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第132話 這い寄る脅威

新しい剣を手に入れるべく、ガラテア工房を訪ねるエドガー、クリントン、ココの3人。

だが再び、ガラテア工房に忍び寄る脅威が…。

第132話、よろしくお願いいたします!

 ———モニカたちと悪魔エキドナとの交戦から、少々時間は遡る。


「お?ここじゃないか?ココ、クリントン」


 一番前を歩いていたエドガーは、嬉しそうに後ろを振り返った。


「ほほぉ、ここが!さすがは王都随一と言われるガラテア工房ですね。私も工房そのものに来たことはありませんでしたが、外から見ても活気が伝わってくるようです」


「うふふ、私の使ってる包丁もガラテア製品なんですよ!昔お父さんが冒険者をしていた時も、ずっとここで造られたものを使ってたんですって!」


 レインたちとともに王都にやってきたエドガー、クリントンそしてココの3人は、王都中心部から程近い工業区域に位置するガラテア工房の前に立っていた。


 本来工房そのもので製品の販売などは行なっていないのだが、先だってのヴィンセントとの訓練で愛用のレイピアを失ったエドガーは、工房主と親しい間柄のレインの口添えにより、特別にオーダーメイドの剣を打ってもらえることになったのだ。


 平素なら、いかにランクの高い冒険者といえども、オーダーメイドで武具を打ってもらうとすれば、半年から1年の順番待ちということはザラなのだが、それらを飛び越えて、真っ先に剣を打ってもらえるという事実からも、いかにレインとガラテアが親しい間柄なのかがわかるというもの。


「よし、じゃあ行くか!…けど何か悪いなぁ、俺の剣のためにクリントンはともかく、ココちゃんまで付き合わせちまって」


「いえいえ、エドガー様。私は工房を見学をさせていただけるだけでも大変勉強になります。いずれ自らの領地に帰った際、鍛冶産業の参考にもなりますので」


「私も大丈夫です。でもちょっとだけ今使ってる包丁を研いでもらえたら…何て下心もありますし、エヘ」


 エドガーに恭しく頭を下げるクリントンと、持っていた鞄をぽんぽんと軽く叩くココに、エドガーは頷きながらにこりと笑った。


「あれ?声が聞こえたから来てみたんですか、もしかしてあなたたちは、レイン様のお友達の方々ですかニャア?」


 ふと工房の中から1人の女性が出てきたかと思うと、女性はにこにこしながらエドガーたちに話しかけてきた。

 そう、それはガラテア工房で働く猫の獣人シャーレイだった。


「あぁ、ええっと…、もしかしてシャーレイさんですか?」


 エドガーが少々緊張気味にそう質問する。


「そうですニャ。そういうあなたたちは、レイン様のお手紙に書かれていた、ご学友のエドガー様、クリントン様、それとココちゃんですかニャ?お待ちしておりましたニャ」


「初めまして、俺はエドガー・キングスソードと申します。こちらはクリントン・アルバトロスと、お世話になっている食堂の看板娘、ココです。以後お見知りおきを」


 恭しく頭を下げるエドガーに、クリントンやココも続けて頭を下げた。


「看板娘だなんて、うふふ…!」と嬉しそうに笑うココはご愛嬌。


「さすがはレイン様のご学友ですニャ。特にお二方は貴族の方々であるにも関わらず、大変ご丁寧にありがとうございますニャ。さぁ、中へどうぞ、親方もレイン様のお友達ということで、楽しみに待っておりましたニャ」


「お忙しいところ、ありがとうございます!じゃあ行こうぜ、クリントン、ココちゃん!」


 3人はシャーレイとともに、笑顔でガラテア工房の中へと入っていった。

 新しい剣を打ってもらうエドガーだけでなく、有名な工房の中を見学できるということで、皆遠足気分だったことだろう。


 …だがそんな4人の姿を、遠く通りの向こう側から1人の男が見つめていた。

 いや、正確にはエドガーたちではなく、()()()()()()()()()()を見ていたという表現が適切であろうか。

 その男からすればただ、これから自らが赴こうとしている場所に、たまたま運の悪い3名の少年少女が居合わせたに過ぎないのだ。


『ふむ…、あの少年たちは間の悪いことだ。しかしそれもまた運命というものなのだろう。では行くとするか、気は進まんが…』


 男は小さくそうつぶやくと、ゆっくりとガラテア工房へと向かって歩き始めた。


 ※※※


「うおぉ!?すっげぇ!!」


「むむむ、外から見てもすごかったが、やはり中の様子は別格。職人の方々のエネルギーが直に伝わってきます…!」


 エドガーとクリントンは、工房内に響き渡る金属を打つ音や力強く槌を振り下ろす多くの職人たちの姿にあらためて驚嘆した。


「あれ…?でもこんなにたくさんの人がいたり大きな炉があったりするのに、そこまで暑くないですね?…もしかしてこれは…」


「はっはっはっ。さすがは魔法学校で料理人をされているお嬢さんだ。いいところに気が付きましたね?」


 外とは違った工房内の空調に気が付いたココに、長身で落ち着いた佇まいのドワーフが笑いかけた。

 そう、現れたのは工房主のガラテアその人だ。


「あっ、あちらがこの工房の親方、ガラテアですニャ。親方、レイン様のお手紙に書かれていたご学友方をお連れしましたニャ」


「ふふふ、皆様ようこそおいでくださいました。私はこの工房で鍛冶屋を営んでおります、ガラテアと申します。以後お見知りおきを」


 シャーレイが双方の紹介を行うと、ガラテアはにこにこしながら丁寧に頭を下げた。

 もちろん、エドガーたちも例に倣って自己紹介を行い、それぞれガラテアと握手を交わす。


「初めまして。エドガー・キングスソードと申します。本日はお忙しい中、突然の無理なお願いを聞いていただき、本当にありがとうございます」


「どっ、どうも初めまして!私はクリントン・アルバトロスと申します」


「ココです!よろしくお願いします!」


 訪れた若者たちのはつらつとした姿に、ガラテアは思わず相好を崩した。


「はっはっはっ、これはこれはご丁寧に。あなた方のような爽やかな若者たちが来てくれると、私もまた元気を貰えるというものですな」


「いえ、俺の方こそ、かの有名なガラテア工房で武具を拵えていただけるというのは光栄の至り。…ところでガラテア殿、先ほどこちらのココが言っていた、工房内が暑くないというのは…?」


 訪れた3人の姿を見てにこにこしていたガラテアに、エドガーが質問する。


「ふむ、実はこの工房内、かつてはもっともっと暑かったのですよ。当然ですな、むさ苦しい男たちが、大きな炉の前で朝から晩まで鉄を打っているのですから」


「むさ苦しくない女の子もいますけどニャア」


 ガラテアの言葉に、耳をぴょこぴょこ動かしながら、猫獣人のシャーレイが合いの手を入れる。


「確かに…。鍛冶の工房ってのはもっと暑くて、常に汗が舞い散ってる場所だというイメージが…」


「そのとおりです。しかし3年ほど前でしたかな、ふと立ち寄られたレイン様が、『ちょっと暑すぎるから、クーラーを設置したい』と、申されましてな」


「「くうらあ?」」


 エドガーとクリントンが声を揃え、頭の上に?マークを浮かべた。


「やっぱり!私知ってます、レイン様がうちの厨房にも付けてくれました!仕組みはわからないけど、四角い箱の中から、冷たい風が出てくるやつですよね!?」


「はっはっはっ、その通りですな。レイン様から熱気と冷気の性質を利用して…等と色々な説明を受けましたが、正直私もまだよくわかっておりません。ただ結果的に工房内は劇的に過ごしやすくなりました」


 ガラテアが、工房内に複数設置された冷気を放出し続ける長方形の箱を指し、誇らしげにそう言った。

 だがクリントンは、何か思うところがあるらしい。


「むむむ…、そうか!そういえばレインフォードの部屋だけ、いやに快適な気がしていたが、まさかそのような魔道具が存在していたとは…!!け、けしからんな!無理にでも私の部屋にも設置させねば!」


「ははっ!クリントン、お前無理にそんなこと言ったら多分『あっ、ごめん!冷気の分量を間違えちゃった』とか言われて、氷漬けにされるぞ?」


「ひっ…!?はっ、はっくしょん!!そ、想像するだけで寒いです…」


 エドガーの秀逸なモノマネとクリントンの情けない表情に、工房内に笑い声が響く。

 それはとてもほのぼのとした光景で、本当にどこにでもありそうな、昼下がりの一幕だ。

 …だが、その時だった。


『…頼もう…』


 くぐもった声が出入口の方から聞こえて来た。

 広い工房の中においては、出入口から割と距離が離れているにも関わらず、なぜかその声は不気味に工房内に響く。


 ゾワゾワ…!


「「…!!」」


 その瞬間、大きく目を見開いたエドガーとクリントンは、まるで背中にキンキンに冷えきった冷たい剣を差し込まれたような、そんな戦慄をおぼえた。


 咄嗟に声のする方を見た二人は、思わずゴクリと唾を飲み込む。

 そこには、頭からつま先まで、文字通り漆黒の騎士の鎧に身を包み、腰には巨大な剣と思しき武器を提げた何者かがじっと立っていたからだ。

 さらにその人物は、誰憚ることなく強烈な殺気を撒き散らしており、レインとの訓練で鍛えられた耐性がなければ、二人ともその場で卒倒していたかもしれない。


 ガシャ…、ガシャ…、ガシャ…。


 ふいの怪しげな訪問者に、一転して水を打ったように静かになった工房内には、漆黒の騎士の足音だけが響く。


『…ほう、我が殺気はある程度の実力がなければ感じることすらできぬもの。よもやそれに気付いたのが、飛び入り参加の少年たちだとはな…』


 まるで品定めをするような言葉を発した漆黒の騎士だが、顔まですっぽりと覆われた兜のせいで、表情はおろかその視線すら確認することができない。

 ただその声の低さから、男性であろうことは推認できる。


「あの〜、どちら様でしょうかニャア…?失礼ですが、どこかお店をお間違えではニャイですかニャ?」


 いつもの調子で来客対応を始めるシャーレイに、漆黒の騎士は答える。


『…これは失礼をした、獣人の女性よ。我が名はマルコシアス。グレゴリウス帝国皇帝陛下直属となる13の悪魔騎士が1柱だ。…もっとも、5年ほど前に1柱欠け、今では12の悪魔騎士となってしまったがな』


 ———()()

 

 その言葉にその場にいた全員が凍りついた。

 公になっていないとはいえ、5年前のピケット侯爵事件に端を発する悪魔との戦いに関しては、ガラテア工房の面々には、関係者として全ての経緯が知らされていたからだ。

 漆黒の騎士は続ける。


『加えて言うと、我は店を間違えたわけではない。ここはガラテア工房で相違なかろう?そして我が主の命により、ここを訪れた目的は唯1つ…』


 その時、兜の奥深くに隠された目が妖しく、そして紅く輝いた。


『…個人的な怨恨はないが、ガラテア工房の皆には、この王都を滅ぼすための生贄奴隷になってもらおう』


 その瞬間、マルコシアスと名乗った悪魔の言葉に呼応するかのように、炉の中で荒れ狂う真っ赤な炎が、一層激しく燃え上がったのだった。


 いつも応援ありがとうございます!

 よろしければ、下部の

  ☆☆☆☆☆

の所に評価をいただけませんでしょうか。

 ☆が1つでも多く★になれば、作者は嬉しくて、明日も頑張ることができます。

 今後ともよろしくお願いいたします!

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