第130話 自業自得の輝き
悪魔との戦いは続く。
モニカ、レベッカそしてシロの命運やいかに。
第130話、よろしくお願いいたします。
「続けていきます!ストーン・シャワー!!」
…ズドン、ズドン!
ズドドドドドドドドン…!
空に向けて掲げた両手をレベッカが勢いよく振り下ろした瞬間、無数の岩の礫が悪魔へと降り注いだ。
指先程度の小さいものからバスケットボールぐらいの大きさまで、大小様々なサイズの多量の岩石が、凄まじい勢いで落下する。
『ぐっ…!?がっ…、ああああああ…!?』
咄嗟に左腕を上げ、悪魔は天から降り注ぐ岩をなんとかガードするが、怒涛の勢いで襲い来る無数の粗面体は、確実に悪魔の肉体を削りとっていく。
さらに今度はレベッカに続き、モニカが風の魔力を解放した。
「はぁあああ…!もう一本の手も飛ばしてあげる!くらいなさい!ウィンド・カッター!!」
ヒュン!ヒュヒュヒュヒュン!!
『…ぬぐっ…!?』
モニカが風の魔法を行使したその瞬間、高速回転する研ぎ澄まされた複数の円形の刃が悪魔に襲いかかった。
それは先刻、悪魔の右手を難なく斬り裂いた魔法で、目にも止まらぬ速さで残された悪魔の左手へと迫っていく。
だが。
『…くそがっ…!舐めんじゃねぇーっ!!』
ガキィーン!!
「あっ!?」
金属と金属がぶつかり合うような甲高い音とともに、モニカの放ったウィンド・カッターは粉々に霧散した。
悪魔は鬼気迫る形相で左腕を瞬時に超強化し、モニカの魔法を弾き飛ばしたのだ。
『はっ!あたしが油断さえしてなけりゃ、ゴミ虫の魔法なんてこんなもんなんだよぉ!』
「…くっ…!」
『きゃは!力の差は理解できたぁ!?じゃあ今度はこっちの番な!!』
悪魔は嬉々としてそう叫ぶと、勢いよく左腕を振り上げた。
そしてそこに膨大な魔力を集中させると、瞬く間に巨大な火の玉が形成されていく。
「「!!」」
モニカとレベッカは咄嗟に後方に跳び、無属性魔力でそれぞれの肉体を強化すると、火の玉の投擲に備えた。
『きゃ〜っはっはっはっ!そんな貧弱な魔力で防げるとでも思ってんのかぁ!?焦熱の炎で、骨の一片まで消し炭に変えてやらぁー!!』
悪魔は勝ち誇ったような笑みを浮かべつつ、勢いよく腕を振り下ろした。
既に直径10メートル程度にまで膨れ上がった巨大な火の玉。
それは悪魔の思惑どおり、モニカたちを焼き尽くす…、かと思われたのだが、いつまで経っても、その炎が射出されることはなかった。
『…んなっ、何ぃっ!?火が…!?あたしの火の魔法が消えてやがる!?』
「フンス!」
大きく目を見開きながら自らの左腕を見た悪魔は、自身の腕の周りに、ぽよんぽよんの何か柔らかい感触を感じると同時に、視界の隅に白いふわふわした生き物が横切ったことに気付いた。
そう、火を消したのはシロだった。
シロは、今まさに炎を放たんとした悪魔の腕を火球ごと風の壁で包み込むと、空気の供給を遮断し、炎を消し去ってしまったのだ。
さらに。
「アッ…オ———ン!!」
ズドンッ!!
ズドン!!ズドドドドン!!
『…ぅぐああああああっっ!?』
鈍い音とともに、悪魔は勢いよく後方に吹き飛ばされ、地面を転がっていった。
巨大な火の玉をかき消したシロは続けざま、圧縮した無数の空気の弾丸を、悪魔めがけて凄まじい勢いで射出したのだ。
その威力たるや、モニカやレベッカのそれとは段違いである。
これはもちろん、かつてアバドンという悪魔との交戦時よりも、シロ自身が大きく成長していたためだ。
「す…、すごいです…」
「シロちゃんって、こんなに強かったんだ…。私の風魔法とはレベルが違う…」
シロの強さに呆気に取られるモニカとレベッカを他所に、悪魔は憎しみに満ちた目でシロを睨みつけるが、体へのダメージは深刻だった。
短時間に蓄積された大きなダメージに、肉体の再生速度がに追いつかないのだ。
『…うっ…、うごごごぉ…、おぇえええ…!!』
何とか立ち上がろうとする悪魔だったが、両脚が震えて力が入らず上手く立つことができないため、四つん這いの姿勢のままで地面に這いつくばっている。
シロはその隙に、さらにぽよんぽよんの風の壁を悪魔の全身へと広げ、火の魔法を完全に封じた。
いくら悪魔といえど、こうなってしまえば、思うように魔法を行使することができない。
『…くっ、くっそが…。ま…、まさかこの犬ッコロ、魔法を使いやがるのか…!?な、何だよ、何なんだよコイツら…。この世に喚び出されたあたしらは、最強って話じゃなかったのかよぉ?…くそっ…!くそくそくそくそくっそーっ!!この高位悪魔たるあたしが、何という屈辱……、ん?…あれは…』
駄々っ子のように、ドカドカと地面を叩きながら歯噛みしていた悪魔は、先ほどモニカに切り飛ばされたまま地面に横たわっている自分の右腕にそっと目をやると、ニヤリと口角を歪めた。
ザッ…、ザッ…。
うつむいたままの悪魔のもとへ、モニカとレベッカが歩み寄っていく。
「…さぁ、終わりにしましょう。私たちはあなたのように人様を弄ぶことで喜びを感じるような異常性はありませんし、逆にそれを許せるほどの寛容さも持ち合わせていませんので。ねえ、モニカ?」
「そうね、レベッカ。あなたの言うとおりよ。お父さんのことも心配だし、こいつがペラペラと話してくれたスタンピードについても、ちゃんと然るべきところに連絡しないといけないしね」
そうつぶやいたレベッカとモニカとが、とどめの魔法を行使すべく、まるで合わせ鏡のような左右対称のカタチでそれぞれ左手と右手を悪魔に向けてかざしたその時———。
『…ぷっ!!…くくくっ…、きゃーっはっはっはっはっ!』
「「「…!?」」」
突如目の前の悪魔が、大声で笑い始めたのだ。
「ど…、どうしたのかしら…?強く頭を打ちつけたとか…?」
「あぁ…、私ったら怒って大きな岩を降らせ過ぎたかしら…」
「クゥ〜ン…」
モニカとレベッカとシロは、何事かと顔を見合わせながら、お互いにヒソヒソと耳うちをし合う。
『…ひっひっひっ…。勘違いしてんじゃねえよ、ゴミ虫ども。…けど正直言って、このあたしがここまでやられるとは思ってなかったぜ?そこの犬っころのせいで火の魔法はろくに発動しねぇし、ダメージを受けすぎて肉体の復元もおぼつかねぇしな…』
「…?」
路上で座り込んだままブツブツとつぶやく悪魔に対し、レベッカが首を傾げる。
『きゃは!まだ理解できねえかな、足りないゴミ虫の脳みそじゃよぉ。だ〜か〜ら〜、内側から治せないんじゃ、外から補充すりゃいいって話だろうがよ!!』
その瞬間、悪魔は自身の意識を、先刻切り飛ばされて地面に置き去りにされたままの自らの右腕に集中させた。
『戻ってこい!あたしの腕!!』
「「「…!?」」」
ドギュン!
ベシャアッ!!
するとどうだ。
地面に横たわっていた悪魔の右腕がふいに宙に浮いたかと思いきや、次の瞬間にはモニカとレベッカの間を高速度で通り抜け、悪魔の肩口へとへばりついたではないか。
そう、悪魔はこれを狙っていたのだ。
シロの結界で空気を遮断された状態では、うまく火の魔法は発動しない。
だがたとえ一瞬だけでも、シロの影響下にない自分の腕を使うことができれば、目の前のうるさい虫どもをまとめて灰にするのは容易い、と。
『きゃははははっ!あたしが魔法を使えないと油断したな、ゴミ虫ども!!この一瞬の間さえあれば、あんたたちを焼き払う魔法ぐらい構築できるっつーのぉ!』
ギュオオオオォォォォォオオオオ!!
その言葉どおり、悪魔が取り戻した右腕を空へと向かって振り上げるや、上空に再び巨大な火の玉が顕現した。
今度は油断も慢心もないのだろう、先ほど左腕で創り出した火球とは違い、たとえそれが上空にあろうとも、あまりに巨大であることがわかるほどだ。
ナメ○ク星での、悟○の超元気玉くらいの大きさ…という表現がわかりやすいが、問題があるのでやめておくとしよう。
だが、モニカとレベッカそしてシロは、そちらの方に目を向けることもなく、ただじっと悪魔を見つめていた。
なぜか大きく「はぁ…」とため息をつきながら。
『…?きゃはははははっ!!諦めの境地ってやつか!?バカが!許すわけあるか!!ゴミ虫の分際で、あたしの体を傷つけた罰だ!ここら一帯を火炎地獄に変えてやるよ!!』
その時、ふと小さくレベッカが口を開いた
「…いえ、諦めるも何も、そろそろシロちゃんの風の壁や私の土壁なんかで精一杯ガードしないとまずいな、と思っただけです…」
『きゃはっ!ばーか!あたしの広域火炎魔法をゴミ虫どものちんけな魔法で防げると思ってんのか!?たとえ防げたとしても、そん時にはもうここら一帯は焦土と化してるぜぇ!!』
悪魔は長い舌をベロリと出しながら、モニカとレベッカを交互に見つつ、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた。
どうやら自分が有利とみるや、傘にかかって相手を攻めたてる、真正ドSな性格らしい。
「…いえ、ガードするのはあなたの魔法に対してではなく、まもなくあなたの右手から放出されるであろう魔法の衝撃から身を守るためなんですよ、悪魔さん?」
『はぁぁ…?何言ってんだお前。ちっ、つまんねぇ…、灰になる恐怖で頭が狂っちまったのかぁ…?せっかく絶望に染める顔を酒の肴にしようと思ったのによぉ…』
レベッカの言葉を聞いた悪魔は、さも不機嫌そうに彼女を睨みつける。
それは最早、壊れた玩具に興味はない…と言わんばかりの表情だ。
だがレベッカも負けず劣らず、さも面倒くさそうにため息をついた。
「はぁ…。あなたが大層凛々しく掲げた右腕、よく確認されましたか?」
『はっ!苦し紛れに何言って……って、あん…?何だこれ…?何か石みてぇなのがあたしの腕についてやがる…?』
レベッカを嘲笑いながらも、ちらりと自身の右手に目を向けた悪魔は、その手の平に何かの違和感を感じ目を凝らす。
するとそれが腕にしっかりと括り付けられた魔石であることを理解するのに、そう長い時間はかからなかった。
そこへモニカがタイミングを見計らったかのように、合いの手を入れる。
「あのね、それは魔石よ、魔石。あんたたちみたいなのには、縁遠い代物でしょうけど。さっきあんたの腕を切り飛ばした後、こういうこともあろうかと思って、ちょっと細工してたってわけ。これでもお裁縫は得意なのよ?なんたって実家が紡績業だからね」
『魔石…だってぇ?きゃはははははははははははっ!もったいつけるから何かと思えば、笑わせてくれるじゃん!こんな小さな石ころが何だっつーのよ!ひぃ〜、笑いすぎて腹いてぇ』
「うふふ。たしかに、普通の魔石ならね。でもそれはちょっと、…いえ、かなり特殊でね?気を付けて使わないと自分自身が危ないのよ」
…キィー…ン…。
その時悪魔の方から、いや、正確にいえば、悪魔の右腕に括り付けられた魔石から甲高い音が響きはじめる。
悪魔自身が巨大な炎の玉を顕現させた影響で、その右腕にしっかりと固定された魔石にも、膨大な魔力が流れ込んでいたのだ。
そう、レベッカが持っていたその魔石とは、かつてレインがワッツとともに列車の走行実験を行なっていた際に作成した、件の失敗作。
ただ今回、悪魔にとって運が悪かったのは、それがあまりにも強烈な失敗作だったことだろう。
『な…、何だ…?このちんけな石コロから異様な魔力反応が…?…ひっ!?ひえぇっ…!?な、なな、何だこの超巨大な魔力は…!?こ…、こんな魔力ありえねぇだろ…!?』
「あ、やっぱあんたもそう思う?あはは、そこだけは気が合うわね?じゃあ、そういうことで。そろそろ避難しないと危ないし」
モニカは悪魔に向かってにこにこしながら手を振った。
同時にシロやレベッカも手を振っている。
『ちょっ…!?まっ…!!たっ…、助け……』
悪魔が悲壮な顔で何か叫んだ次の瞬間———。
ドッゴオォォォォォ———ンッッ!!
凄まじい爆炎と周囲の建物を揺らすほどの衝撃波、そして耳をつんざくような轟音が王都に鳴り響き、悪魔は光の彼方へと姿を消したのだった…。
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