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第22話 東方の遊牧民族を助けよう

遊牧民族の突然の来訪の真意は…。

第22話、よろしくお願いいたします。

「レインフォード、ただいま戻りました」


 俺とシロはフリードとともに応接間に入った。

 

 そういや、この間はここでヴィンセント税務査察官とお話(・・)したよな。

 相変わらずトマートばっかり食ってんのかな?

 今度ドワーフを訪ねて王都へ行ったら会えたりするかなぁ。


「うむ、戻ったかレイン。こちらへ来なさい」


 シロはそのまま部屋の隅っこで丸くなる。

 父に促された俺は部屋の中央に置かれているソファーの元へ行き、一礼して父の横へと座った。

 するとそこには、俺たちと向かい合う形で、2人の男が座っていた。


 そしてまず、父と向かい合って座っている壮年の男性が口を開いた。


「うむ、ご子息ですな。この度は突然の来訪失礼いたす。わしはここより東方に位置する大草原に暮らす、ブリヤート族の族長、バゼル・ブリヤートと申す」


 うわぁ!

 このおじさんでっかいなぁ。

 座ってるから微妙だけど、上背は2メートルぐらいあるんじゃないか?

 おまけにマッチョ父よりもさらにマッチョで、手足はまるで丸太じゃないか!


 続いてそのマッチョおじさんの横、俺と向かい合って座っている20歳前後と思われる若い男が名乗った。


「私は族長バゼルの息子、セルジ・ブリヤートだ」


 ふむぅ。

 こっちは引き締まった体をしてるけど、そこまでマッチョじゃあなく、むしろ華奢なかんじ。

 どっちかというと華奢マッチョってとこか。

 いや、それもうマッチョじゃないか。


 服装は2人とも質素な感じで、灰色のコートのような長い上衣に、それぞれが赤色の帯を締めている。

 ズボンはどちらも黒色で、革で作られたと思しき靴は、先っぽのほうがちょっとだけ尖った形だ。


「して、この度はどのような用向きでいらっしゃいましたかな?ブリヤート族の方々は、あまり他国と関わらないと伺っておりましたが」


 まずは、うちのマッチョ父が相手のスーパーマッチョ父に対し、口火を切った。


「単刀直入に申し上げると、我が部族を助けていただきたいのだ」


 眉間にしわを寄せ、バゼルと名乗った男はそう言った。

 横に座るセルジも眉根を寄せ、難しい顔をしている。

 …にしても、助けていただきたい、とは…?


「ほう、それは。我がプラウドロード家に対し、如何なる助力をお求めでしょうか」


「うむ。ご承知のとおり、我らブリヤート族は周辺国家に属さず自治を続けてきた。それらは全て、我らが遊牧民族としての誇りと伝統を守っていくため。それはこれからも決して変わることはなかろう。だが今回、そのようにばかりは言っておられぬ事態に見舞われてしまった」


 バゼルは凛と背筋を伸ばし、助けを請う身であるにもかかわらず、どこまでも毅然とした態度で話す。

 

 成程なるほど。

 あくまで誰にも従わず、屈しない、という訳か。

 でも俺はこういう人好きだな。

 媚びへつらってヘラヘラしてくる奴より、よっぽどいいや。


「族長よ、これよりは私が」


 すると今度は、バゼルの息子のキャシャーンセルジが話し始めた。


「我々は先祖代々、大草原に点在する3つの大きな湖を拠点とし、季節ごとに各所を巡ってきた。ブリヤートの草原は広大で、それぞれの時期に適した場所があり、その中で点在する湖の恩恵を受けながら、家畜とともに生活してきたのだ。しかし…」


 セルジは何か思う所があるのか少し俯いたが、やがて意を決したように前を向く。


「その3つの湖すべてが、突然跡形もなく干上がってしまったのだ」


 やにわに、応接間に沈黙が訪れる。


 うーむ…。

 3つの湖が、全部干上がってしまったと?

 しかもいきなり?

 自然現象にしてはちょっと不自然だな。

 まあいずれにしても、この人たちにとっては死活問題という訳だ。


「我らとて、常に家畜の乳しぼりをして遊んでいるわけではない。無論、周辺の情報収集も行っている。…昨今、プラウドロード領東方の荒野が、緑があふれる実り豊かな土地へと変貌したことも承知している。加えて、突如として広大な湖やそこから流れ出す川が顕れたとも聞き及んでいる」


 バゼルとセルジは真剣な眼差しで、父を見つめている。

 俺たちは知ってるぜ?情報収集もしてるんだぜ?といった風だ。


「ふむ、事実ですな」


 特に隠すこともない、というように、父は眉一つ動かさずに堂々と答える。

 2人は少し虚を突かれたように一瞬目を丸くしたが、すぐに元の表情に戻った。


「どうかここに恥を忍んでお願いしたい。広大な荒野を御したその技術で、我がブリヤート族を助けてはくれまいか」


「お願いいたす」


 2人は父に向かって頭を下げた。

 そこで俺と父はどちらともなく顔を見合わせ、小さく頷く。

 父からの委細は任せた、の合図だ。


「では、こちらから少々よろしいでしょうか」


 今度は俺がバゼルに問いかける。


「うむ、なんであろうか」


 バゼルが答え、セルジも俺を見る。

 ちっちゃいお前がなんかあんの?って顔してんな。


「我がプラウドロード家が、そちらをお助けするのはやぶさかではありません。生命の源たる水の悩みは、死活問題でしょう。しかしながら、当方はそちらへの助力の対価として、何を頂けるのでしょうか?」


 ガタン!

 突然セルジが立ち上がり、大声を出す。


「…お前!?子供のくせに、わかったように口を挟んで!我が族長に向かって無礼だぞ!?」


 うおぃ!?

 なんだなんだ?

 キャシャーンがいきなり怒り出したぞ。

 そんなん言われましても。


「子供だろうとなんだろうと、僕はプラウドロード家の長男で、家長たる父グレンフィードの補佐をする立場にございます。それはあなたも同じなのではないですか?その上で、正当な対価に及んだ話を無礼などと言われる筋合いはないかと思いますが」


「…何だと…!」


 セルジは怒りを露わにする。

 確かに俺は、困っている人たちに対して、少し厳しい姿勢を取った。

 けど助けるのはいいとしても、こういう話は最初にしっかり詰めとかないといけない。

 後から、これはああでした、実はこうでした、そんなの聞いてないけど?じゃあ、お互い困るからね。


「やめろ、セルジ。無礼なのはお前の方ぞ」


 ジロリと睨みを利かせ、ドスのきいた声を響かせるバゼル。

 逆にビクッとして、黙り込み、バゼルの方に向きなおるセルジ。


「何の対価も無く助けられるなど、逆に後が恐ろしいわ。レイン殿が、双方に後顧の憂いなく話を進められるよう水を向けてくれているのが、お前にはわからぬのか」


 セルジが、大きく目を見開いて俺を見る。

 まさかこのチビが…?という感情をひしひしと感じる視線だが、バゼルの言ったことは正しい。

 俺だって窮地に追い込まれている相手から利益を搾り取るつもりなんて毛頭ない。

 ただ、最初に取り決めをしておいた方が、相手も話しやすかろうと思ったまでだ。


「うちの愚息が至らぬことをした、許してくれ」


 バゼルは、深々と頭を下げた。


 うんうん、厳しい口調だけど、きっとキャシャーンのことを大切に思ってるのね。

 まあキャシャーン本人は、それを知ってか知らずか、顔を真っ赤にして、プルプル震えてるが…。


「頭を上げてください、バゼル殿。我が息子レインは、時折その10歳という年齢や容姿と不相応に、親の私でも驚くようなことを思い至るのです。セルジ殿が無礼千万と思われるのも、致し方ありますまい」


 おっ?

 父ったら〜、褒めてくれるの?

 へっへっへっ〜。

 ワッツと密造する予定のお酒、ちょっと融通してやろうか。


 父は続ける。


「実は先程話に上がった、我が領地の永遠の課題でもあった荒野の開拓。その中核を担ったのも、この息子レインの魔法なのです」


「…!!」


 魔法。

 そう聞いた途端、顔を真っ赤にしていたセルジは俺に向き直り、そして射抜くような鋭い視線をぶつけてくる。


 んん?

 なんだなんだ?

 もしかして遊牧民族は魔法がお嫌いなのか?

 我々は怪しげな魔法などに頼らず、己の肉体1つで道を切り拓いていくのだ!!…的な?


「…ほほぅ、それはそれは。我が一族では殆ど皆が戦士でな、魔法などを使える者はほんのわずか。かく言うわしも、魔法にはとんとうとくてな」


「そうですな。膂力や、こと一騎打ちにおいてバゼル殿に勝てる者など、想像もつきません」


「うむ。まあ一度戦が始まれば、わしが出るまでもなく、自慢の地龍騎兵隊が敵陣諸共踏み潰してしまうのでな。腕が鈍ってしかたないわい、はっはっはっ!」


 父のお世辞に気をよくしたバゼルは、豪快に笑いながら自身の左手を右肩に置いて、丸太のような右腕をぶんぶん振り回す。

 そんな父親のはしゃぐ姿をよそに、セルジは視線を落とし、何やら考え込んでいる様子だ。

 元気ハツラツの父が恥ずかしいのか?


「おっと、すまぬ。話が逸れたな。もし我らを助けてもらえるのであれば、羊や馬をはじめとした、我らにとっても貴重な家畜を無償で提供しよう。またそれらから作られる毛織物や食材も差し上げよう」


 俺は、父と再び顔を見合わせて、アイコンタクトを取った。


「いえ、無償での提供は必要ありません」


 俺はバゼルとセルジに告げた。

 バゼルの表情が曇る。


「…それはご助力は頂けない、ということかな?」


「いえ、そうではなく。水や食糧の援助はさせていただきましょう。僕たちとて、領民が飢えや渇きに苦しんでいれば、なんとしても解決したいと願うでしょうから」


 それはこの2人も当然同じだろう。

 一族のためを思うが故、族長なんていう偉いさん自らが、出向いて来てるんだろうしな。


「うむ…それはこちらとしては願ってもない話ではあるが…それではあまりにも、こちらが有利ではないかね?」


 バゼルは腕を組んで、眉根を寄せる。

 あまりに有利な条件に、何かを勘繰っている様子。


「弱みに付け込んで、利を得ようとは思いません。そこからはきっと何も生まれないでしょう。ですので当家といたしましては、問題解決後の、ブリヤート族との対等かつ継続的な交易、そして今後の友好関係を望みます」


 ふっふっふ…。

 はっはっはっはぁ!

 ちょこっと羊を貰ったところで、刈れる毛の量はたかが知れてるし、何年かしたらジンギスカンになってさいならだ。

 けど交易関係にあれば、羊毛なんかは継続的に手に入るし、そして何より…。

 

 エリーにふっかふかのセーターを着せてやれるじゃあないか!


 これは決定事項だ!

 異論は許さない!

 ふかふかで、ぶかぶかのセーターを着たエリーが、上目遣いで「おにたま、温かいです」なんて言ってくれた日にゃあ…。


「…おぉ…。なんという…素晴らしく利発な子供だとは思っていたが、そのように友愛の情まで持ち合わせているとは…。わしは感服したぞ。心より感謝する…是非ともそのように取り計らっていただきたい」


 おぉ…すまん。

 友愛というよりも、けっこう私利私欲に走ってました…。


 そんな俺の打算など露知らず、バゼルは再び深々と頭を下げた。

 少し遅れてセルジも頭を下げる。


「ふふふ…グレン殿よ、このように立派な跡継ぎがおれば、プラウドロード家も安泰ですな?」


 交渉ごとが一段落し、場は少し和やかな雰囲気となる。


「そうですな。しかし時折危なっかしい…いや本当にあらゆる面で、危険な所は多々ありますが、なかなか立派に育ってくれていると思います…よ?」


 なんで最後疑問形なんだよ。

 まあ独断専行で、後始末を全て父に無茶振りしてるのは事実だが。


「いやいや、子供は少々わんぱくが過ぎる程度がよい。…よいのだがなぁ」


 バゼルは少し視線を落としながら、ふとセルジの方を見る。

 セルジはビクッと肩を揺らすが、その視線は下を向いたままだ。

 バゼルは続ける。


「先程も話したとおり、我らブリヤート族はその殆どが戦士。己の強靭な肉体や、闘いにおける強さが全て。何を隠そう族長たるこのわしも、まだまだ一族の誰にも負けはせぬ。わしの父も、そして祖父においても誰よりも強く、皆の信頼と羨望の眼差しを一身に受けておった」


 まあ…そりゃあね…。

 あなたを見ればよくわかるよ、うん。


 しかし、そこでバゼルは大きくため息をついてセルジを見る。


「だかなぁ…そんな一族の理の中、我が息子セルジは……セルジは何故か魔法使いに生まれてしまったのだよ…」


 青い顔をしながら肩を震わせるセルジ…。


(成程ねぇ…。後継者問題勃発…という訳か…)


 ただの水不足解消や食糧支援ならいざ知らず…。

 また面倒なことになりそうだなぁ…。

 と、自らフラグを感じずにはいられない俺であった。


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