第124話 ご両親はどんな人?
モニカとレベッカの実家へ向かうレインたち。
道中に彼女たちの両親の話をしつつ…?
第124話、よろしくお願いいたします!
「おぉ~!何だか久しぶりに王都に来た気がするけど、ここは相変わらずの賑わいですね~!」
久しぶりに訪れた王都の変わらぬ喧騒を感じながら、俺はそんな風に感嘆の吐息を洩らした。
ここは王都のど真ん中を縦断する大通りで、初代国王ランドルフの子供時代の愛称にちなみ『ランディストリート』と呼ばれている場所だ。
正方形の石畳によって整然と舗装された大通りには、人族だけでなくドワーフや獣人など様々な種族が行き交うとともに、その通りの両側には、お洒落な飲食店や流行りの雑貨や宝飾店など、いわゆる有名ブランドの店舗が所狭しと軒を連ね、連日の大賑わいを見せている。
「そらそうや!何やいうても、王都はこの国の中心やからなぁ!こんぐらい賑わっといてもらわんと、うちらの商売あがったりっちゅうもんやで~」
頭の後ろで両手を組みながら歩いていたユリは、ニヤリと白い歯を剥き出しにして笑った。
「何だかほんの数ヶ月王都を離れていただけなのに、すごく懐かしい気がする。早くお父さんやお母さんに会いたいわ。ねぇ、レベッカ」
「そのとおりですね、モニカ。学校の静かな雰囲気も嫌いではありませんが、いつも賑やかなこの大通りを歩いていると、逆になぜかとても落ち着きます」
そんなモニカやレベッカやユリ、俺、そして頼れる相棒うちのシロの合計4名+1頭は、あちこちでウィンドウショッピングを楽しみながら、モニカたちの実家兼店舗である『ヴァレンティーノ服飾店』へと向かっていた。
ちなみに、エドガーとクリントンそして飛び入り参加のココについては、武器や調理器具などの調達のため、俺が以前から世話になっているガラテア工房に向かうとともに、ヴィンセントとイザベルについてはエチゼンヤ商会で一旦お別れした。
また予定が合いさえすれば、すぐに来てくれるとのこと。
みんなの訓練総仕上げの際は、よろしくお願いしますぜ、お二人さん。
しかし先刻の解散の折、モニカやココ、また普段は大人しいレベッカまでもが、なぜかヴィンセントの側からなかなか離れようとしなかった。
大事なことだからもう一回言おうか?
なぜかみんな、ヴィンセントの側からなかなか離れようとしなかったんだよね。
何でだろうね…?
なんか男前って時々腹立たしいね…?
イケメン爆発しろ…などと低い声でブツブツつぶやきながら、俺は大通りやそこに交わる大小の路地などを見回していた。
(…ふむ、そんなことより、いつもならこの辺に王様が趣味でやってるオーク串焼き屋台が出てそうなもんだが…?今日はやってないのかな…?)
ふと見るとシロも鼻をクンクンさせながら、ソワソワと落ち着かない様子で周辺を確認している。
おそらくは、俺と同じことを考えているのだろう。
いや、むしろ串焼きのことしか頭にないのかもしれない。
「ちょっとレイン君〜。さっきからシロちゃんと一緒に何をキョロキョロしとんねん…。田舎もんの雰囲気丸出しやで?こっちまで笑われてまうから、やめてくれへん?」
「ちぃっ…!」
ユリのごもっともな指摘に反論もできず、俺は1つ舌打ちをした。
ふ、風景が珍しくて見てたんじゃないやい!
王様の趣味を探してただけだっつーの!
ほら見てみろ!
その屋台が見当たらず、極限までしょんぼりしたシロの、あの情けない姿を…!
多分シロは、そのためだけに俺たちにくっついてきたといっても過言ではないんだからね!?
「はぁ…。ほんまこれやからおのぼりさんは…。まあ、せやけど、モニカちゃんとレベッカちゃんが、ヴァレンティーノさんとこの娘さんやとは、うち全然知らんかったなぁ。おとんから双子の娘さんがおるっちゅうのは聞いたことあったけど、まさかあんたらのことやとは思わへんかったわ」
ユリはさも興味なさそうに俺やシロから視線を外すと、前を歩くモニカとレベッカに向けてそう言った。
すると2人は、まったく同じタイミングで後ろを振り返る。
さすがは双子、ばっちりシンクロというところか。
「ユリさんは、父のことやうちのお店のことをご存じなんですか?」
「ははは、そら知っとるがな。ヴァレンティーノいうたら、商会筋ではけっこう有名やからな。『店はちっこいけど、仕事は丁寧。服飾一筋の頑固一徹、ヴァレンティーノに任せとけ』っちゅうて、王都でも高く評価されとる老舗やで?あんたら自分家のことやのに、知らんのかいな?」
ユリは右手の人差し指を立てながら、ヴァレンティーノ服飾店について語り始めた。
「5年くらい前な、とある商会の裏工作で、王都中の色んな店からいきなり取引断られて、うちの商会が潰れかけたことがあったんやけどな。そん時もヴァレンティーノさんとこは、他の人らに迎合せんと、いつもどおりの取引を続けてくれた数少ないお店の1つなんや。今でもうちはヴァレンティーノさんとこの店には足向けて寝られへんねん」
モニカとレベッカは、あまり実家のお店の評判などは気にしたことがなかったのか、ユリからの思わぬ高評価に少し顔を赤くしながら、しかしとても嬉しそうにユリの説明に聞き入っていた。
「そ、そんなことがあったなんて全然知らなかった…。お父さんもお母さんも、家ではそんな話全然しないんだもん。でもそういえば、時々お父さんが怖そうな人たちをお店から叩き出してたような気も…。ふふふ、でもユリさんにそう言ってもらえると、何だかとても誇らしい気持ち。ねぇ、レベッカ」
「ええ、モニカ。私も今まったく同じことを言おうと思っていました。ふふふ」
ふむふむ、成程ね。
ワッツやガラテアさんと同じで、仕事一筋の昔気質の職人さんってとこか。
(はっ!?けど、ちょっと待てよ…?む、昔気質の頑固一徹!?これ、例によってちょっとやばくない…!?)
俺ったらつい調子に乗って、モニカとレベッカにけっこうきつい訓練させてたぞ!?
ま、万が一強面の親父さんに『話は聞いたぞ!うちの大事な娘たちに、何度もゲロを吐かせてくれてらしいな!お礼にその口を縫い合わせちゃろうか!おぉ!?』何て言われたらどうしましょ…!
あ、あわわわわ…。
リアルお口チャック状態を想像しながら、俺はムンクの叫びよろしく、左右の頬にそれぞれ手を当てて青くなる。
ユリはそんな俺を意にも介さず、小さくため息をついて話を続ける。
「…けど、実はちょっとようない話も聞いとるねん…。ヴァレンティーノさんのお店、その…、言いにくいんやけど、今あんまり経営が上手くいってへんのやろ?」
「……」
先ほどまでの和やかな雰囲気から一転、ユリは伏し目がちにモニカとレベッカを見た。
2人はその場で足を止めると、同時に視線を落とす。
「実はな、うちのおとんからあんたらのご両親に、お声掛けしたことあんねん。エチゼンヤ商会のグループの傘下になりませんか、言うてな」
「えっ…」
レベッカはハッとして顔を上げた。
初耳だったのだろう、モニカも目を丸くしている。
「もちろん傘下っちゅうのは形だけや。うちらは前にえらい助けてもろた身やからな。形だけそないしてくれたら、経営に関して援助もできるし…」
顎に手を当てて目を閉じていたユリは、片目を開いて続けた。
「そっちのお店の借金かて、何とかできるしなぁ」
「「……!」」
「せやけど、おとんがなんぼ言うても、ご両親は首を縦に振らはらへんかったらしくてな。『別に我々はエチゼンヤさんを助けたわけではなく、商人として当たり前の選択をしただけです』って言わはったらしいんや…」
モニカとレベッカは2人で顔を見合わせると、肩をすくめて少し困ったようにはにかんだ。
「…はい。私たちの両親なら、きっとそう言うと思います」
俺は軽くシロにもたれかかりながら、じっとユリたちの話に耳を傾ける。
彼女たちの話からも、ご両親の真面目で実直な人柄が伝わってくるようだ。
「まあ、そんな経緯もあって、うちらはこれまでどおり、お互いにええ付き合いをさせてもろとったんやわ。例の生糸の話も、もっとはよできたらよかったんやけど、ちょっと出所に訳ありやからな…。堪忍やで?」
「お気になさらず、ユリさん。レイン君絡みのことですし、どうせ想像の斜め上をいく理由なのですよね?」
両手を合わせて申し訳なさそうに謝るユリに対し、レベッカは笑顔でそう言った。
「たっは〜っ!そやねん、そのとおりやねん!!ようわかっとるやん、レベッカちゃん!そんな案件ばっかり持ち込まれて文句の1つも言わんと、うまいこと捌きながら儲けを出しとるうちの苦労わかってくれる〜?」
「あっ!私もそれわかります!この間だって…」
「うへぇ!?ほんまかいな!そら鬼やな…!」
「他にもありますよ、つい先日も…」
「ひぇ〜!やっば!もうそれ人間やめとるレベルやん!」
ユリ、モニカ、レベッカの3人は、共通の話題に意気投合したのか、手を取り合って盛り上がりはじめた。
どうやら誰か1人のことを、人外だの本当は魔獣だのと、揶揄しながら喜んでいるらしい。
…魔獣より怖い思い、させてやろうか?
(ま、ちょっと暗かった雰囲気も明るくなったし、今回は良しとするか)
そんな風に、俺が苦笑いを浮かべながら、ため息をついたその時の出来事だった。
「…スンスン…スンスン…、ワン!?ワンワンワンワン!!」
何かの臭いを嗅ぎつけたのか、突然シロが鼻をヒクヒクさせたかと思うと、けたたましく吠え始めたのだ。
「い、いきなりどうしたんだシロ…?この先に何かあるのか…?」
そして次の瞬間———。
ドオォ———ンッッ!!
「うぉっ!?なっ、何だ!?」
「ばっ、ばば、爆発!?この先からやで!!」
「「……!」」
突如、俺たちの進む方向から、何かが爆発したような、大きな音が鳴り響いた。
そしてまもなく、路地の向こう側から黒い煙がもうもうと立ち昇り始めたのだ。
(な、何だこれ…?すごく嫌な予感がする…!)
「僕はシロと先に行く!3人は後から来て!」
俺はそう叫ぶとサッとシロに跨り、その場を駆け出そうとしたのだが…。
「待ってレイン君!お願い!私とレベッカも連れて行って!」
「あそこは…、あっちの方向には私たちの家があるんです!お願いします!!」
モニカとレベッカは、鬼気迫る表情で俺に訴えかける。
…むぅ〜、仕方ない。
「よし、2人ともシロに乗って!ユリさん!ユリさんは憲兵隊への連絡と、店で鼻提灯を膨らませてるイザベルさんを叩き起こして、エチゼンヤ自主警備部隊を数名出動させて、野次馬の整理をお願い!」
「よっしゃ!任しといて!!」
俺は、その場から駆け足で離れていくユリの後ろ姿から視線を戻すと、ますます高く黒く立ち昇る煙を睨みつけた。
そして自分の後方で、モニカとレベッカがしっかりとシロに跨っていることを確認した俺は、シロの頭を一撫でする。
「悪いなシロ、ちょっと重いだろうけど、頼んだぞ?んじゃあ2人とも、振り落とされないよう、しっかり掴まっててよ?」
「アオ———ン!」
シロは空に向かって大きく吠えると、力強く地面を蹴った。
「……お父さん、お母さん、どうか無事でいて……」
背中越しに聞こえたモニカの不安そうな声に、俺は両手の拳をギュッと握りしめた。
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