第146話 ダンジョン探索① ~ユリ・エチゼンヤのダンジョンに関する考察と今後なすべきこと~
ダンジョン探索に向かったレインとイザベルだったが、そこにはユリ・エチゼンヤの姿が。
どうせ金目当てなんだろ?といぶかるイザベルに、ユリの取った行動は…。
第146話、よろしくお願いいたします。
「どわ〜〜!?」
「ひえぇ!!」
「あべしっ!!?」
響く悲鳴。
飛び散る火花。
そして絶え間なく襲いかかってくる世にも恐ろしいトラップの数々…。
さすがは深淵の闇に続くが如く広がるダンジョン。
例えるならば、まさに深い闇の中でポッカリと大きな口を開けて獲物を待つ魔獣の如…
「ちょいと待ちなぁ〜っっ!!」
「「うん?」」
「こんな浅いダンジョンのしかも入口付近で、何勝手にいい感じの妄想してんだい!ほんっ…と、アンタら2人!一体何回宝箱のトラップに引っ掛かったら気が済むのさ!?勝手に開けんなってずっといってんだろ!?」
せっかくそれっぽい解説をしていた俺に、イザベルは目を剥きながら、大声で怒鳴り散らす。
ほ、ほんの何回か宝箱で失敗しただけじゃん。
そんなに怒んなくても…?
「おい、坊や。アンタどうせ今、ちょっと失敗しただけじゃん?そんなに怒んなよ、なんて思ってただろ!言っとくが、これで26回目だからねぇ!宝箱で死にかけたのは!!」
ユリと俺はお互いに顔を見合わせると、頭をポリポリとかきながら、同時に片目をつむってペロリと舌を出した。
「全っ然かわいくないわぁ!この強欲コンビめ!」
ますますヒートアップするイザベルに、ユリが申し訳なさそうに頭を下げる。
「い、いやぁ…、ごめんやで?イザベルさん。うちもな、頭では宝箱開けたらいかん、開けたらいかんっちゅうのはわかっとんねん、わかっとんねやけど…。(チラリ)」
「…宝箱、それは最早ロマン。決して金銀財宝が欲しいわけではなく、至高の名剣を手に入れるためでもない…。闇の中でひっそりと孤独に耐え、誰かの救いの手を待つそれを、ただ1つ!心の鍵で解き放つ!!」
「うわ!まさにそれ!あれやな!?…考えるな、感じろ…!っちゅうやっちゃで!」
「アホか!結局とどのつまりは、欲望に負けて我慢できず、宝箱を開けちゃいま~す!ってことだろうが!」
「いやいや、でもほら、イザベルさん。実際に宝箱の中から収穫もあったわけですし…?」
「アンタの言う収穫ってのは、この錆びた短剣2本と、何だかわからん枯れた薬草1束、ポーションの空瓶1個…。あぁ、あとは宝箱から飛び出した毒ガスやら、強酸スライムのことを言ってんのかねぇ…?」
額に何本も青筋を立てながら、イザベルはボロボロの短剣やほぼ枯れた薬草などを無造作に投げ捨てた。
カランカラン…と、乾いた金属音が物悲しく響く。
「潜る時に口酸っぱく言ったろ!ダンジョンってのは、生き物みてぇなもんなんだ!たとえ比較的浅くて攻略が容易って言われてるやつでも、ちょっとの油断が死を招くことになるんだよ!」
程よい岩に腰掛けながら、イザベルは腕と脚を組みつつ、ガミガミと説教をたれ…ゴホン!色々とご指導してくださっている。
もちろん、俺たちは立たされたままですけどね(涙)
「…にもかかわらず!アンタらときたら、パカパカパカパカ、手当たり次第に宝箱を開けやがって…。一番イージーなトラップだろう、宝箱なんてさ!」
「…いや、せやかてイザベルさ…」
「せやかても、脛当てもない!それにねぇ、一番の問題はアンタだよ、ユリ!」
「ええっ!?うち!?うちに何か問題あんの?」
「いや、むしろ問題以外の何があんのさ!そもアンタは冒険者でもない、ただの商人さね!剣は振れるのかい?魔法は行使できんのかい?そんな丸腰で、危険なダンジョンの中で一体どうしようってんだい!?」
俺はしれっとイザベルの隣に立ち、そうだそうだとうなずきながら、叱られているユリを訝しげに見る。
まあ考えてみると、確かにユリは俺たちのように王様やセドリック宰相から命令されてここにいるわけではない。
何らかの方法で情報を手に入れたか、俺たちの後を尾けるなりして、独断でここへやってきたはずだ。
最奥に悪魔が控えているであろうことも知ってか知らずか、そもそも一体何をしにここへ来たのだろうと、俺も考えていたところだ。
イザベルに怒鳴られてしょんぼりしていたユリは、上目遣いで小さく話し始める。
「…いや、だってな、うちダンジョンのことはこれまでまったくノータッチやってんけど、イザベルさんから話聞いたり、冒険者ギルドとかに行って尋ねてまわったりして調べとったら、色々わかってん。なぁ、イザベルさん。どんなに簡単なダンジョンでも、死んでまう人はやっぱりおるんやろ?」
「…そのとおりさ。後ろから魔獣に襲われたり、しょうもないトラップに引っかかって死んじまう奴らが後を絶たないからねぇ」
イザベルは、トラップの下りでしかめっ面をしながら、俺を見る。
一応、反省してまーす。
「あとな、うちが一番びっくりしたんが、ダンジョンの中って、店とか一軒もないらしいってことやねん」
(うん…?店…?ユリのやつもしかして…?)
「あぁ~?店だぁ~?そりゃアンタ、ここはダンジョンなんだから、店なんてあるわけないさね。だからダンジョンに潜ろうって奴らは皆、事前に食糧を備蓄したり装備品や回復薬をたらふく買い溜めしてんじゃないか」
イザベルは、何言ってんだコイツ?と言わんばかりに片眉を上げ、ユリをたしなめる。
「そう、そこやねん、そこ。うちがめちゃめちゃ気になっとるんは」
ユリは両手をポンっと手を叩くと、ズイッとイザベルの方へと身を乗り出した。
「…?そりゃどういう意味だい?」
「だって、ダンジョンに行くにはイザベルさんの言うとおり、めちゃめちゃ準備せなあかんねやろ?ほなら持っていく荷物もごっつい重いんとちゃう?現にイザベルさんも今、飯やら何やら入れたでかい鞄、ず~っと担いどるやんか?」
「いや、ダンジョンってなぁそういうもんなのさ。荷物持ちは荷物持ちとしてその役職に専従するし、それが確保できなきゃあ全員で分担して荷物を担ぐ。あとは魔獣の攻撃を受け止める盾役や隙を見て切り込む剣士役、後方から強力な魔法をぶっ放す殲滅役なんかがいるのが常だが、そうやってダンジョン内ではきっちり役割分担をしとかないと、すぐに立ち行かなくなっちまうんだよ」
イザベルは目を閉じてため息をつきながら、話し続ける。
かつて自分が組んでいたパーティーのことを思い出しているのだろうか。
もちろん、この世界のダンジョン探索において、豊富な知識・経験を持つイザベルの言うそれがセオリーであるのだろうし、きっと間違いではないのだろう。
だが、俺は何となくユリが意図するところが見えてきた気がした。
「だからな、その荷物持ちよ、荷物持ち。それかみんなで一生懸命でかい荷物を担ぐっちゅうところ。それってめちゃめちゃ限られた探索リソースを無駄にしてしもてへん?荷物持ちを雇うだけでも余計な出費やろうし、ましてや、こんな狭いとこでみんなで荷物担いどったら、満足に動かれへんやんか」
「…さっきからアンタ、一体何が言いたいのさ?」
「だ~か~ら~!そこで店っちゅうキーワードに帰結するんやんか、イザベルさん!」
ふと気が付くと、終始説教ムードだった会話が、いつの間にかユリのペースで話が進んでいる。
さすがは王都有数のエチゼンヤ商会の代表、その話術のスキルはトップクラスというところか。
前世の俺の会社で営業に着いてたなら、きっとだれも敵わなかっただろう。
「もしもやで!もしダンジョンの中に店があってやな、必要な武器や防具、その他の回復の薬品やら何やらが購入できて、さらにそこで飯が食えたり、休憩やら宿泊までできるとなったら、ダンジョン探索っていう事柄の効率が、めちゃめちゃ上がると思わへん!?」
「――!」
そこで初めて、イザベルは何かに気付き、ハッとした表情を浮かべた。
ついにユリの意図するところに思い至ったらしい。
「いや、もちろん、こんなんダンジョンのダの字も知らん小娘の勝手な妄想かもしらへんし、よしんば、この計画が実現できそうやとしても、それはそれはごっつい高いハードルがぎょうさんあると思うねん。それこそ、もっとようけダンジョンの視察に行かなあかんやろし、ダンジョンの深さや難易度、襲ってくる魔獣の強さや種類でも色々と変わって来る。そもそも、店を構えることすらできへん苛烈な環境の場所もある思うねん。でもな、それでもうちはな…」
腕を組んで難しい顔で話していたユリが、ふと目を開く。
「せっかく生まれてきたんやし、一個しかあらへん命やねんから、絶対に無駄に散らしてほしないねん。どんな荒くれ冒険者やったとしてもな」
「!!」
にっこり笑って事もなげにそう言ったユリに、イザベルは思わず目を丸くした。
きっとイザベルは、ユリが私利私欲の強欲まみれで、何かおこぼれで宝物をゲットできればという邪な心を持って、金魚の糞みたいに…、おっとごめん、少々言葉が過ぎたが、そういう軽い気持ちでダンジョン探索に引っ付いてきたのだろうと思っていたはずだ。
そんなユリから、まさか冒険者を慮る言葉が飛び出すなど、きっと女神様だって予想できなかっただろう。
「…とまぁ、そういうわけやから、うちもダンジョン探索に同行させたってえな。この通り!頼んます!!」
ユリは目を閉じて合掌し、ペコペコとイザベルに頭を下げる。
そんな彼女をしばらくの間呆然と見ていたイザベルだったが、ふと小さく笑うと、ぽんっとユリの肩に手を置いた。
「…まっ、そこまで言われちゃあ仕方ないねぇ。素人のアンタだけど、同行を許可しようじゃないか。その代わり、ダンジョンじゃあアタシの言うことには絶対に従うこと。わかったね?」
「…お、おぉ!!もちろん、従うに決まっとるやんか!よっしゃ、これで何とか視察は形になりそうやな!」
同行のお許しが出て小躍りするユリを、イザベルは優しい眼差しで見つめていた。
ユリの言うとおり、ダンジョン内で店を構えるというトンデモ計画は困難を極めるだろうが、商魂の逞しいユリなら、いつか本当に実現するかもしれない。
「(うしししし…!誰も出店してないダンジョンっちゅう宝の山…いや、宝の洞窟で、うちらエチゼンヤ商会が手広く商売できたら、その利益たるや、ほんまどえらいことになるで…!やっば、や~っば、これは涎が止まらへんでぇ!!)」
(…何てことをユリの奴は考えてんだろうな。涎まで垂らしてるし。けどまあ、そういうことなら、俺も手を貸してやらないでもないな!エチゼンが切り盛りする店にうちの領内の商品を卸しまくれば、正直莫大な売り上げにつながるだろうしね!ゲヘヘヘヘ!!)
「ぃよっしゃ、そうと決まったらどんどん進むでぇ!時は金なり!!じっとしとったらいつまでたっても……って、わわ!レイン君!あの奥の岩場に宝箱はっけ――――ん!!」
「なっ、何ですって!?早く行きましょうユリさん!もたもたしているうちに誰かに取られちゃうかも!?」
「ア…、ア…、ア…、アンタらぁぁぁ――!!?」
猛ダッシュで宝箱に向かって駆け出した俺たちの背後から、怒号が響く。
ふっ、言ったろ?イザベル。
宝箱、それは最早ロマンなのだと…。
俺はユリとともに、宝箱から勢いよく飛び出した巨大なドロドロのスライムに取り込まれながら、にっこり笑ってサムズアップのポーズをとるのだった。
スミマセン…タスケテ…。
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