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第58話 グレンとルーファス

串焼き屋台のおじさんは王様だった!?

第58話、よろしくお願いいたします。

「美味しいですね!父上」


 うまい…。

 まじでうまい。


 口の中でオークの肉とタレが絶妙に絡み合い、お互いがお互いに旨みを引き立てている。

 料理漫画とかなら、「あぁ!うまーい!!」とか言って服が破れたりするんだろうな。


 うちの領地も農作物だけじゃなく、食肉産業も考えなけりゃなあ。

 やっぱ元気出るのは肉だよね。


「ん?ああ…。確かに美味いな。しかしルゥ…、国王であるお前がなぜ露店でオークの肉など焼いているんだ?」


 むしゃむしゃと串焼きを頬張りながら問いかける父。

 お宅、もうそれ6本目なんですけど?

 シロやフリードの分なくなりそうなんですけど!?


「はっはっはっ!国王を愛称やお前呼ばわりかよ!不敬ここに極まれりだな、グレン!来年からお前んとこの領地は、慰謝料込みで税金を5000倍に値上げだ!」


「何が慰謝料だバカ!そんなに払えるか!!」


 にやにやと笑う国王に、父が詰め寄る。

 その場に突然の沈黙が訪れる。

 

 あれ?

 マッチョ父、不敬罪で突然の第三部完!…か?


「「…ぷぷっ…くくく…あっはっはっはっはっ!」」


 しかし次の瞬間、2人は顔を見合わせながら人目をはばからず大声で笑い出した。

 久方ぶりに会った友人同士の再会を見ているようで微笑ましい。

 

 そんな俺の様子を見た王は、ニコニコしながら言う。


「グレンから聞いていないか?グレンとお前の母ミリアと俺。あと他にもバカが何人かいたが、俺たちは王国の冒険者としてパーティーを組んでいたのさ」


「そうなのですか!国王陛下に関するお話は初耳です!!」


 パーティーの話云々は前に聞いた気もするが、まさか王様までパーティーの一員だったとは…。


「そうさ。俺が王位を継承する前の話なんだがな。でかい魔物を討伐したり、深いダンジョンに潜ったりしてな。けっこう楽しかったぜ?魔法制御に失敗したミリアの炎で全員髪がチリチリになったり、なぜかケツの部分だけ丸焦げになったりな」


 父も当時を思い出したのか、王の話に吹き出して笑っている。

 ゆるふわ母の天然っぷりは、既にその頃からか。


「…そのうちに前国王が突然の病で御逝去なされてな…。皇太子だったルゥが王位を継承することとなり、私たちはパーティーを解散して皆それぞれの道に進んだのだ」


 少し寂しそうに、遠くを見ながら話す父。

 その視線の先に、懐かしい仲間の姿でも見ていたのか。


「おいおい!大事な部分を端折るなよ!!お前とミリアは別々じゃあないだろう?知ってるか?レイン。こいつらな、いよいよ明日ダンジョンに潜るぞ!って時に、夜な夜な2人で宿を抜け出してだなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」


「おい!おーい!!子供に向かってなんて話をするんだ、お前!やめろ!やめなさい!!主に私がミリアに息の根を止められるだろうが!!」


 黒歴史的過去を暴露されそうになるや、勢いよく王に掴みかかるマッチョ父。

 あぁ…串焼きのタレが服にかかってるじゃないか…。

 洗ってもなかなかとれんぞ、それ。

 …子供か、お前らは。


「ああっ!そういやパーティーと言えば、グレンお前!昨日ライアンの所で祝勝会だかなんだかがあったらしいじゃないか!?なんで俺を呼ばねえんだよ!?お前らだけズルいぞ!!」


 今度は王が、自分で焼いた串焼きを頬張りながら、パーティーに参加できなかった恨み辛みを父にぶつける。


「そ…それはお前…グレイトウォール家が決めた話を私ごときがどうこうできるわけなかろう?何の準備も知らせも無しに、”特別ゲストとして勝手に王様を連れてきました!わっしょい!!”なんて言ってみろ。それこそ戦争になるぞ?」


 そりゃそうだ。

 大貴族としては、国王をもてなすなら、それ相応の準備も必要だろうしな。

 勝手な振る舞いでグレイトウォール家の顔を潰すような事態になれば、今度は逆にプラウドロード家が潰されるだろう、物理的に。


「ふっ…。お前たちがわいのわいのと楽しんでいる間にも、俺はしかめっ面のセドリックに見張られながら後始末の書類に追われていたよ…。俺だって楽しく酒が飲みたかったなぁ…シクシク…」


 王は嘘泣きしながら、ヨヨヨ…と壁に寄りかかる。

 相当ストレスが溜まっているらしい。

 王様も大変なんだね…。


「はぁ…わかったわかった、わかったからもう泣くなよ…。今度うちの家に招待するから…。その時に飲み明かそう。な?」


「わっはっはっはっ!よっしゃ、言質は取ったぞ!楽しみにしているからな!俺は行くと言ったら絶対に行くからな?視察だのなんだのと言いがかりを付けられるのは、王の特権なのだ!」


 王は父の言葉にコロッと態度を変え、ふんぞり返って笑い出した。

 父はため息をつきながら、苦笑いを1つ。


(あーあ、父よ…。そんな大事なこと勝手に決めて。こりゃまた愛の強化ケツビンタは免れんな…)


 だがこんな風に、子供のように楽しそうな父を見たのは初めてかもしれない。

 きっと仲の良い冒険者パーティーだったのだろう。


「さて…そろそろ商売に戻るかな。あまりサボっていると、またセドリックに小言を頂戴するからな。…陛下、材料費もタダではございませんからな!とか言ってな!」


 王は、無駄にクオリティの高いセドリック宰相のモノマネをしながら、屋台の方へと戻っていく。


「宰相閣下もご存知なのか。しかしなんでまた屋台など…」


 王は疑問符を浮かべる父の顔を一瞥すると、優しく笑いながら串に肉を刺し、じっくりと焼き始める。


「俺はな、グレン。月並みな話だが、この国が大好きなんだよ」


 ジュウウゥゥゥ…。

 赤かったオークの肉に徐々にいい焼き色が付いてゆく。


「そしてそれ以上にな、民草の自然な姿が大好きなのさ」


「みんなの自然な姿…ですか」


 肉が焼ける音とともに、途端に香ばしい香りが辺りに広がってゆく。

 俺の相槌に、優しい眼差しで俺の方を見る王。


「そうさ。こうやって串を焼きながら回りを見てるとな、王都の、そして民草の自然な姿が見えてくるのさ」


「…」


「護衛を引き連れて仰々しく練り歩いてるとな、そりゃ皆にこにこして頭を下げてくれるんだがなぁ、それじゃあ実際のところは何もわからん。今国民が何を求め、何に困っているのか、そしてどのような方向性で国の運営を進めていくべきなのか。それを知るには、こうやって民草と同じ目線で物事を見る必要があると俺は思う。…甘いと言われるかもしれんが、俺は可能な限り、民草に寄り添った国作りを進めていきたいんだよ」


 そんな折、母と子の親子連れが串焼き屋台にやって来た。

 偉そうな態度は微塵も見せず、炭と煙にまみれながら愛想よく串焼きを売り、1本サービスされた串焼きを頬張って笑顔で去って行く子供に手を振り続ける王。

 まさかあの親子も、この国の王様が焼いた串焼きとは思うまい。


「無論、平時王都にいる俺では、地方のことは完全には把握できん。だからこそ、お前たちのような信頼できる人間たちに領地運営を任せているのだ」


 父は黙って王の話を聞いている。

 その眼差しは、必死に頑張る友人を見守るようなとても優しい目だ。


「…そういう意味じゃあピケットの件は全て俺の責任だ。悪魔云々の話なんて関係ねえ。小さな変化に気付かずにコトを見過ごしちまった俺が全て悪い。犠牲になった者たちの家族などがわかれば、たとえ遺体の一部だろうと、責任を持って家族の元へ送り届けてやりたいと考えている」


 王は真剣な目で語りながら、串焼きの下でじんわりと紅く輝く炭火に目を落としていた。


「…けどな!だからと言ってくよくよして、俺が立ち止まるわけにはいかねえだろ?失敗しちまったなら、次は必死こいて取り返さねえとな!不幸にも犠牲になっちまった者たちの分も含めて、この国の民たちには、一等幸せになってもらうぜ!必ずな!!」


 王はパッと顔を上げると、白い歯を見せながらニヤリと笑った。


「お前の口からそのような殊勝な言葉が飛び出すとは恐れ入ったぞ…。ふっ…だがなルゥ…」


 王は片眉を上げ、何だ?何か文句あんのか?とばかりに父を見た。


「…屋台、めちゃくちゃ長蛇の列ができてるぞ?」


 香ばしい香りに釣られてか、もしくは、ちょうどお昼時ということもあってか、串焼き屋台には人気同人サークル並みの長蛇の列が。


「げげっ!?し…しまった!ついつい話に夢中で…。ちょっ、お前ら!にやにや笑ってないで、手伝ってくれよ!頼むから!というか、どうか手伝ってください!!」


 俺と父は顔を見合わせ、お互いに吹き出してしまった。


「まったく…。少しは成長したかと思ったが、次の瞬間これだ。…こんなに頼りない王様だ、我々地方の零細貴族がしっかり支えていかなければ、途端に国が沈没してしまうな!」


 そう言って腕まくりをしながら王の横に並ぶ父。

 もはや服の汚れなど全く気にしていない様子。

 俺の方は、通りの方へ長く伸びてしまった列の整理にあたる。


「おいおい、まだかよ!兄ちゃんたち!」


「待ちくたびれたぞー!早くしてくれー!!」


 列の後ろから、父や王に向かってクレームの声が飛んでくる。

 

「はいはい、ただ今!少々お待ちを!!」


 速攻で屋台のおじさんとして順応した父に、俺はつい苦笑いしてしまう。


 王都に来てからの様々な出来事に、漠然と抱えていた不安。

 昨晩父に諭され、幾分和らいでいたが…。


 今日、俺は思った。


 国民のことを第一に考える国王。

 それを支える父を始めとした地方の領主たち。

 もちろん父や王のような人間ばかりではないだろうが、こんな風にみんなで支え合っていくことができれば、きっと何があってもこの国は大丈夫だろう。


「ふう。なんかまた腹が減ってきたな」


 俺は必死に串を焼く仲良し2人組を見ながら、少しの銅貨を握りしめ、列の最後尾に並ぶのだった。


いつも応援ありがとうございます!

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の所に評価をいただけませんでしょうか。

 ☆が1つでも多く★になれば、作者は嬉しくて、明日も頑張ることができます。

 今後ともよろしくお願いいたします。

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