第128話 悪魔が来たりて王都が消える!?
姿を現した悪魔にモニカたちはどうたち向かうのか。
そして発せられた衝撃の言葉。
王都が…消える?
第128話、よろしくお願いいたします!
『はぁ…、はぁ…。ふぅ~』
不気味な痙攣を繰り返していた女性だったモノは、やがてその動きを止めると、やや気怠そうにゆっくりと立ち上がった。
異形と呼ぶにふさわしい風体で、その貌に凶悪と形容するに相応しい笑みを浮かべながら。
「…きょ、今日は私たち、色々とついてないみたいね?…モニカ…」
「そうですね、レベッカ…。私たちが共有してきた時間の中でも、今日はトップクラスに芳しくない日だと思います…」
「グルルルルゥゥ…」
対象の一挙手一投足も見逃すまいと必死に警戒するモニカたちだったが、そんな彼女たちとは対照的に、目の前の異形は長く真っ赤な髪をかきあげながら、何やら底抜けに明るく笑い始める。
もちろん、妙にイライラする甲高い声は健在だ。
『きゃっはっはっはっ!待たせたなぁ。いや~、あたしも悪魔に戻んのは久々でよぉ。多少時間がかかっちまって悪かったなぁ。それよりどうよ?その間、最期の時間は楽しめたかぁ?んん?』
目の前の悪魔は、耳元付近まで大きく裂けた口を歪めながら、口腔内に不揃いに生えた鋭い牙を剥き出しにして笑った。
しかし、軽い口調とは裏腹に、白目と黒目が反転したような漆黒の瞳からは、常時、凶悪な殺気を伴った威圧が放たれており、それは常人ならば目を合わせたたけでよくて卒倒、下手をすれば命を落としかねないような恐ろしいものだった。
「…どうでしょうか。最期を楽しむにしては、ちょっと短すぎる気がしないでもありませんね。できればもう少しお時間を頂きたいものですが」
だがそれに相対するレベッカもさるもの。
目の前の悪魔に気圧されまいと、フンッと気丈に鼻を鳴らしてみせる。
シロはさておき、戦闘経験の浅いモニカやレベッカが恐ろしい威圧に屈しないのも、ある意味悪魔との訓練の賜物であろう。
『ひっひっひっ、どうやら最低限の力は持ってるようだなぁ、そうかそうか…。けど生憎、こっちも時間が押しててなぁ。だってほら、さっき約束したろ?お前らの手足を全部引きちぎって、そこから丁寧に内臓を抉り出すってよぉ。そこのやたらでけぇ犬…?の分も入れると、9、10、11…、そら、12本もあんじゃん?あとハラワタってけっこう長ぇやつもあるしなぁ?そう考えると、あんま時間ねぇだろ?』
悪魔はいやに長い右手の人差し指を立て、舐め回すようにモニカたちの手足の数を順番に数えると、その大きな手で目の辺りを覆いながら、さらに口角を歪めた。
だが鋭利な爪の生えた指の間から覗く目は、絶え間なくレベッカを捉えている。
『きゃはっ!レベッカ…つったか?特にお前は、念入りにくびり殺してやるからよぉ…。この高位悪魔たるあたしを、ドブ臭ぇ人族扱いしたんだ、それだけで万死に値するぜぇ?』
「…成程。けれど、時間が惜しいのはこちらも同じ。あなたにはお伺いしたいことが山ほどありますので…」
『おいおいお〜い、勘違いすんなよな。お前の都合なんて聞いちゃねぇんだ。ゴミ虫はゴミ虫らしく、大人しく地面を這いずり回って、あたしらに踏みつけにされるのをバカみてぇに待ってりゃいいんだよぉ』
悪魔は、さも馬鹿にした様子で両手を広げて肩をすくめながら、首を左右に振った。
そのようなレベッカと悪魔とのやり取りを、厳しい顔でじっと見つめていたモニカが口を開く。
「ふん!さっきから黙って聞いてればあんた、私たちのことをゴミ虫、ゴミ虫って!レベッカの言ったとおり、こっちにはこっちの事情があるんだからね!戦うんでしょ!?時間がないってんなら、さっさと始めるわよ!」
モニカはそう叫ぶと、悪魔に風の攻撃魔法を撃ち込むべく、身体の中で魔力を練り込み始める。
だが次の瞬間、モニカは自分の目を疑った。
「えっ…?…消え…」
『誰が勝手にしゃべっていいっつったよ、ゴミ虫』
「……!!?」
ゴォォォオオオ!!
悪魔は一瞬のうちにモニカの後方に回り込んだと思いきや、間髪入れず、その左手から燃え盛る巨大な火炎の玉を放出したのだ。
ドッカーーン!!
炎に包まれたモニカは、爆炎とともに、凄まじい勢いで通り沿いに建てられた家屋に衝突した。
さらにその衝突箇所から瞬く間に炎が燃え広がり、次から次に隣接の建物へと類焼してゆく。
…まるで巻き起こる炎が意思を持っているかのように。
「モッ、モニカーッ!?」
「ワンワン!ワンワン!!」
『あっちゃ〜…。ゆっくりじっくり引き裂くなんつってたけどよぉ、ついムカついて、そんな暇もなく殺しちまったかぁ…。きゃっはっはっはっ、まあいいや!時間の節約にはなったし、結果オーライってやつだよな!!』
悪魔は頭の後ろで手を組みながら、カラカラと笑った。
おそらくこの悪魔にとっては、他人の命を奪うことも、小さな子供のように誤って玩具を壊してしまうことも同義なのだろう。
「くっ…!」
レベッカは歯を食いしばりながら、目の前の悪魔を睨みつけた。
『きゃはっ!いいねいいねぇ…。そういう顔を待ってたんだよ。人族どもが唯一あたしを楽しませてくれる一発芸、それがその顔なんだよなぁ…。あぁ、恐怖と絶望に満ちた表情で命乞いをするお前を、大切に大切にくびり殺す…。まさに至福の時間だわぁ…』
狂気に満ち満ちた目をとろんとさせながら、頬を紅潮させつつ、悪魔は恍惚の表情を浮かべた。
また、時折ビクン!ビクン!と体を震わせるその仕草からは、ある種の性的な快楽を貪っている様子も見てとれる。
「く、狂ってます…」
『きゃは!それはあたしにとっちゃぁ、最上級の褒め言葉だな。あ~あ、しっかしまあ、お前らみたいな大事な玩具が、この街と一緒に消えて無くなっちまうかと思うと、残念でならねぇわ…。何匹か捕まえて、籠にでも入れて持って帰りてぇくらいだぜ』
「…王都が、消えてなくなる…?あなた一体何を…」
「グルルルゥゥ…?」
『ん~?きゃっはっはっはっはっ!こりゃあ口が滑っちまったかなぁ!ま、ゴミ虫どもが今更この事実を知ったところで、どうにもなんないだろうけどな!!』
レベッカはシロと顔を見合わせて小さくうなずくと、再び目の前の悪魔へと目を向けた。
「…この王都がなくなるという荒唐無稽な話が事実なら、我々も無事というわけにはいかないのでしょう?とりわけあなたは私に首ったけのようですし。…ですので、ぜひ聞かせてほしいです、あなたの行動の目的や、王都が消えてなくなるという話。自分たちの身に降りかかったことの真相ぐらいは知っておきたいですから…」
『きゃは!自分がゴミ虫だってこと認めちゃうのかよ!ダッセェ!超ダッセェ!!きゃっはっはっはっはっはっ!あぁ、腹痛ぇ…。まあいいさ、あたしは悪魔の中でも慈悲深い方でね。死にゆく者の頼みだ、話してやるよ!王都消失計画をなぁ』
「…王都消失…計画…?」
『おぉ?またまたいい顔するじゃんよぉ。ひひひっ、そうさ、言葉どおり王都を消しちまうのさ。ピーピーうるせえ、ゴミ虫どもと一緒にな』
「お、王都を消す!?…バカなことを!この王都は宮廷魔法師団や王国騎士団に護られています…!いくらあなたが強い力を持った悪魔であっても、おいそれとここを滅ぼすなどということは…!」
『きゃはっ!見当違いも甚だしいなぁ。あたしにかかれば街の1つや2つ…いや、この国そのものを焼き払うことだって、やろうと思えばできるぜぇ?多少時間はかかるけどなぁ』
「…!」
悪魔はニヤニヤと笑いながら親指を立てると、燃えていく街並みを指した。
古い建物が多かったが、モニカやレベッカが子供の頃から慣れ親しんだ場所が、猛烈な勢いの炎に侵略され、黒煙を上げて焼失しいく。
『しかしまあ、そこはお前の言うとおり、いちいちゴミ虫どもを一匹一匹捻り潰してくっつうのは、なかなか骨の折れる作業だよなぁ?次から次に湧いてくる騎士や魔法使いどもを炙り殺すのも、そのうち飽きてくるだろうしよぉ…。その辺の機微わかる?殺すことがただの作業になっちまうと、それは全然楽しくないじゃん?』
「……」
レベッカは、浴びせかけられる底なしの悪意に、胃液が逆流してこみ上げるような吐き気に必死に堪える。
『んじゃあどうするのか、ってぇことだよなぁ…?きゃはっ!答えは決まってんじゃん』
「…?」
『魔獣どもに襲わせんだよ。それも、1匹や2匹じゃねぇ、ここらの大地を埋め尽くすほどの、夥しい数の魔獣どもだ…』
「まっ…!まさか…!!」
『きゃははは!ご名答!魔獣大暴走を引き起こすのさぁ!!』
周囲の建物を焼きながら紅く燃え上がる炎は、狂気に満ちた悪魔の叫び声はに呼応するように、より一層高く火柱を上げていた。
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