第120話 王都へ行こう!
王都へ向かうべく、列車に乗るレインたちの前に現れたのは…?
第120話、よろしくお願いいたします。
ガタン…ゴトン…。
ガタン…ゴトン…。
ガタン…ゴトン…!
ガタン…ゴトン…!
「うおぉぉっ!?すげぇ…!レイン、この列車ってやつ…、マジですげぇな…!!」
「ちょっ…!はっ、速すぎではないかレインフォード!?ひっ、ひええ…!?揺れる…、揺れるぅ!!」
小さな子供のようにはしゃぐエドガーや訓練以上に顔を真っ青にするクリントンの声を置き去りに、長い長い地下トンネルの中に敷かれた線路の上を列車は高速度で進んでいく。
そう、俺たちは今王都と魔法学校を繋ぐ列車に乗って絶賛移動中である。
先日俺は、モニカやレベッカを王都に連れて行くと約束したため、週末の連休を使って王都へと繰り出すことに決めたのだ。
メンバーはエドガー、クリントン、モニカとレベッカに俺とシロ。
クロウは従者のルナレイアとともに何か所用があるらしく、シルヴィアは「うるさい場所は好かん」などと言って同行を拒否した。
だがクロウはいいとしても、好奇心旺盛でどこにでも付いてこようとするシルヴィアに関しては珍しいこともあるものだ。
また、なんちゃって風紀委員が今さらながら規則規則とうるさいため、申し訳程度に週末の夕刻に理事長の所在を確認したところ、既に外出しており来週まで戻らないとのことであった。
うん、外出許可を取りたかったのに物理的に許可が取れない状態だったので、これは仕方がないよね!
ま、実際はサイモン教授等の代理決裁も可能ではあったのだが、そこはそれ。
こそっと行ってササッと帰ってくれば、無断外出がバレて叱られるはずなどないしね!
(ぅおっと、変なこと口走っちゃったな。落ち着け、落ち着け俺…。自ら変なフラグを立てゃうとこだったぜ…!)
「ふっ…、何をブツブツ言っているのだ、レイン」
ふと、運転席で列車のハンドルを操作するヴィンセントがこちらを振り向いて笑いかけてくる。
ヴィンセントが握るハンドルには、威力を調整した火と風の合成魔法を仕込んだ魔石が封入されており、そこに魔力を注入して爆発と爆風の推進力を利用することにより、列車は安定して走行している。
…もちろんこれらのシステムは、かつてのワッツや俺の尊い犠牲があってこそのものなのだが…。
…痛てててて…、思い出すだけで痛いぜ…。
「いえ、ご心配なくヴィニー。久しぶりの王都なので、年甲斐もなくちょっとワクワクしてしまいましてね」
俺は座席に腰掛けたまま、にっこり笑いながらそう答えた。
「…年甲斐もなく、か。いつもながら少々趣のある言い回しだな」
…んなこと言ったってさ、かわいい俺の中身は本年で満41歳のおっさんなんだし?
でもおっさんでもワクワクすることには変わりないもんね!
色んな屋台食べ歩きとか~?
珍しい魔道具の買い物とか~?
はたまた偶然出会うお金儲けの話とか~?
にゃはははははは!
そういうことを想像するだけでワクワクが止まらないぜ!!
その時俺の向かい側から、飲み会でいい感じに出来上がったおっさんが発するような、無遠慮かつ品のない大きな笑い声か響いた。
「なっはっはっはっ!ほっときな、ヴィー!!この坊やがニコニコしながら腹ん中でわけのわからんことを考えてんのは、いつものことさね!」
「ふふっ、確かにそのとおりですね、イザベル殿」
3人分の座席を1人で占領し、両手両脚を存分に伸ばしながらふんぞり返って座っているのはゴリベルだ。
そんなイザベルとヴィンセントはお互いに顔を見合わせ、何やらにこにこと微笑み合っている。
(…ヴィー…?ゴリベルの奴、ヴィンセントのことヴィーなんて呼んでんのか…??)
「ねぇねぇレベッカ、今のって~……(ヒソヒソ)」
「え?…うんうん……キャッ!(チラチラ)」
二人の様子を興味深そうに見るお年頃の女子たちの視線に気が付いたのか、ヴィンセントは大きく咳払いをすると、片目をつむりながら再び俺の方へと目を向けた。
…どうでもいいけど、危ないからちゃんと前も見てくれよな?
「ゴホン!…と、ところでレイン、このトンネルなのだが…。我々は本当に前と同じトンネル内を走行しているのか…?先日イザベル殿と私が魔法学校へと赴いた時とは、また別物に見えるのだが…?」
「あっ…、それは…。えっと、どうでしょうねぇ…?整備に当たってくれてるアリさんとかが、なんか突然やる気出しちゃったのかなぁ…?」
そう言いながらヴィンセントが少し列車の速度を緩めたため、俺は頬をポリポリとかきながら視線を上へ向けた。
(はぁ、成程…。ま、これじゃあそう思うのも無理ないよなぁ…)
ため息をつきながら見上げる俺の視界に飛び込んできたのは、あまりにも細かく、そしてあまりにも美しく作り込まれたトンネルの内部だった。
俺も詳しくは知らないが、確か前世でドーリア式だとかイオニア式だとか呼ばれていた気がするギリシャの建築様式を思わせるようなそれが、壁や天井は当然のこと、所どころ設置された柱や光源として光の魔石を置いてある台座の1つひとつに至るまで、完璧かつ詳細に施されていたのだ。
最早魔石の台座1つとっても、それそのものが超一級の美術工芸品だといっても過言ではない。
おそらくユリあたりがそれを見れば『これ1個だけ売ってもかまへん?…お願い!あれやったら、ほんの先っちょだけ、先っちょだけでもええから!』などと言って強引に持ち去ろうとする光景がアリアリと目に浮かぶ。
…アリさんだけに?ププッ!
「…うふふ、気に入っていただけましたか?ですがこの程度、今の私にとってはお安い御用にございます」
「「「!?」」」
――その時、突然俺の横から柔らかな女性の声が響いた。
ふんわりと優しいトーンで発せられたその声はとても落ち着いたもので、あたかも最初から俺たち3人の会話に加わっていたかのように、一片の違和感すら感じさせないほどのものだった。
「何者!?」
ギュイィィィィィ…!!
ガタガタガタガタ…!!
ヴィンセントは咄嗟に振り返り、腰に提げたエクスカリバーに手をかける。
同時に列車を制御していた魔力が乱れ、耳障りな音とともに急ブレーキがかかり、車両が激しく揺れた。
「「きゃあああ!?」」
「おわわわわぁっ!?おっ、落ちる~!!」
パシィッ!
「ぐっ!?だっ、大丈夫かクリントン!!」
抱き合って衝撃に耐えるモニカやレベッカ、そしてバランスを崩して列車から落ちそうになったクリントンの手を間一髪のところでエドガーが掴み、事なきを得る。
「…アタシらに気配すら感じさせないとは、アンタただもんじゃないねぇ…?一体どこのどちらさんだい…?」
腰を深く落として構え、既に戦闘態勢MAXのイザベルが、俺の横に座る声の主に対して不敵に笑いながら静かにつぶやいた。
だがその表情とは対照的に、額からは大粒の汗が流れ出ている。
相手の柔らかな声の裏に潜む、底知れぬ強大な魔力を感じ取っているのかもしれない。
「あら…?うふふふ、皆様、驚かせてしまったようで大変申し訳ありません。申し遅れました、私は地下に住まう一族の次代の女王にございます。あぁ、名前はまだございませんが…」
「ち、地下に…」
「住まうだぁ~?」
そう。
突然現れ、何食わぬ顔で俺の横に座っていたのは、件のアリさんレディだった。
怪訝な表情で何かを察した様子のヴィンセントとイザベルが、苦笑いを浮かべて目を逸らす俺を見た。
2人の責めるような目が『またお前か…?』などと如実に物語っている。
「ご友人の方々とお見受けいたします。我が想い人にして未来の夫、レインフォード様といつも仲良くしてくださり、誠にありがとうございます」
アリさんレディはスッと立ち上がったかと思うと、姿勢を正して床ににちょんと座り、三つ指をついてヴィンセントたちに丁寧すぎるほどの挨拶をした。
「え…??あ、あぁ…。いや、こちらこそ…」
アリさんレディの突然の行動にヴィンセントは何が何だかわからないまま、目を泳がせながらも丁寧にお辞儀を返す。
「はぁぁ…、またぞろ坊や案件かい。びっくりして損したよ。…アタシもまだまだ、修行が足りないねぇ…」
イザベルは、ドカッ!と座席に腰を下ろして両脚を投げ出すと、額の汗を拭いながら天井を仰いだ。
徐々にそのスピードを落とす列車内は、丁寧なご挨拶を続けるアリさんレディにポカンと口を開けたままのヴィンセントや脱力しきったイザベル、そしてぐったりして目を回すエドガーたちと安定の爆睡状態のシロというカオスな状況に…。
「は…ははは…。い、いや~、ちゃんと説明してませんでしたが、これには海より深い訳が…」
頭の後ろをポリポリかきながら笑ってごまかす俺の足の下から、キィ~…という情けないブレーキ音が響き、静かに列車は停止したのだった。
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