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第144話 君の名は ~キラーアントのお姉さんの場合~

 王都の民が避難する大空洞構築を短縮できる?

 次代のアリの女王の言葉に色めき立つレインたち…。

 だがその方法とは例のアレで…。

 第144話、よろしくお願いいたします!

 5日間程度はかかるという地下空洞の建設を早める方法がある…。

 

 次代のアリの女王のそんな言葉に、謁見の間はにわかに色めき立った。


「…なんと、そのような方法があると…。次代の女王殿…、その詳細、ぜひお聞かせ願えませんかな?この宰相セドリック、我が王国を守護するためならば、打てる手は何でも打ちますぞ…?」


 セドリック宰相が身を乗り出して問いかける。

 だがそんな前のめりの宰相とは対照的に、次代のアリの女王は、なぜだかわからないが、ややうつむき加減で、恥ずかしそうに小さく言葉を発した。


「…その…、な…名前…。名前を…い、頂ければ…」


「へ…?」


 予想外の返答に、平素冷静沈着なセドリック宰相は、そのしゃがれた声を裏返らせた。

 次代の女王は依然として、顔を赤らめて視線を落としながら、人差し指と人差し指を顔の前でツンツン突き合わせつつ、チラリと俺の方を見る。


 な、名前…、名前がほしい?

 前にどっかで聞いたような話だな…?


 静まりかえった謁見の間で、頭に?マークを浮かべたセドリック宰相が、言葉をつなげる。


「…ふ、ふむ、話が見えませんが、名前…と、おっしゃいますと…?」


「…はい、実を申しますと、私が女王という大役を担うための進化、皆様がクイーンズ・バーストなどと呼称されるものは、実はまだ完全な形では終わっていないのです…」


 次代のアリの女王は、もじもじしながら小さくそう言った後、再びチラリと俺を見た。


「…母は言いました、想い人である殿方から名を与えてもらい、自身が心からの愛でそれに応えることにより、女王になる準備が全て整うのだと…。おそらくそれが完遂され、この私が完全な形で名実ともに女王となれば、この体に宿る魔力も爆発的に増加し、地下空洞の構築についても容易に果たすことができるはず、です…」


「ほ、ほほぅ…、なるほど。そういう事情でしたか…」


「…けれど、私のような卑小なアリ風情…、お慕いするレインフォード様に誠心誠意尽くしこそはすれど、何かをおねだりするなどとという行為があまりに恥ずかしく…。王国の皆様に差し迫る危難を存じていながら、この期に及んでそれを言い出せずにいたのです…。申し訳ありません…」


 次代のアリの女王は、か細い声でひとしきりそう言い終えると、両手で顔を覆ったまま、その場にペタンと座り込んでしまったではないか。


「わかる、わかるわぁ、その気持ち。ず~っと待ってたんだよね?レイン君の方から何かに気付いてくれるのを」


「あぁ…、想いを寄せる殿方に対するそのお気持ちや恥じらい、何て奥ゆかしい…」


 モニカとレベッカは足早に次代の女王に駆け寄ると、王様の前であることも忘れ、うんうんとうなずいたり、その背中をトントンとさすったりしている。


「くぁ~、あんたいい女だよ。その気持ち、その気遣い、同じ女としてアタシもよくわかるさね。しっかしこの坊やは、やたらめったら強いくせ、そういう面では超が付くほど鈍感だもんねぇ、まったく…」


 ため息まじりのイザベルが、なぜか俺に厳しい視線を向けてくる。

 …お、お前だけには言われたくないんだけどな…!?

 おいヴィンセント、お前も何だよ、その苦笑いは…!


 そしてふと気付くと、なぜかその場にいた全員が怪訝な表情で俺を見ているではないか!


 えっ、何?何だよ?

 これ俺が悪いっての!?

 名前を付けたら魔力爆上がりとか、そんなん俺も知らんかったんやぞ!?


「う~む、これは由々しきことですな、次代の女王殿。我が配下のレインが大変失礼いたしました。こ奴はまだ若く、レディを(おもんばか)る気持ちにやや欠けていましてね。しかしご安心ください。このルーファスが責任をもって、素敵な名を貴女に贈らせましょうぞ。さぁ、レイン、女王にふさわしい名前を付けて差し上げなさい」


 おいぃ!?簡単に言うな、お前!?

 いや王様だけど、ここはあえてお前と言わせてもらうからな!?

 これは、シルヴィアの時もそうだったけど、名前なんて付けたらもう完全に結婚云々から後戻りできないパターンじゃないか!!

 ほらほらほら、次代の女王様ったら、指の間からめちゃめちゃこっち見てらっしゃるし!!


 …などと焦る俺をよそに、女性陣たちは何故か冷たい視線を俺に浴びせかけるとともに、王様やセドリック宰相は、早よせいや!とばかりに、目配せをしてくる始末。

 困った俺を見ながらニヤニヤと笑っているエドガーとクリントンは後できっちり始末をつけるとしても、これは最早引き返せる状況じゃない…。


(くっ、くっそー…、わかったよ、わかりましたよ!時間も無いし、たくさんの王都民の命には変えられん。…やってやろうじゃないさ!!)


「わ、わかりました…。これまで次代の女王のお気持ちも考えず、大変申し訳ありませんでした。それではこの不肖レインフォード・プラウドロード、謹んでお名前を贈らせていただきます…!」


 痛いほどの注目を浴びながら、俺はゴホン!と咳払いをしつつ、短い時間ではあったものの、足りない脳みそを精一巡らせ、(多分)素敵な名前を考えた。


「よし!まず、これが第一候補なんですが、ギー子さん、などいかがでしょう!ほら、アリの皆さんって蟻酸とかをビシャアッ!と放出されるじゃないですか?これはかなりアリの皆様の特徴を捉えており、なかなかに的を射た名前かと…って、あれ?」


「「「……」」」


 な、なんでみんなシーンとしてるの!?

 次代の女王様なんて、顔を覆ったままピクリともせず、聞こえない振り!?

 こ、これはもしかして、ほんの少しだけチョイスをミスったか…?


「え、えへ…!さっきのはもちろん、練習ですよ、練習!あははは…!え、え~っと…、ほら、アリさんって、獲物を仕留めた後、それを団子にしたりしちゃいますよね?だから、えっと、アリ団子(だんこ)ちゃん、なんてどうかな…?」


「「「「「……」」」」」


 イ、イタ!イタタタタタタ!!

 みんなの視線が痛すぎる!!

 こ、これもだめなのか…?次代の女王も、まるっきり反応せんし…。


「…と、というのは、ちょっとした冗談でぇ…。え、えっと、え~っと…、ア=リン子ちゃんなんてどうでしょう?何ていうかほら、すごく可愛らしい感じ…」


「ヒソヒソ…(ま、前からちょっとおかしいとは思ってたけど、あいつ本当にセンスないわね…)」


「ヒソヒソ…(はい…。魔力の強さと、人として必要な感覚とは、必ずしも比例しないといういい例ですね…)」


「ヒソヒソ…(私やお父さん、レインさんのことを少し過大評価しすぎていたのかしら…)」


 おい、そこ!ちゃんと聞こえてるからな、モニカとレベッカ!ココまで勘弁してよ(涙)

 し、しかしまずいぞ、もう後がない、そして時間もない…、あるのは俺への冷たい視線のみ…。

 う~ん、名前を考えてる間に王都が無くなっちゃいました!じゃ、話にならないぜ…。


(う〜ん、アーントの猪木とか、アリアリアリアリアリーヴェデルチ!…とかっつっても、だめな気がするなぁ…。アリ、アリ、アリ……)


 その時、俺の頭の中でふと、1つの呼び名が思い浮かんだ。

 至極単純かもしれないが、とても愛着が湧きそうな名前だ。

 この時の俺をもしも某名探偵コ○ンで例えるなら、ビシュン!って、頭の横に白い線が入るやつだぜ!

 これは有りだろ!?(アリだけに…)


「……ア、アリス……。君の名前、アリス何て、どうかな…?」


 俺が小さくそうつぶやいた瞬間だった。

 次代のアリの女王は、物凄い勢いで俺に駆け寄って俺の手を強く握ると、くっついちゃうけど!?というくらい顔を近づけ、真剣な眼差しで俺を見つめる。


「レ、レインフォード様…。お願いです、どうか今一度、今一度先ほどの名で、私のことを呼んでくださいませんか…?」


「えっと…、アリス。君のはアリスだ。これからもずっと、よろしく頼むよ、アリス!!」


 その刹那———。


 ブワアァァァァアアアアアアア!!!


「うおぉ!!?」


「ぐぅあ!?」


「「きゃああーー!?」」


 アリスと俺とを中心にして、筆舌に尽くし難いほどの巨大かつ膨大な魔力の奔流が、謁見の間を駆け抜ける。

 そこにいた者たちは、皆それぞれ吹き飛ばされないようにするのが精一杯とばかりに、肉体を無属性魔力で強化して衝撃に耐えていた。


『———応えます、レインフォード様。我が名はアリス。想い人より真名を贈られた私は、これより地下に住まう一族の女王となり、愛すべき同胞や未来の我が子たちを統べ、余すところなく幸福を与えましょう』


 アリスは、見た目こそ先ほどとは変わらないが、まさに超覚醒とでも言わんばかりに、内在する魔力が爆発的に増大し続けている。


(こ、こりゃあ全力のシルヴィアに勝るとも劣らんぞ…?まさかこれほどとは…!も、もしかして今の女王アリさんも、ずっと昔はこれくらい強かったのか…?)


 アリスは謁見の間の混乱などどこ吹く風、俺の手をしっかりと取ったまま、何かの儀式のようなその口上を続ける。


『そしてこの真名にかけ、レインフォード様と我が一族とに、決して朽ちることのない永遠の愛とどこまでも続く大地のような繁栄を誓いましょう』


「…アリス…?」


 だがその時、呆気にとられていた俺はふと気付いてしまった。

 アリスがその目にうっすらと涙を浮かべていたことに。

 そして本当に嬉しそうな、まさに弾けるような笑みで、俺にだけ聞こえるようにそっと『大好きです、レイン様…』とつぶやいたのだ。

 そんなアリスに、俺はついドキッとして、顔を赤らめてしまう。


 温かい眼差しで、じっと俺を見つめていたアリスは、名残惜しそうに俺の手を離すと、ゆっくりと、だが誰もが目を奪われてしまうような優雅な所作で謁見の間の中心に移動した。

 そして———。


『聞こえていますね、この王都地下へと集まっている我が同胞たち。私たちはこれより、王都の民たちを魔獣の進攻から護るため、これより地下に大空洞を構築します。新たな女王となった私の魔力と、それに伴って強化された皆の働きをもってすれば、ものの1日で完成するでしょう』


「「「お、おぉ…!」」」


 謁見の間から歓声が上がった。

 それはそうだろう、さっきまでは作業に5日くらいもかかるって言ってた話が、たった1日でできるというのだから。


『それではレインフォード様、アリスは大切な用務がございますので、お先に失礼いたします。近いうちの再会、心待ちにしていますわ』


 アリスはにっこり笑ってペコリと一礼すると、謁見の間の中心部から、音もなく地面に潜って姿を消した。

 変な表現になるのだが、これまでのように地面を掘るというよりも、地面の方が自らアリスを避けたといっても過言ではないほど、ごく自然に地下へと降りていったのだ。


『…あぁ、すみません。大切なことを言い忘れておりました、レインフォード様』


「ぴゃあああっ!?」


 俺は突然自分の脚の下から顔を出したアリスに驚き、素っ頓狂な声で叫びながら、ひっくり返ってしまった。


『…無論、これから建造する地下空洞には、私たちのスイートルームも用意しておきますので、ご心配、な・さ・ら・ず・に』


 アリスは唇に人差し指を添えながら、一言だけそう言って悪戯っぽく笑うと、再び姿を消した。

 目の前の出来事に理解が追い付かず、静寂に包まれる謁見の間。


「…あ、ああいうカミさんも、俺はアリだと思うぞ…?」


 王様…。

 責任、とってよね…?

 いつも応援ありがとうございます!

 よろしければ、下部の

   ☆☆☆☆☆

の所に評価をいただけませんでしょうか。

 ☆が1つでも多く★になれば、作者は嬉しくて、明日も頑張ることができます。

 今後ともよろしくお願いいたします! 

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