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第39話 たどり着いた路地裏で

王都に繰り出したレインとシロ。

平穏無事に済むはずはなく…。

第39話、よろしくお願いいたします。

「うわー!すっごい人ですね!うちの領内とは大違いです!」


『ワンワン!ワンワン!』


 俺は今、シロとともに王都の街を歩いている。


 王都の表通りは様々な種族の人々が行き交うとともに、露店を含め、生活用品、食糧品、アクセサリー等や怪しげな魔道具まで色々な種類の物を売る商店が、所狭しとひしめき合い、活気に満ち溢れていた。

 

 また、ちょっと周りを見渡すだけでも、俺のような人族だけでなく、ワッツのようなドワーフや、また猫みたいな耳やしっぽを持った獣人族などが闊歩しており、アメ〇カ合衆国もびっくりの種族の多様さと言っても過言ではないだろう。


 昨日、グレイトウォール家の別邸で国王謁見時の作戦会議や今後の展望についての話をした俺たち。

 ライアン公爵は眠ったままだが、顔色や肌艶はすごくいいし、呼吸も安定していて、目を覚ますのも時間の問題だと思われる。

 ヴィンセントはすぐに家族と連絡を取り、そのまま家族会議に突入するらしいので、必要事項を伝え、俺たちは早々にお暇させていただいた。

 

 まだ国王との謁見まで2日を残しているし、マッチョ父との合流も明日の夕方。

 俺は俺で、せっかく王都に来たので、将来のためにできることはやっておきたいと思い、街へと繰り出している次第だ。


「ほらレイン君!こっちやこっち、早よ早よ!!あのオークの串焼き、めちゃめちゃ美味いで!騙された思て1本食べてみてぇな!ほんま食べな損すんで!?あ、でも買うんやったら、うちの分も買うたってな…にへへへ」


 そんなことを言いながら、俺の隣で騒がしく串焼きを頬張っているのは、王都の老舗商家、エチゼンヤ商会の長女であるユリ・エチゼンヤである。

 

 俺自身は王都に来るのが初めてであり、実際右も左もわからない状態だったので、昨日の帰りに王都の案内を頼んでいたのだった。

 その代わりに夕食を御馳走する、という条件付きだが。

 …まったくしっかりしてるよなぁ。


「へい、オークの串焼きお待ちどう!熱いから気を付けてな!!」


「わぁ、ありがとうございます!おいしそう!!はいユリさん、はいシロ」


 俺は1本で銅貨2枚という安価なオークの串焼を大量に購入し(主にユリとシロのため)早速頬張ってみた。

 

「あちあちち…。でもこれ…美味しい!!」

 

 最初は少々不安だったが、肉が柔らかくて食べやすいし、適度な塩味が肉の旨味を引き立てている。

 これは海〇先生も納得の至高のメニューだよ、多分。

 他に銅貨5枚と少々割高な肉も売っていたが、あっちはこの串焼きよりも旨いというのか…?

 …異世界恐るべし…!


「せやろ?だから言うたやんか。オークの串焼きの旨さは万国共通。値段も安いし、王都民の貴重な栄養源やで」


 ユリも串焼に舌鼓をうちながら、上機嫌でそう話した。

 シロも、ものすごい勢いでがっついている…のはいつものことか。


「はっはっは。串焼きは逃げねぇよ?ゆっくり食べな。ところで坊主、その様子じゃ王都は初めてなのかい?」


 健康的に日焼けした、緑色のつなぎを着用した、金髪マッチョな串焼き屋台のおじさんが、気さくに話しかけてきた。

 お…俺ってそんなにお上りさんに見えたかな。


「はい、そうなんです。ちょっと父と一緒に王都に用事がございまして。私の実家の方とは何もかもが桁違いの規模で、さっきから驚いてばかりなんです」


「そうかそうか。俺も長いこと王都に住んでるが、ここには色んな奴らが集まって来るし、色んな珍しい物も入って来る。ゆっくり観光していくといいぜ」


「はい!そうします。早々にこんな美味しい食べ物にも出会えましたしね」


 俺は満面の笑顔でそう言った。


「なっはっはっは!嬉しいこと言ってくれるねぇ。串焼屋冥利に尽きるってもんだぜ!…けどよ坊主、大きな街ってのはな、いい所もありゃ、やっぱ悪い所もあるんだ…。そっちの嬢ちゃんは王都に住んで長ぇんだろ?よく串焼き買ってくれるよな?しっかり坊主を見てやるんだぜ?」


「はいはい、おっちゃんに言われんでもわかってますよ。ほな行こか、レイン君」


「はい。それでは失礼いたします。ご馳走様でした」


「あぁ、気ぃ付けてな!また会うの、楽しみにしてるぜ!!」


 爽やかな笑顔でそう言った店主。

 俺たちはいい気分で串焼き屋台を後にした。

 マッチョ店主は遠くからも手を振ってくれている。

 

「あの屋台のおっちゃん時々見るねん。けっこう色んな場所で串焼き売っとるから、見かけたらついつい買うてしまうねん」


 まあ俺もこんな串焼きが安価で買えるなら、ついつい買っちゃうだろうな。

 俺はユリのはしゃぐ声を聞きながら、ぼんやりといつぞやの紅の豚(オークキング)を思い出していた。

 も…もしかして、あいつもちゃんと調理して食ったら美味しかったんだろうか…?

 早々に焼き払ってしまって、もったいないことをしたか…?


「参考までに聞きたいんですが、オークキングっていう種類の魔獣のお肉も美味しいんですか?」


「ブーッ!!…オ…オークキング!?」


 ユリは盛大に串焼きを吹き出した。

 

 んん?

 俺そんなに変なこと言った?


「そ…そんな危ないもん出たら、うまいどころか、こっちが喰われてウマウマされてしまうわ!国が総出で対応せなあかんレベルの魔獣やで!?変なこと言わんといてぇな。あぁ…せっかくの串焼きが飛んでいってしもたやんか…」


 ユリはしゃがみ込み、地面に落ちた串焼きを涙目で見つつ、これはあかんか…?いやでも上の方だけやったら…などとブツブツ言っている。

 食うなよ?


(やっぱりオークキングって、危ない奴だったんだな…。と…ところでうちの森は大丈夫なのか?オークキングどころか、もっとでかいドラゴンだって寝てたわけだし…)


「ところでレイン君さ、今日どっか行きたい所があるって言うてなかったっけ?」


 串焼きを諦め、立ち上がって歩き始めたユリ。


「そうなんです。行きたい場所はたくさんあるんですけど…。ユリさんはガラテアという名前の工房をご存知ですか?」


 俺はワッツから聞かされていたガラテア工房について尋ねてみた。

 エルフ村への地下道の工事には、腕のいい職人を始め、かなりの労働力が必要になるからだ。


「おお?ガラテアさんの所かいな、よう知っとるで?うちの店もようさん物仕入れとるからなぁ。傘下に入れ言うてきたラプトンの脅しにも屈しひんかった所やし、嫌がらせされとるうちの店にも、どんどん物を卸してくれたんもガラテアさんの工房やねん」


 ユリは新しい串焼きを頬張りながら、嬉しそうに話した。

 

 これは思わぬラッキー!

 ユリの店と付き合いがあるなら、話が早そうだ!


「そうなんですか。良心的な方の工房みたいでよかったです。色々心配して損しました」


 俺は胸に手を当て安堵した。

 あのワッツから、喧嘩別れして飛び出して来たと聞かされていた工房だ。

 漠然と荒くれ者のヤクザみたいな集団をイメージしていたが、悪い奴らになびかず、さらにユリの家とも付き合いがあるなら大丈夫そうだ。


「いやぁ、実はですね。うちの領内にワッツっていう鍛治職人がいるんですが、そのガラテアさんって方と昔からの知り合いらしくて…」


 俺は嬉々としてユリに説明しかけたのだが。


 ブブーッ!!


 ワッツの名前を聞いた途端、またもや盛大に串焼きを吹き出したユリ。

 ど…どうした…!?


「ワッツ…?レイン君、今ワッツって言うた?…それドワーフ鍛治職人のワッツのことか…?」


 ユリにがっしりと両肩を掴まれた俺。

 …口の周りを油だらけにしながら、顔を近づけて話すのはやめてほしいんですけどー。


「そ…そうですが…。なにか問題でも…?」


「あほ!!問題も問題、大問題や!ドワーフのワッツいうたら、かつてガラテアさんと一緒に、ここら一帯の腕のええ鍛治職人をまとめ上げて、王都の技術に革新をもたらしたっちゅう、その道では超の付く有名人やんか!!ずっと前から行方不明って聞いとったけど…。そうか…伝説の職人はプラウドロード領におったんかいな…」


 なな、なんと!?

 あのワッツがそんなに有名人だったとは!

 まあ腕は確かだと思うけど、ちょっと今のだらけた姿からは想像もつかんな…。


「まあでも、それは随分と前の話やし、うちも直接見てきたわけやないからなぁ。…うーん…けど困ったなぁ…。ワッツ…ワッツ絡みかぁ…」


 ユリは顎に手をやり、目を閉じて考え込む。

 その表情は硬い。

 今度はなんだ?


「…ガラテアさん言うたらなぁ、ワッツっちゅう名前聞いた途端、我を忘れてブチ切れてしまうことで有名なんやわぁ。確か2〜3年前もまちごうてワッツの名前出した冒険者が、ボコボコにされたって聞いたことあるで…?なんや金槌やら造りかけの剣やらがガンガン飛んできて、大怪我したとかなんとか…」


 うぇぇ、マジでぇ!?

 何がラッキーだよ、何が良心的な方だよ、間違えたよ!

 名前が出たくらいでボコボコにされるって何!?

 金槌や剣が飛んでくるって何!?

 寧ろ俺けっこう仲いいよ!?

 何なら酒造りとかまで一緒にしちゃってるし!?


「うーん、どうしてもガラテアさんと話せなあかんのやったら、ワッツの名前は出さんようにして…うーん、でもガラテアさん曲がったこと嫌いやしなぁ…下手うったら、し…」


 黙り込んでしまうユリ。

 し…ってなんだよ!?

 怖えよ!

 し…の続きは!?


 だが、ユリが思案に耽っていたその時。

 唐突にユリの視界に、路地裏で佇む1人の男が映り込む。

 傍目に見れば、ポケットに手を突っ込みながらタバコを吸う、ちょっと目つきの悪い普通の男。

 

 だがユリは違った。

 ユリはしっかりと記憶していたのだ。

 ハイポーションを積んだ荷馬車が襲われた時のことを。

 その時カークさんが大怪我をしたことを。

 そして逃げていった男たちの姿を。


「お前…!…こないだの奴やないかぁ…!!」


「あぁん…?…うあぁ!?お前はエチゼンヤの……やべぇ!!」


「あ、こら!!待たんかい!!レイン君、あいつや、あいつ!うちらの馬車襲撃してきよった奴らの1人や!!」


(うーん、どうしようかなぁ…。なんとかワッツのことを黙ったまま協力してもらうことはできないだろうか…?…いや、後でバレたらそれはそれでぶん殴られる恐れも…あぁ…一体どうしたら…。もしドワーフならお酒かなんかで釣って…)


「ちょっとレイン君!聞いとるんか!?あいつや、あいつ!!」


 ユリは俺の肩口を掴むと、ぐわんぐわんと思いっ切り揺すってきた。

 なんだなんだ!?


「ひぇ、あいつ!?ガ…ガラテアさんが出現しましたか!?な…殴られるのは嫌なので、とりあえずワッツのことは内密に…あわわわ…つい名前が…」


「何の話や!?ちゃうちゃう!あいつや、うちらの馬車を襲ってポーションを強奪していきよった奴らの1人がおったんや!あぁ…犯人に逃げられてまう!」


「え…えぇ?馬車を襲った奴って、こないだの?」


 俺が考え事をしてる間に、いつの間にやらユリが馬車襲撃犯を発見していたらしい。


「だからさっきからそない言うとるやんか!?ああ…もう姿が見えんくなってしもたやんか!」


「そ…そうですか、すみません。つい考え事を。でもそういうことなら大丈夫ですよ、多分」


 俺はにこりと笑った。

 だって俺たちの側には、ちょっと…、いや、かなり食いしん坊だけど、優秀な警察犬がいるじゃないか!


「シロ。ユリさんが言ってる奴、匂いで追えるか?ちゃんと見つけられたら、後でユリさんがご褒美に、美味しいもんご馳走してくれるぞ?」


『ワンワン!ワンワン!!』


 シロは嬉しそうにユリの周りをぐるぐる回る。

 か…かわええな、シロよ…。


「も…もちろんやで!お金は使うべき時にパッと使わんとな!シロちゃんが犯人見つけてくれたら、なんでも買うたるで!!…ボソボソ(安いやつな…安いやつ…)」


 あ!聞こえてるぞ、ケチん坊め。


『アオーーーーン!!』


 めちゃくちゃやる気を出したシロは、上機嫌で鳴くと、すぐさまその男が立っていた場所まで行き、くんくんと匂いを嗅ぎ回る。

 するとその直後、耳をピン!と立て、路地裏に向かって一目散に駆け出したではないか。


(うわ、物凄いスピード!しょ…食欲はここまでシロの能力を底上げするのか!笑)


 そしてシロが飛び出していって間も無く、少し離れた場所から、男の情けない悲鳴が響いた。


「ぐぁぁ!?い…いててててててて!!やめろ!やめろって!!なんだこの犬!!ってこれ、い…犬!?…あいたたたたたた!!」


 俺とユリがシロのもとへ駆けつけると、そこはさっきの大通りから2本程筋を挟んだ所の路地裏。

 男は完全にシロに押さえ込まれた状態だが、それでもなお、必死にもがいていた。


「おお!よくやった、シロ!えらいぞ!!」


「すごいな、シロちゃん!ほんまありがとうやで!」


「くそっ…放せ…放せよ…!うぐぐ…動かねぇ…何て馬鹿力だよ…くそが!」


 男は仰向けのまま抵抗を続けるが、立ち上がってくる気配は全くない。

 完全にシロにマウントを取られ、押さえ込まれている。


『キャンキャン!クゥンクゥン』


 駆けつけた俺に頭を擦り付け、全身で喜びを表現するシロ。

 いやん、かわいい奴め!


「ん?どうしたシロ…?なになに…?オークの串焼きがたくさん食べたい、だって…?うんうん…さっきのやつより高い方の肉がいいのか?仕方ないなぁ…えっ!?あと、プラウドロード家でお世話になっているから、ユリのお金でレインの分も買ってあげてほしいだって!?…な…なんて飼い主想いな奴なんだお前は!」


 俺はニヤニヤしながらユリの方を見る。

 ユリが大きくため息をつく。


「はいはい、わかりましたよ。せっかく捕まえてくれたんやし、それぐらはご馳走させてもらいます。けどレイン君の串焼きは普通の値段のやつやからね」


 よし、串焼きゲット!

 最初に高い値段をふっかければ、普通の値段の串焼き程度は買ってもらえると思ったぜ、ぷぷぷ。

 最初に値を釣り上げて、後で落とすのは詐欺の常套手段だけど、騙したわけじゃあないからね?


「ありがとうな。シロちゃんには奮発して旨いの買うたるからな!(いひひひ。串焼き程度なんぼでも買うたるがな。王都にはもっと高級な焼肉店とか、うまいケーキ屋さんとかいっぱいあるからなぁ。まだ案内してなくてよかったわぁ)」


 俺もシロもそしてユリも笑顔でwinwinだぜ!

 さて…問題はシロの下でぐったりしてる奴のことだけど…。


「あのぅ、お兄さん大丈夫ですか?ちょっとお伺いしたいんですが、先日ユリさんの馬車を襲撃したのはあなたで間違いないですか?」


 俺は仰向けの男に質問してみた。


「……ってるのか…?」


 男は恨みがましく俺を見ながら、苦しそうに言葉を発した。


「すみません、ちょっと聞こえないんですけど…?」


「こらあんた!男やったらきっちり自分のしたことにケジメつけんかいな!うちに対して最初になんか言うことあるやろ!?」


 ユリは俺の前に出ると、怒りながら男に詰め寄る。


 だが男は、今度はユリを睨みつけたかと思うとニヤリと笑い、突然叫び出した。


「…ははは!バカどもが…!ここが何処かわかってんのか!?…ざまぁみやがれ…!!」


 ザザ…。

 ザザザザ…。


(ん…?何かいる…?)


 俺とユリを取り囲むように、たくさんの足音が徐々に近づいてくる。


「あ!?しもた…!…ここは…!!」


 ユリはハッとして青い顔をしながら、キョロキョロと辺りを見回す。

 その額から頬に汗が伝う。


「レイン君、ごめん…。うち、こいつ追っかけんのに夢中で全然気ついてなかった…。ここは…ここは一般の者は絶対に足を踏み入れたらあかん場所…通称暗闇の町って呼ばれとる…スラム地区や!」


「スラム…ですか?」


 俺は周りの景色を見渡した。

 確かに付近の建物はボロボロで、今にも倒壊しそうなものが多数。

 また、そこら中に簡易テントのような物も作られ、生活用品や粗末な寝具等が無造作に置かれており、多くの人々が路上生活を余儀なくされている様子も窺える。

 その他にも、至る所にゴミが散乱しているし、なんかちょっと臭い…。

 遠くを歩いている犬も、シロと違って弱々しく、肋骨の形もくっきりだ。

 なるほど、スラムというだけあって、お世辞にも衛生的な生活をしているとは言えなさそうだ。


(成程…。スラム街って、わざわざ危険地域に行ってクレイジーな旅をする深夜番組とかでよく見てたけど、実際はテレビで見るよりも酷いもんなんだな…)


 そんなことを考えているうちに、俺たちはあっと言う間にたくさんのスラムの住人たちに取り囲まれていた。

 

 ガリガリに痩せ細った身体で、ボロボロの服を着用し、見るからに不健康な者。

 昼間から酒の臭いをぷんぷんさせている奴。

 他にも耳や目を失っていたり、中には片腕や片脚の無い者までいる。

 ある者は鋭く俺やユリをのことを睨みつけ、またある者はヘラヘラと薄ら笑いを浮かべているが、全員に共通しているのは、俺たちを異分子、つまり完全な敵とみなしているということだろう。


 もちろんそれぞれの手には、角材や長い棒だけでなく、包丁から古い鍋まで色んな物が凶器として握られている。


「そ…そら、このでかい犬をどけやがれ…!でないと…痛い目を見ることに…なるぜ…?」


 シロの下の男が、再度苦しそうに声を上げる。

 その顔にいやらしい笑みを貼り付けながら。


「え?ダメですけど」

 

 俺は首をかしげながら男に言った。


「な…なにぃ…!?お前…周りを見ろよ…!自分の立場がわかってねぇのか!?」


 ジリ…ジリジリ…。


 にじり寄って来るスラムの住人たち。

 場が殺気に満ち満ちていく。

 まさに一触即発。


 俺は再び周りに目をやった。

 人、人、人。

 そう、俺たちを取り囲んでいるのはたくさんの人なのだ。


「ユリさん、僕いいことを思い付いちゃったんです」


 俺は爽やか笑顔のつもりで、ゆっくりとユリの方へ振り向く。


「うわ!?なんやその悪そうな笑顔…。怖いわ!」


 なぜかユリは身構えると、後退りする。

 そ…そんなに悪い顔してた?


(ふっふっふっ…。俺ったら、みんながwinwinになるいいこと思い付いたもんねー!)


 俺はそんなことを考えながら、身体の中の魔力を急速に練り込んでいくのだった。


6月28日、改稿いたしました。


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