沙汰していますが、いかがお過ごしでしょうか。先日貰った手紙の中に、“まもなくヴィニーが19歳の誕生日を迎える”という旨が書かれていたので、心ばかりの品を贈らせていただこうと思い、筆を執りました。うちの畑で採れたムッチムチのトマートやその他の野菜や果実、そして1つ、記念品を包んでいます。なお、記念品の中身としましては、僕がワッツと一緒に造った剣で…』
チラリ。
ヴィンセントは手紙から視線を外し、レインからのプレゼントへ目を向ける。
「トマートや野菜、その上剣までも…。むむぅ…。そう言えば間もなく誕生日を迎えるというようなことを書いた気がするな。そんなつもりではなかったが、逆に気を遣わせてしまったか…」
ヴィンセントは手紙の続きを読むことは後回しにし、レインから贈られてきた品々へと歩み寄った。
「ははは!相変わらず瑞々しいトマートだ。どれ、失礼して1つだけ…」
ヴィンセントは木箱に丁寧に納められた真っ赤なトマートを手に取ると、そのままガブリと齧り付く。
(う…うまい…!うまいうまい!!やめられない、止まらない!!)
どこかで聞いたようなフレーズを思い浮かべながら食べ続ける。
どうやら美味しいものを食べた時の人間の反応は、時空の境界を越えるらしい。
「…相変わらず素晴らしい!このようなトマートが安価で販売されていることが未だに信じられん。もはや奇跡と言っても過言ではなかろう。…私なら金貨5枚や10枚でも喜んで支払うぞ?」
ちょっとおかしなことをブツブツつぶやきながら、気が付けば2つ、3つと食べてしまうヴィンセント。
「はっ!?いかんいかん、私としたことがついトマートに夢中に…。これは一旦置いておいてと…。さて、レインがくれた剣とは…おぉ、これか?」
ヴィンセントは、白い木箱に丁寧に収められた剣をゆっくりと取り出した。
「こ…これは…」
剣は鞘に収められた状態だった。
しかし刀身を保護するためのその鞘ですら、もはや超級の美術品ではないかと思われるような、緻密かつ素晴らしい意匠が施され、グレイトウォール家の家紋まで刻印されている。
「素晴らしい…。陳腐だがそれ以外の言葉が見つからん…。…ば…抜剣してみるか…」
ゴクリ…。
ヴィンセントが唾を飲み込みながら、剣の柄に手を掛けようとしたその時だった。
「やめなさい!ここから離れなさい!!」
邸宅正門の方から、グレイトウォール家古参の使用人の声が響いてきたのだ。
(な…何事だ…?)
ヴィンセントがそちらへ目をやると、どうやら門扉の外で使用人が数人の男に絡まれているらしい。
男たちの風体は、いわゆる冒険者。
使い古されたレザーアーマーや青銅の鎧を装着し、腰には剣や斧など、各々の獲物をぶらさげている。
全員が赤い顔をしているところを見ると、どうやら昼間からかなりの酒を飲んで酔っているらしい。
「ここは由緒正しきグレイトウォール公爵家です!許可の無い方は、何人たりとも通ることまかりなりません!」
「あんだとごらぁ~?下っ端がなめた口聞いてんじゃあねぇぞ、おぉ?ちょっと見学するぐらいいいだろうがぁ」
「そうだそうだ!なーにが許可だ!!俺たちゃ泣く子も黙る冒険者パーティ『バッカスはご機嫌ななめ』だぞ!ちょっと中に入るぐらい何がダメなんだよ!?」
強い酒臭をさせながら、顔と顔がくっついてしまうんじゃあないか?という程まで使用人に近づき、プレッシャーを与える冒険者たち。
だが使用人も一歩も引かない。
両手を大きく広げ、身を挺して必死にグレイトウォール家への侵入を阻む。
(まったく…無礼な輩がいるものだ…)
ヴィンセントは、レインから贈られた剣をサッと腰に提げると、読みかけの手紙を丁寧に折り畳み、ポケットへとしまい込んだ。
万が一風で飛ばされてしまうなどすれば、目も当てられない。
「どんなに詰め寄られてもダメなものはダメです!さあ、お引き取りを!!」
使用人が一際大きな声を張り上げたその時だった。
ギィ…ガシャン。
使用人の後方で閉ざされた立派な門扉が、大きな音とともにゆっくりと開く。
「…大丈夫か?」
そこに現れたのは無論、ヴィンセント・グレイトウォールその人だ。
たとえ身分の違いはあろうとも、忠実に職務を遂行しようとするグレイトウォール家の使用人を捨て置くような真似をする彼ではない。
「ヴィ…ヴィンセント様…!?ど…どうぞお屋敷の中へお戻りください!!このような輩、私が対応いたしますので…!!」
使用人は酔っ払い冒険者らへの態度とは打って変わり、ヴィンセントに頭を下げる。
しかし。
「ふっ…何を言う。相手は酔っ払いとはいえ冒険者、腰には武器まで持っているではないか。君のように立派に忠誠を誓ってくれる者を守るのも私の大切な仕事だ。ここは私に任せて君はさがりなさい」
「ヴィ…ヴィンセント様…!!私のような者にまで何と勿体ないお言葉…。すぐに他の者を呼んで参ります…!」
使用人はヴィンセントの思いやりのある言葉に涙を浮かべながら、邸宅の中へと駆け込んでいった。
「さて…、彼が言ったとおりここは私有地でね。早々にお引き取り願えないだろうか」
ヴィンセントは門扉の前の冒険者たちを見つめた。
だが冒険者たちは、にやにやと薄ら笑いを浮かべ、酒臭い息を吐き出している。
「おうおう、かっこいいねぇ!あんたが噂の氷結王子か!めっぽう強ぇって話だが、ほんとかぁ?」
「ぎゃっはっはっはっ!おめぇそんなわけねえだろぉ!!こいつは顔色も白くてヒョロッヒョロのもやしみてぇな奴じゃねぇか!所詮噂は噂よ!話が盛られてるだけだぜ!」
「違ぇねえな!氷結王子より病欠王子の方が似合ってんじゃねえのか!?」
「「「ぎゃっはっはっはっはっ!」」」
ヴィンセントは目の前の酔客になど取り合うつもりは毛頭ないし、彼らに対し、髪の毛の先程の興味もない。
そのまま男たちに背を向けると、中へ戻ろうとしたのだが…。
「ま…待てやごらぁ!」
「ナニ無視してんだてめぇ!待ちやがれ!」
「逃げんなガキがぁ!!」
後ろから浴びせられる罵詈雑言の数々。
ヴィンセントは小さくため息をついて振り返る。
「もう一度だけ言う。早々に立ち去るがいい」
酔っぱらいたちに向かってそう呟いたのだが…。
スラリ…。
チャキ…。
「へっへっへ…。ちょっと痛い目みてもらおうか?病欠王子さんよぉ」
「大怪我したくなかったら貧乏な俺たちに金でも恵んでくれよ!なぁぁ!!?」
信じられないことに、なんと酔っぱらい冒険者たちは、この王都…それも貴族街のど真ん中において、それぞれ武器を手にしていた。
もちろんこの国においても、街中で私闘のために武装するなど法律違反も甚だしいところであり、よくても長期の投獄、さらに相手を死傷させるなどすれば、奴隷落ちや最悪死罪といった厳しい裁定が待っている。
「本気かお前たち?街中で武器を手にする意味を理解しているのだろうな…?」
ヴィンセントは酔っぱらい冒険者たちに問いかけるが…。
「知るか!俺たち冒険者が苦労して稼いだ金で、お前ら貴族は甘い汁を吸ってやがんだろうが!そんな野郎に金を返せっつって何が悪ぃんだよぉ!?」
「そうだそうだ!!お前は金を払う義務がある!!」
酔っぱらいたちは何一つ聞く耳を持たない。
というよりも、自分たちがどうしてここにいるのか、何を主張しているのか等、もはや人として正常な判断ができていない様子。
そして最も肝心なこととして、自分たちが一体誰に向かって剣を向けているのかも理解できていない。
(…剣を抜いているとはいえ、相手はただの酔っぱらい…。軽くいなして少々眠ってもらうか…。彼らとて、こんなところで命を散らすことは望むまい)
チャキ…。
(ふむ…。斜めから切りかかってくるであろう先頭の者の第一撃を避け、そのまま第二撃を剣で受ける。そして刀身を滑らせながら体を捌き、最後に剣を叩き落とすか…。次にそのまま左に跳び…)
ヴィンセントはレインに貰った剣の柄に手を掛けると同時に、頭の中で自身の立ち回りをシミュレートする。
程なくして彼のイメージの中において、酔っぱらい冒険者たち全員が気絶し、幸せそうな顔で地面に倒れ伏すイメージが組み上がった。
スッ…。
ヴィンセントは先頭の男に向かって右手を上げ、手の平を自分の方へ向けると、ちょいちょいっと指を手前に数回動かす。
「…?…な…なんの真似だ?」
酔っぱらい冒険者は、額に青筋を立てて目を血走らせながら、ドスを効かせた声で呟く。
「時間が惜しい。来るがいい」
ヴィンセントはフッと笑った。
「てめぇ、舐めやがって…。覚悟しやがれ…」
まさに一触即発。
ヴィンセントと酔っぱらい冒険者たちの戦いが始まった。
勝敗は火を見るよりも明らかなのだが…。
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