第67話 魔力注入 〜元気があればなんでもできる〜
巨大なアリの女王と相対するレインとシロ。
そんななか女王アリに異変が…。
第67話、よろしくお願いいたします。
我が仇敵フェンリル…?
どういう意味だ?
シロは以前この女王アリと闘ったことがある…?
うーん…?
うちに来てからそんな物騒なお散歩させた記憶はないんだが…。
(もしかして…もっとずっと昔に、何かあったってことか…?)
『…クゥーン…』
思案に耽る俺の身体に、シロが何度もその体を擦り寄せてくる。
何かを伝えたいとばかりに、何度も。
相手の女王アリから全く敵意を感じないとはいえ、巨大な魔獣を前にしてシロがこんな反応をするのは珍しい。
シロの体から感じる心地よい温もりとともに、なんとなくシロが考えていることも俺の心に伝わってくる…。
(シロ、お前…。なんでかわかんないけど、あの女王アリを助けたいんだな…?)
俺はその場にしゃがみ込むと、にこりと笑ってシロをひとモフした。
いつもシロに癒されたり助けられたりしてばかりの俺だ。
たまには飼い主として、いいところも見せなきゃな!
よし、あれこれ考えるのは後にしよう。
そう思うと俺は立ち上がり、再び眼前の女王アリに意識を戻した。
『うふふふ…。どうやらフェンリルには分かっているようですね。私が間も無くこの世から消えてしまうことが…。…永い時を生きてきたこの身です…もはや生に対する未練や執着などありません』
「……」
先刻と些かも変わらず、穏やかな口調のまま淡々と話す女王アリ。
出会った際の迫力はすでに失われ、何かこう、存在そのものが徐々に薄くなっていくかのようにも思える。
自分は間も無くこの世から消える…。
言葉にすればただの一言だ。
だが自らに突きつけられたそんな悲しい事実に微塵も動じず、堂々と受け入れている女王アリの姿は、魔獣といえど清々しく、そして勇ましくすら感じる程だ。
だが…。
『…唯一…。唯一心残りがあるとすれば、愛する我が子たち…。種族の長たる私の命が潰えてしまえば、皆程なくして冷たい骸へと変わってしまうでしょう…。なんとか子供たちだけでも生き長らえさせてあげたいのですが、生きるための魔力が尽きてしまう私には、もうどうすることもできません…。…みんな…最後まで守ってあげられなくてごめんね…』
ポタッ…。
上から小さな雫が滴り落ちる。
ポタッ…。
ポタッポタッ…。
幾度となく小さな雫が滴り落ちる。
人間、魔獣、種族その他諸々。
そんなことに関係なく、我が子を想う母の優しい心に胸がチクリと痛んだ。
「女王アリさん…。1つお伺いしたいんですが…。あなたの胸の上部に見えているのは、核である魔石の一部ですね?」
俺は女王アリの胸部から一部露出した宝石のようなものを見つけていた。
輝きは失われ、鈍く濁ったような色をしているが、これは彼女の魔石に違いない。
これ程大きさな魔獣だ。
露出しているのはほんの一部分で、きっと本体はもっと大きな物なのだろう。
『…ええ、おっしゃるとおりです。これは私という存在の根幹をなす魔石。今の私は種族の中でも直接外敵と交戦するようにはできていませんので、装甲も薄く、このような体のつくりなのです。…ただ残念ながらこの魔石は、間も無く全ての魔力が尽きてしまいます…。そうなれば、もはや私の死骸からこれを抜き取ったとしてもただの無価値な石ころ同然…。最期を看取ってくださるあなたに差し上げることができず申し訳ありません…』
女王アリは申し訳なさそうに声を落とした。
そして…。
バタッ…。
ドサッ…。
さっきまで俺たちの周りで凛々しく佇立していたアリたちが、1匹…また1匹と、徐々に地に倒れ伏してゆく。
女王アリの言うとおり、どうやら彼らには、親と子の間に密接な命のつながりとでもいうべきものがあるようだ。
…いよいよ時間がないのかもしれない。
『レインさん…でしたか。最期の最後に話せたのがあなたでよかった…。そこのフェンリルにあなたが命令すれば、我が子たちを亡き者にすることだって容易かったでしょうに…。あぁ…他の誰とも相争うことなく、ともに暮らせる理想郷…。私がもう少し早くあなたと出会えていれば……あるいは……あるい…は…』
どんどん声が小さくなってゆく女王アリ。
その眼から光が失われてゆく。
永い永い時間を生きた命が、間も無く刻限を迎えるのだろう。
…だが断る!!!
「いえ、その逆ですよ、女王アリさん。きっと今だから、この時だからこそよかったんだと思います。…だから少しだけ失礼いたしますね?」
もはや一刻の猶予も無い。
俺は身体の中で、急速に魔力を練り込んだ。
「はあああっ…!」
ズオォ…!
(女王アリの魔石から感じられるのは、おそらく土属性の魔力だ。俺も魔力を土属性に同調させて…)
そして俺は魔力を土属性へと変換すると、さらにどんどん練り込んでゆく。
女王アリの魔石に、俺の魔力を目一杯チャージするには、おそらく相当な量の魔力が必要なはずだ。
(これで本当に助けられるかどうかはわからないし、ある意味賭けだが…)
ズオオオオオオオ!!
膨大な魔力が俺の身体から溢れ出す。
眼の前のそんな状況に驚き、意識を手放しかけていた女王アリの眼に少しだけ光が戻った。
『…こ…この魔力は一体…!?』
(…失敗することよりも、失敗すらできなかったことを後悔したくないよね!!)
「よっ!」
ドンッ!
パシィッ!!
俺は両脚を無属性魔力で強化すると、その場から思い切り飛び上がり、女王アリの胸部から露出した魔石を両手でガッチリ掴んだ。
『…!?…な…何をなさるのです!?』
「ほんっとすみません。女王に対する無礼は百も承知の上です。けどうちのシロが、どうやらあなたたちを助けたいと考えているようなんです。だから俺も、あなたを助けたいと思います」
『わ…我々を…助ける…?フェンリルが…?おっしゃっている意味がよく理解できません…。あなたがとてつもない魔力をお持ちであることはわかりました…。けれど、ただの人間であるあなたに何ができるというのです?…いえ、それよりも…、そもそも私はあなた方からすれば、ただの醜い1匹の魔獣…。助ける理由などあろうはずが…?』
俺は目を閉じ、しっかりと掴んだ女王アリの魔石に集中する。
…感じる…。
今まさに消えようとしているが、魔石に内包された小さいけれど確かな魔力。
ほんのりと温かく、そして黄みがかったこの色、紛れもなく土属性の魔力だ。
『な…なにを…』
俺は戸惑う女王アリをよそに、思い切り練り込んだ全ての土の魔力を、両の手の平に集めた。
そして気合1発!
「いっけぇ!!」
ギュアアアアアアア!!
次の瞬間、俺は練りに練った魔力を、まるで荒れ狂う濁流のように手の平から女王アリの魔石へと流し込んだ。
通常の魔石の属性変換や、魔力チャージの要領でおそらく問題ないはずだが、いかんせんこの規模だ。
チンタラやってちゃあ間に合わん!
パアァァ…。
俺の魔力に共鳴し、女王アリの胸の魔石が少しずつ輝き始める。
そして徐々に、だがしっかりと確実に、淡く黄色い光を放ち始めた。
「てやああああ…!!」
俺はそのままどんどん魔力を流し込む。
(な…流し込むのはいいんだが、この魔石、一体どんだけ魔力を持ってくんだ…?実はけっこうしんどいんですけど!?)
基本ヘタレな俺は、既にちょっと泣き言を言いたくなったが、シロにカッコ悪いところは見せられない。
絶え間なく止めどなく、そして一切の躊躇なく、俺は魔力を注ぎ込み続ける。
『…!?…こ…これは…!?ぼ…膨大な…大地の力が私の魔石の中に……!!ああああ…!!』
「うおりゃあああああああああああああ…!!」
『アオーーーーン!!』
ガカッ!!
その刹那、広大な地下空間は光に満たされる。
その光はどこまでも強く、鮮烈な光。
…だが一方で、どこか優しく、全てを包み込むような、そんな温かささえ感じられる黄金色の光だった。
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