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第32話 とりあえず、生で!

レインとワッツの危機!?

第32話、よろしくお願いいたします。

「ワッツ、準備はいいですか…?下手をすると死ぬかもしれませんよ。覚悟はいいんですね…?」


「あぁ…一思いにやってくれよ…覚悟はできてるぜぇ」  


「承知しました…ただ…僕も一緒ですよ、ワッツ1人ではありません」


「レイン…お前って奴ぁ…」


 その直後、俺は身体に魔力を練り込む。

 俺とワッツを中心に周囲の温度が下がっていく。


 そして———————。


 ※※


「あなた。レインとシロちゃん、どこに行ったか知りませんか?」


 ミリアムは、夫グレンの執務室にやってきてそう尋ねた。

 妻が夫の執務室を尋ねてくるのは珍しい。

 グレンは政務の手を止め、ミリアを見た。


「いや、知らないが?いつものように森の中で遊びまわっているのではないのか?」


 そう言ったグレンの顔を見ながら、ミリアムは視線を落とし、顎に手を当てて考え込む。


「うーん、私もそう思ったのだけれど…。何か今日は朝からいつもと様子が違ったというか…ソワソワしていたというか…何か悩み事があって家を飛び出したりしていないかしら…」


 パタン。


 プラウドロード男爵領の政務日誌を閉じ、グレンは立ち上がった。


「うむ。あの子に限ってそのような心配はないと思うが…。しかしミリアがそう言うなら、私が少し探してこよう。お前は家で待っていなさい」


「私も行くわ、あなた。もし私たちの大切なレインを害する者がいるのならば、地獄の業火で骨まで焼き尽くさないと…」


 心配そうに恐ろしい発言をする妻をそっと抱き寄せ、優しく口づけするグレン。


「そ…そうだな…。だがミリア、お前が私と一緒に来たとして、もしも我々に万が一のことがあったら…1人残されたエリーはどうなる?」


 妻ミリアムの美しい銀色の髪をそっと優しく撫でながら、グレンは囁く。


「あぁ…あなた。そうね…あなたの言う通り…。私はもう母ですものね。そしてこの身はプラウドロード男爵家当主の妻ですものね…。わかりました…しっかりと我が家を護っておきます。それが私の責務だと理解しているわ」


「うむ。レインのことは任せておいてくれ」


 グレンはそう言うと、もう1度ミリアと口づけを交わし、手早く外出の準備をして執務室を後にする。


「全く、心配ばかり掛けおって…。今日ばかりは、見つけたら厳しくレインを叱らねばな!」


 そう言うが早いか、グレンはフリードに用意させた自慢の愛馬に乗り、颯爽と厩舎から駆け出した。


「あなた…どうかレインをよろしくお願いいたします」


 屋敷の2階の窓より、馬で駆けていく夫の姿を見送るミリアム。

 その表情は、勇壮な夫を頼もしく思う一方、大事な息子に関する胸騒ぎで複雑なものだった。

 そして夫グレンが出発して少し後。


 コンコン…。


「あら、エリーかしら?どうぞ」


「おかたま、失礼いたます」


 母の入室許可とともに、部屋へと入るエリー。


「どうしたのエリー。お腹が空いたのかしら?一緒にお紅茶でも飲みましょうか?」


 ミリアは笑顔でエリーに問いかけた。

 しかしエリーからは意外な話題が。


「おかたま。お友達に聞いたのです。今おにたまがね…」


「…えっ?レインがどうかしたの?…何か聞いているのかしら、エリー?」


 今日も天気は良く、過ごしやすい気温だ。

 だが外を吹く風は少々強く、木々のざわめきが妙にミリアムの耳に残るのだった。


 ※※


 グレンは馬を走らせていた。

 ざっと見るに、森の外縁部にレインの姿はなかった。


「となると、行先は…」


 とある家の軒先で丸くなって眠るシロの姿が見える。


「やはりここだったか…」


 グレンはワッツの自宅兼工房の付近で馬から降り立ち、近くの木に愛馬をつなぎとめる。

 そしてそのまま、真っすぐにワッツの自宅に向かって歩いていくのだが…。


 ぽよんっ。


「んん?」


 もう1度同じ行動を繰り返し、ワッツ宅の玄関に向かって歩く。

 だが。


 ぽよんっ。


「むむ…これは…?」


 グレンはワッツの自宅の玄関ドアをノックしようとそこへ近づくのだが、ドアの1メートル程手前に行くと、見えない壁と思しき何かに押し返されてしまった。


(これは…結界…?)


 グレンは手でそれに触れてみる。


 ぽよよん。

 ぽよよん。

 

「空気の壁のようなものが張り巡らされているのか…?ふむぅ…」


 グレンはちらりと、軒先で丸くなって眠っているシロへ視線をやる。

 そして肩で大きくため息をついた。


「シロ…。これはお前の仕業かな?私はレインを探してここへ来たのだが…」


 シロは丸くなったまま、片目を開けてちらりとグレンを見るが、すぐにそのまま目を閉じ、微動だにしない。


「やれやれ…。ご主人への忠誠は鉄壁というわけか」


 そう言うとグレンは、腰に提げていた革袋からある物を取り出す。

 それは…。


「おっと!たまたま間違えて美味しそうな干し肉を持ってきてしまった。誰かさんが魔法の結界を解いてくれるなら、ぜひ食べさせてあげようと思うんだが…」


 プシュウ!!


 グレンの金髪が、風に吹かれたように大きくたなびく。

 ワッツの居宅の周りに張り巡らされた空気の壁から、一気に内包された気体が噴出した瞬間だった。


『ワンワン!クーンクーン』


「お…思ったより早かったな…レインが泣くぞ…?」


 グレンはお腹を見せながらすり寄って近づいてくるシロに、干し肉を与えた。


「伝説の神獣フェンリルも、干し肉には弱い…か。王都の学者たちに教えてやったら涙を流して喜ぶだろうな…。いや、そもそも我が家で可愛がられていること自体に問題があるが…」


 苦笑いを浮かべつつ、ワッツ宅の玄関ドアをノックするグレン。

 しかし返事はない。


「仕方ない、ちょっとこのまま失礼するとしよう。シロ、すまんが私の馬を頼んだぞ」


『ワググ…(もぐもぐ)』


 美味しそうに干し肉を頬張るシロの姿が微笑ましい。

 少々レインみたく、シロをモフモフしたグレンは意を決して中へ。


「さて、一体どうなることやら…」


 コツ…コツ…コツ…


 グレンは住居部分をすぐに通り抜け、工房の方へと歩みを進める。


「ふ…、ここは以前と変わらないな。家の中はぐちゃぐちゃだが、工房の方はきっちりと整理整頓がなされている」


 工房内部には作りかけの農機具や家庭用の包丁やランプそして切れ味の鋭そうな見事な剣まで、様々な物が置かれている。


「ふむぅ…やはりここワッツの工房は、うちの領内の生活の中枢を担っていると言っても過言ではないな。以前レインが言っていたように、早急に鍛冶職人を増員しなければ、ワッツの負担は増える一方だな」


 そうグレンが領内のことを思案していた時のことだった。


 ガサゴソ。

 ガサゴソ。

 ひそひそ…

 ひそひそ…。


「ん…?あちらの方から声が聞こえてくるぞ…。どこだ…?」


 グレンは辺りを見回すが、物音の発生源は見当たらない。

 そのまま少々探し続け、工房の壁付近に差し掛かった際、目を凝らして地面を見てみると…。


「…地下室…か?…以前はこのような場所に階段はなかったように思うが…」


 コツ、コツ、コツ。


 地下への階段を下りてゆくグレン。

 階段を下りきったその先に、今度は一本道が。

 グレンは臆することなく、その道を歩いていく。


 地下道を進みながら、ふと側壁に触れてみるグレン。

 

「んん?この手触りは…土…ではないな…。これはもしや…レインが言っていた耐熱レンガ…か?」


 思考を巡らせながらさらに歩を進めていくと、グレンの前に一際大きな木の扉が現れた。

 その扉の向こうからは低く野太い声とともに、少しかん高い子供の笑い声も聞こえる。


「ここにいたかレイン…。一体この扉の向こうで何をしているんだ…?」


 耳を澄ませ、扉の向こうの会話を聞くグレン。

 すると…。


 ※※


「ワッツ、準備はいいですか…?下手をすると死ぬかもしれませんよ。覚悟はいいんですね…?」


「あぁ…一思いにやってくれよ…覚悟はできてるぜぇ」  


「承知しました…ただ…僕も一緒ですよ、ワッツ1人ではありません」


「レイン…お前って奴ぁ…」


 その直後、俺は身体に魔力を練り込む。

 俺とワッツを中心に周囲の温度が下がっていく。


 そして———————。


 バタンッ!!


「お前たち!何をやっているのだ!?」


 うおお!?

 な…なんだなんだ!?

 突然怒号とともに乱暴に開かれた扉。

 そしてその扉の向こうからぶっ込んできたのは、なんとマッチョ父だったのだ。


 これには俺とワッツも目を丸くする。

 今日は絡み合って転倒するような誰得大惨事には至らなかったが…。


「ち…父上…!?一体どうして…いや…それ以前にどうやって家の中に…」


 ちっ…まずい…。

 なんでここがわかったんだ?

 やべぇよ…もしこの秘密の研究が表沙汰になれば、大変なことになる…。

 いや…、下手をすれば殺される…。

 主にゆるふわ母に。


「ふふ…もしやそれはシロのことを言っているのかな…?神獣フェンリルも、美味しい干し肉の前では可愛い子犬同然ということだな。全く世紀の大発見だよ」


 父は腰から提げた革袋から美味しそうな干し肉を取り出し、顔の前でぶらぶらさせる。


(ちぃっ…シロめ…。風魔法で絶対に破れない結界まで張らせたというのに…。いとも簡単に買収されるとは…これはしばらくおやつ抜きの刑だな…。しかしこうなれば、かくなる上は…)


 俺はワッツと顔を見合わし、お互いにニヤリと不敵に笑う。

 それと同時に俺は、自分の指に土と火の魔力を込めて混ぜ合わせた。


 バタン!!


 父が開いた扉が急に閉まり、今度は外からは簡単に開かないよう、耐熱レンガで扉を固定した。

 父はその様子を見て驚いている。


「レ…レイン…。お前…何を…?」


「ふふふふふ…」


「へっへっへっ」


 そう言いながら父の方へと歩み寄っていく俺とワッツ。


「「みーたーなー?」」


 声を揃えて父に詰め寄る。


「ぐ…、もしや洗脳の魔法にでもかかっているのか…!?レイン、ワッツ!気をしっかり持つのだ!!」


 扉を背にし、何やら追い詰められた様子で額から汗を流す父。


 ふふふ…。

 見てしまったんだから、いっちょ覚悟してもらうぜ…?


「洗脳の魔法って。何か勘違いされていませんか?違いますよ、父上。さぁ、こちらをお持ちください」


 俺は父に、木でできた取っ手付きのカップを手渡す。

 大きさは、そう。

 ちょうど「生中一杯」のグラスと同じぐらいの大きさだ。


「むむ…これは…この液体は一体…」


 父はカップに注がれた液体の香りを確認する。

 そして…。


「こ…これはエールか?」


「いいえ、父上。それはビール(・・・)です。父上」


 俺は父にそう言った。

 ここまでくれば最早隠す必要はない。

 いや、寧ろ巻き込んでしまおう。

 一蓮托生だぜ、父よ!!


「ビ…ビール…?」


 カップをのぞき込み、中の液体を凝視する父。


「そうです。父上がご存じのエールとは似て非なるものと言いますか…。簡単に言えばエールビール、ラガービールという分類で、エールとおっしゃっても間違いではありませんが…」


 だが敢えて言おう。

 俺は俄然、ビール派なのだ!

 フルーティで豊かな味わいのエールよりも、「とりあえず生で!」と言える、一般的なビールが大好きなのだ!


「実はですね…父上。僕はワッツとともに(・・・・・・・)、おいしいビールの研究をしておりまして…。これまでに酵母菌を使った実験を何度も積み重ねて来たんです。そして今日は、その実験の成果を試す日だったのです」


「おいおい…発案はお前さんじゃねぇか…。今しれっと共犯に仕立てやがったな…」


 ワッツの妄言は気にしない。

 父の周りをゆっくりと歩き回りながら、これまでのビールに関する研究成果を延々と聞かせる俺。


「しかしレイン…未成年のお前が飲酒の研究とは…。私としては、けしからんことだと怒る立場なのだが?」


 俺はピタリと歩を止めた。

 そしておもむろに振り返って、カップを片手に目を丸くする父を見据える。


「そう思われるのも無理はありません…。しかしながら父上…これは領地の発展のためでもあるのです」


 ビシッと父を指さし、俺はそう告げた。


「領地の…発展…?」


「そうです、父上。僕はこのビールをいずれはプラウドロード男爵領の名産品として関係各所に売り込んでいきたいと考えています。父上も果実酒やエールは時々飲まれていますが、もっともっとおいしいお酒を堪能したいとは思いませんか?仕事終わりの一杯…働き盛りのおじさんを支えるその一杯が、今以上に格別の味になればどうでしょう…?その評判は領内に広がり、そして他の地域にまで波及すれば、その経済効果は計り知れません」


 ゴクリ…。

 父が唾を飲み込む音が響く。

 それ、もう一押し。


「むう…。だがしかしお前はまだ未成年…」


「父上!何を迷うことがあるのですか!?僕の年齢など些末な問題。父上には領民の皆さんが、仕事終わりの最高の一杯に喜び咽び泣く姿が想像できませんか?さぁ!さぁぁ!!」


 マッチョ父に詰め寄る俺。

 そしてがっくりと肩を落とす父。

 だって、俺だって「領民の皆さん」の一員だもんね!


「ぐ…私の負けだ…。お前の研究を認めようではないか…」


「何をおっしゃいますか、父上。僕はこの研究成果は、もとより全て父上にお譲りする心つもりでした。所詮この矮小の身では、お酒の研究など誰にも相手にしてもらえずに一笑に付されるが積の山、もしくは利益が出る前に潰されて成果だけ横取りされて終わってしまうでしょう。だがしかし!父上のお名前があれば、別。そのように商品を無下に扱われることもありません。そのためにはまずは父上に味を確認していただく必要があります。これは決して私的な飲み会ではありませんよ、わかりますね?」


 ここまでくれば、マッチョ父を首謀者にしてしまおう。

 さすが俺!

 がんばれ俺!

 美味しいお酒はもう目の前だ!


「成程…。うむ…私的な飲み会ではなく、領地の発展のためなら致し方あるまい…では早速…」


「お待ちください。僕とワッツが研究したお酒は、このようにして飲むのが一般的なのです」


 俺は身体の中に水の魔力を練り込み、軽い氷結魔法を行使する。

 目標はもちろんビールだ。

 さっきは突然父が乱入してきたので冷やす作業が中断したが、やっぱりビールは冷えてないといかん。


「むむっ!?酒を冷やして飲むというのか?」


「もちろんです。ぬるいビールなどもはや罪。…さあ父上、ワッツ、グイっと飲んでみてください」


 さあ、飲んで感想を聞かせてくれ…。

 そして2人が満足したなら、俺も満を持して飲もうじゃないか…!


「では頂くとしよう…わかっているとは思うが、これはあくまで職務だからな…うむ仕方がない、仕方がない」


「おほっ!待たせやがって…!!ほいじゃあ飲むぜ!!」


 ゴクリ…。

 一気にビールを流し込むマッチョ父とワッツ。

 そして。


「こ…これは…!!?」


「…うっひょぉぉ!?」


 ゴクゴクゴクゴク!!

 2人はそのまま、カップの中のビールを瞬く間に飲み干してしまった。


「う…うまいなんてものではないぞ…これは!?一体なんだこの味わいと喉越しは…。そしてこの何とも言えないふわふわの泡…。このような酒が存在したのか…?」


「めちゃくちゃうめぇなぁおい!酒にゃあうるさいドワーフのわしも、こんなうめぇ酒は生まれて初めてだぜ!この冷たいのが喉にシュワシュワ~…っとくる感覚が何とも言えねぇ…!こりゃ文句なしの合格だぜ…!!」


 おぉ!

 やはり冷たいビールは、この世界でもおっさんのハートをがっちり掴んだか!

 よしよし…、これをうちの領地で大量生産できるようにすればきっと売れるはず。

 何より、毎日作り立てのビールが毎日飲めるじゃないか!!


「それは素晴らしい。さぁ、父上、ワッツ。ビールはおかわりもありますよ?」


「うむ…職務としてなら、必要最低限度は致し方あるまい。さぁ、3杯目を貰おう」


「わはははは!もちろん飲むぞぉ!!」


 俺は試作品として作ったビールをもう一度2人のカップに注ぎ込み、冷却してやる。

 これは職務これは職務、等と言い訳がましく酒を飲む父。

 ただただ嬉しそうにガンガンと飲むワッツ。


 大興奮の2人をよそに、俺は自分のカップにゆっくりとビールを注ぎ込む。

 ゆっくり、ゆっくりとビールを注ぎ込む。

 おっとっと…泡の分量を大切に…と。

 くぅ…、この金色の液体に再開するまで長かったぜ…。

 軽くカップを冷却し、感慨にふける俺。


「では…いただきまーす!!」


 そして俺がビールを飲もうとした、まさにその瞬間の出来事だった。

 そう…、悲劇ってのは突然やって来るんだよな。


 ぼっかーーーーーーーーん!!


 耐熱レンガで固定していた部屋の出入口が、けたたましい轟音とともに突然吹き飛んだ。


「な…何事だ…!?」


「うまうま」


 驚いて煙にまみれる出入口を見る俺と父。

 ワッツは全然気にせず飲んでいる。

 ある意味すごい。


「て…敵襲…?……げげ!?あれは…!!?」


 徐々に落ち着いていく土煙。

 そしてその向こうから姿を現したのは…。


「あらあらまぁまぁ、このように日の高いうちから酒盛りですか…?それはそれは素晴らしいことですねぇ…?あなた、レイン…?」


「「ひえぇぇ!?」」


 何と母だった。

 そこにはめちゃくちゃ笑顔だが、目が全く笑っていない、うちのゆるふわ母が大地を踏みしめるように立っていた。


 ち…父ならともかく、なんでここがバレた…!?

 そしてどうやら俺が魔法で作った耐熱レンガを吹き飛ばしたのは、母の火の魔法のようだ。

 

 かなり頑丈に作ったはずなのに…。

 こ…殺される…。


「旦那様…奥方様をお連れいたしました」


 フリードはここでも恭しく一礼する。

 その場違いな丁寧さにも、もはや誰も突っ込まない…というか突っ込める状況にない。

 重苦しい沈黙を母が破った。


「…エリーが1人残されたらどうのこうのと言いながら、颯爽と飛び出していったあなた…ええ、ええ、それはそれは大変頼もしかったですとも…。けれどその実、こういうことだったのですね?」


 母はゆっくりとそう言いながら、じりじりと俺たちに迫って来る。

 きゃああ!!

 エンシェントドラゴンより怖いぃ!!


「ち…違うミリア!全てが違うんだ!!これには海より深い訳が…」


「は…母上!!どうか父上を責めないであげてください!!」


 しれっと被害者面する俺。

 …すまん父よ…。

 俺はこんなところで死ぬわけには…。


「あらあら…この期に及んでいい訳とは、なんと嘆かわしい…」


 キィィィン…。


 母は右手を前に出すと、そこに無属性魔力を集中させはじめる…。

 あ…これあかんやつや…。


「こんな時間から政務を放置して、酒宴を楽しむ領主…」


 父を見る母。

 そして一歩。

 母は歩き出す。


「お酒のこととなると、小さな子供がいてもどこ吹く風の、のんべえドワーフ…」


「えぇ!わしも入っとるんかいな!?」


 ワッツを見る母。

 また一歩…。

 ゆっくりと、だが確実に歩みを進める母。


 お…俺は被害者扱いだよな…?セーフだよな?

 だ…だって、僕まだ子供だもんね!

 二…ニコニコーキュン☆


「そして…最後に」


「ひぇ…!!」


 影のある笑みを浮かべつつ、俺に視線を合わせる母。

 その表情は、この世全ての恐怖をでっかい鍋に詰め込んで、ぐつぐつと煮詰めたようなものだった。


「こういう話の首謀者は、大体あなたね……可愛い、レ・イ・ン」


「「「ぎゃああああああ!!」」」


 部屋の隅で身を寄せ合った男3名。

 その絶叫が、狭い室内に響き渡った。


「おいたわしや…旦那様…坊っちゃま…」


 人差し指をそっと額に添え、フリードはそう呟いたのだった。


 …なお、1つ付け加えておくと、あの後涙目でお尻を腫らしたマッチョ父がゆるふわ母に事情を説明し、試飲を勧めたところ「あら美味しい」と及第点を頂き、俺だけ何故かもう1発お仕置きされた後、研究の継続を許可されましたとさ…。


 結局一滴も飲めず仕舞いだったとさ…ガクッ。


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