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第45話 工房接収?

オリハルコンの精製は成功したかに思えたが…。

第45話、よろしくお願いいたします。

 ザッザッザッザッ…。

 ザッザッザッザッ…。


 王都の夕刻。

 通りを行き交う足音もまばらになる中、人相の悪い男たちの集団は、とある場所を目指して歩いていた。


「今日の仕事は鍛冶職人どもを工房から叩き出すことだとよ!ぎゃははは!楽勝だな!!」


「けどよ、ガラテア工房って言やあくっそ頑固な職人どもが多いんで有名だろ?素直に従うとは思えねぇけどなぁ」


「がっはっはっは!お前ビビってんのかよ!?そんときゃ職人なんて皆殺しにすりゃいいんだよ!!俺たちの後ろにはピケット侯爵閣下が付いてくださってんだぞ?何があっても”不幸な事故”ってことになんだろうがよ!!」


「俺はあそこにいる獣人の女に興味があるなぁ…げっへっへっへ…。他の奴はどうでもいいが、そいつだきゃあ殺さねぇでくれよ…?俺が奴隷にして連れてかえんだからよぉ…!」


「はっ!下衆野郎の趣味はわからねぇな!!」


「「「ぎゃっはっはっはっはっは!!!」」」


 10人程度の男たちの集団は、誰彼はばかることなく、下衆な話題で下卑た笑いを貼りつけながら堂々と通りを進んでいく。

 すれ違う一般人たちは、いずれも眉をひそめて彼らと距離を取り、足早に通り過ぎていく。

 万が一視線を合わせようものなら、どんな因縁を付けられるかわかったものではないからだ。


 男たちはいずれも()冒険者たちの集団。

 当然真っ当な理由で冒険者を辞めた者たちではなく、いずれも素行不良による不適格者であり、同時に犯罪者でもあった。


 そんなゴロツキたちをラプトン商会を通じて雇い、無理難題を吹っ掛けた挙句に土地を奪い取る悪質な地上げや、他人の弱みに付け込んで暴利を貪る高利貸し等、ありとあらゆる悪事を働かせているのは、他ならぬピケット侯爵その人である。


 侯爵の後盾もあり、その権力をかさに着てやりたい放題のチンピラたち。

 本日の任務は「契約を履行できなかったガラテア工房の接収」というもの。


 彼らは今日のお仕事も、いつものように簡単に終わると思っていた。


 そう。

 いつものように、至極簡単に終わると思っていた。


 ※※


「おい!邪魔すんぞ!!」


 そう叫ぶやいなや、突然人相の悪い男たちの集団がガラテア工房の内部に入ってくる。


「な、なんですかニャ!?あなたたちは!?」


 シャーレイは男たちの突然の乱入に驚き、声を上げた。


 男たちの中でも一際人相が悪く、傷だらけの顔に黒い眼帯をつけた男が、ドスの効いた声でシャーレイに返す。


「なんですかじゃねぇんだよ!!俺たちゃピケット侯爵閣下の遣いで来たもんだ!!おら、てめぇら!!侯爵様から契約不履行ってことで、この工房からの退去命令が出ている!!さっさと鍛冶仕事なんて止めて、こっから出ていきやがれ!!」


 驚くシャーレイをよそに、工房内の職人たちはチラリと男たちを一瞥したものの、何故かそのまま何事もなかったかのように、再び鍛治仕事を再開した。


 職人たちの物怖じしないその態度に、眼帯の男をはじめとするゴロツキたちは怒りを滲ませる。


「…こらお前らぁ…なに無視してやがんだ…!?聞こえなかったのか、あぁ!?俺たちゃピケット侯爵の遣いで来てると言ってるだろうがぁ!!」


「おい、ぶっ殺すぞてめぇらぁ!!」


「なめてんのかコラァ!!」


 一様に、大声で口汚い言葉を投げかけたり、工房内の資材を蹴り倒したりと、やりたい放題のゴロツキたち。


 そんな時、工房の奥から凛とした様子のドワーフが姿を現した。

 ガラテアである。


「…これは一体何の騒ぎでしょうか?皆全身全霊で仕事に取り組んでいる最中なのですが?」


 高い身長のガラテアは、眼帯の男をジッと見下ろす形で静かにそう言った。

 男はその迫力に一瞬たじろいだが、気を取り直して声を張り上げた。


「お…お前がここの主のガラテアか…!?ちっ…なら話は早えぜ!ピケット侯爵様から書状を預かってただろう?オリハルコンの短剣製作の依頼の件だ!知らねぇとは言わせねぇぞ!?」


 見下ろされることを不愉快に思っていた男は、ニヤニヤと粘着質な笑みを浮かべながら、ピケット侯爵の名前を出す。


 眼帯の男は考えていた。

 このガラテアという男も他の人間と同じように、ピケット侯爵の名前を聞けば途端に顔を青くし、自分の言うことはなんでも聞くのだろうと。

 だが。


「…あなたのおっしゃるオリハルコンの短剣とは…、こちらのことですか?」


 ガラテアはそう言うと、服の内ポケットから、ゆっくりと一本の短剣を取り出した。

 そしてそれを鞘から抜いた瞬間、ゴロツキたちはハッと息を呑む。


 姿を露わにした短剣。

 その刀身は白銀に輝き、光を反射するその姿は、まるで宝石のように美しく、また、神々しくすら感じられた。

 さらにそれは特に動かさずとも、ただそこに在るだけで、漂う空気すら切り裂いてしまうような、そんな強烈な存在感を放っていた。


 冒険者だった頃の精悍さは、もはや見る影もないゴロツキたち。

 だが彼らとて、腐っても()冒険者。

 ゴロツキたちは直感した。

 あれは間違いなく…。


 —————オリハルコンの短剣。


 ゴクリと唾を飲み込む眼帯の男。

 だが堕ちに堕ちた男は、その狡賢い頭で、すぐにある考えに思い至る。

 …結果的に、それが彼らの明暗を分けることになるとも知らずに。


「ひ…ひっひっひ…。そうか…やるじゃないか…お前ら。まさか本当にオリハルコンの短剣を造っちまいやがるとはな…恐れ入ったぜ…。けどよぉ、そりゃあ困るんだよ。ガラテアさんよぉ…」


 男は右手で顔を覆いつつ、指の間からギラつく眼を覗かせながら、そう呟いた。


「困る…?困るとは一体どういうことでしょうか?”オリハルコンを精製して短剣を作れ”という侯爵様の依頼は完遂したと考えておりますが…」


 ガラテアは片眉を上げて男に言う。


 ガシャコーン!!


 ふいにゴロツキたちの1人が出入口のドアを閉めた。


「…な…何をするんですかニャ!?」


 近くにいたシャーレイが叫ぶ。


「…全員剣を抜け」


 眼帯の男がそう言うと、ゴロツキたちはにやにやしながら、皆腰に携えた剣を抜く。


「…どういうおつもりですか?」


 ガラテアは男に問いかけた。

 だが男は相も変わらず下衆な笑顔でガラテアににじり寄っていく。


「ぎゃはははは!!もうわかってんだろぉ、ガラテアさんよぉ。話の筋書きはこうだ。お前たちはオリハルコンの短剣を作れなかった(・・・・・・)。その上で工房を明け渡すまいと、武器を持って俺たちに襲い掛かってきた。だから俺たちはピケット侯爵様の名の下、正当防衛(・・・・)として、お前たちをやむなく殺した…。どうだ?よくできた話だろう…?」


「そんな無茶な話ございますまい?現に我々はこうしてオリハルコンの短剣を…」


 ダダンッ!!


 男はガラテアが話し終わるのを待つことなく、地面を蹴ってガラテアに向かって突進し、把持していた剣を振り上げた。

 そして小さく呟く。


「ひひひ…その短剣は俺が貰っておいてやるよ…。お前らは安心して…死ね!!」


 男は思い切り剣を振り下ろす。


 冒険者時代はパーティ前衛の戦士としてならした腕前。

 それなりに死線は越えてきたつもりだし、何度も修羅場を経験してきたという自負もあった。


 たとえそれが過去の栄光であっても、また剣の腕前がかつての自分より遥かに劣っていたとしても、その一振りで確実に目の前のガラテアの首を刎ねることができると思っていた。

 だが。


「…いかがなされましたか?」


 ガラテアは男に対し、静かに言葉を発した。


「な…なんだと…?俺は今確かに…お前の首を…」


 ガラテアの首を落としたと思い込んでいた男には、とっくに死んでいるはずのガラテアが立って話をしている今の状況が上手く飲み込めない。


 だが眼帯の男は、ようやく自らに起こった異常に気付く。


「…な…何ぃ!?…俺の剣が…ねぇ…!!?」


 男は目を疑った。

 今しがた、確実に振り下ろしたはずの剣が手から消失していたのだから。

 しかし、さらなる異常事態が今度はゴロツキたち全員に降りかかる。


『ねぇ…お兄ちゃんたち…ここで何してるの?』


 ふいに後ろから聞こえた声に、眼帯の男はギョッとして振り返った。


 いつの間にかゴロツキたちの中心に立っていたその声の主の様子に、眼帯の男は背中にうすら寒いものを感じた。


「な…何だお前…!?」


 声の主の出で立ちは異様なものだった。


 男の声とも女の声とも取れる声の主は、小さな背丈であったものの、たくさんの藁を幾重にも重ねたような装いに全身を包み、さらには、石を加工して作ったような、奇妙な仮面を着用していた。


 そしてよく見ると声の主は、男の手から消えてしまった剣を、その手に持っているではないか。


「…て…てめぇ!そりゃ俺の剣じゃねぇか!?一体いつの間に…。とっ…とにかく返しやがれ…!!」


 だが次の瞬間。

 眼帯の男は驚愕に目を見開き、絶句した。


「け…剣が…!?」


 男の剣が一瞬の内に、声の主の手の中で、紅く輝きながらドロドロと溶けてしまったのだ。


「ひっ…」


「な…なんだありゃ…!」


 あまりの光景に眼を疑うゴロツキたち。

 そしてその様子をじっと見つめる職人たち。


『ねぇ…お兄ちゃんたち…ここで何してるの?』


 石仮面を被った先程の声の主は小さく、だが確かにもう一度、そう呟いた。




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